新型コロナウイルスの影響もあり、2020年はテレワークが多くの企業に普及した。その一方で導入したまではいいが、その後の運用が上手くいかないケースもあると聞く。

信用調査会社の「東京商工リサーチ」の調査によると、導入した企業の約4分の1が、その後に取りやめてしまったという結果も出ていて、編集部でも取り上げている。

(参考記事:導入したテレワークを4分の1の企業が今は断念...「コロナ前」の働き方に戻る企業の共通点

これまでとは異なる働き方であること、コロナ禍の混乱があることを考えれば、導入に失敗する企業があっても不思議ではない。それでは、成功と失敗を分ける要因はどこにあるのだろう。

所属スタッフ約700人全員がリモートワークという、総合人材サービス企業「キャスター」(本社・宮崎県西都市)の働き方にヒントを探ってみる。

フルリモートでの仕事が当たり前

キャスターの社業は、オンラインアシスタントをはじめとする人材事業サービス。日常的な雑務から専門分野まで、企業が抱える幅広い業務をオンラインで委託できることを強みに、これまで1700社以上をサポートしつつ、事業を拡大してきた。

そして特徴的なのが、2014年の創業時から全スタッフがリモートで働いていることだ。担当業務などでの違いはあるが、勤務時間は9:00~18:00が基本。スタッフに出社義務はなく、仕事は自宅からフルリモートで行うのが当たり前という。

仕事は自宅からが当たり前(画像はイメージ)
仕事は自宅からが当たり前(画像はイメージ)
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例えば、企業の秘書、人事、経理、サイト運用などの代行サービス「CASTER BIZ」であれば、クライアントの依頼内容に応じて、各地のメンバーが遠隔でチームを組んで職務を代行する。企業側の要望や進捗状況の管理などは、チャットツールなどでやり取りが行われるという。

(提供:キャスター)
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また、キャスターは人材採用もオンラインで行っていて、フルリモートの働き方には、居住地に縛られない魅力もある。地方でも都市圏でも、採用面や待遇面の環境が変わらない。地方にいながら、都市圏の業務に携わることもでき、都市在住者と同じ対価を得られる。

広報担当者によると、スタッフは全国の45都道府県に居住し、このうち約8割が東京都外に在住。ネット環境とパソコンがあれば仕事はできるため、地方に生活拠点を移した人も多いという。

(提供:キャスター)
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6年以上も前からフルリモートの環境を実現していることになるが、コロナ禍で企業がリモートワークを実現したいときには、何に注意すべきなのだろうか。キャスターの担当者に伺った。

リモートで企業が受ける4つのメリット

――なぜ、フルリモートで働ける企業が生まれた?

当社の代表取締役・中川祥太が、前職でクラウドワーカーと仕事をする機会があり、待遇の悪さに問題意識を感じたことがきっかけです。リモートワークでも当たり前に仕事ができるように、就業機会を提供していきたいという想いから創業しました。

(提供:キャスター)
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――導入側として、感じたリモートのメリットは?

労働者側だと最大のメリットは、移動時間が削減されることでの生産性向上でしょう。例えば、1日あたり通勤に2時間かけていた場合、空いた時間を使って趣味を充実させること、家族との時間を大切にすること、パラレルワークや勉強することなど、さまざまな取り組みをすることができます。

――企業側としてのメリットはどう?

企業側には大きく、(1)「コストダウン」、(2)「採用力の向上」、(3)「生産性の向上」、(4)「事業継続性の担保」という4つのメリットがあると思います。順番に説明すると、コストダウンはオフィスが必要なくなることで、賃料や移転などにかかる費用、従業員に支給する通勤費を削減することができること。採用力の向上は、居住地域に関係なく採用を拡大できることです。

生産性の向上は文字通り、働き手の生産性向上が企業の生産性向上にもつながることです。例えば、営業活動をクライアントの直接訪問からウェブ商談に切り替えることで、1日の商談件数が3社だったところを、5社に増やすようなこともできます。

事業継続性の担保は、コロナ禍はもちろんのこと、地震や台風などの災害時にも事業が続けられるということです。仕事のために人が集まる場所に行かなくてもよくなることで、感染症の罹患罹患率も低くなります。災害が起きたときも、被害を受けてない他の地域から勤務できることで、勤務不可となる従業員の割合を少なくすることもできます。

――逆にデメリットに思うことは?

企業側と労働者側、双方のデメリット(注意点)ですが、働きすぎてしまうことですね。いつでも仕事ができる状態にあることで、労働時間が伸びることがあり得ます。リモートを導入する場合は、労働者個人が気を付けつつ、企業側も18:00以降はお客さまと連絡することを禁止する、残業が多い場合は人事からアラートを出すといった、工夫を取り入れることが必要だと思います。

リモートを支える仕組みが必要

――リモートをやめる企業もあるが、何が成功と失敗を分ける?

リモートの導入が上手くいかない場合、まず考えられるのは、コロナ禍という緊急事態で十分な準備期間を取ることができなかったケースです。そうした企業は、社内データにアクセスできない、社外でネットやPCを利用できる環境が整っていないなどの問題を抱えていることが多いです。

その次に課題となるのが、コミュニケーションとワークフローの部分です。リモート上でコミュニケーションを取れたり、業務を完結できるような仕組みがなければ、リモートワーク自体が形骸化したり、生産性が下がったと感じることもあるはずです。

――企業はどんなことに注意すべき?

例えば、メールや電話のみだと十分な意思疎通は難しいので、チャットツールやWeb会議ツールを導入することも必要だと思います。また、営業担当がオンラインで商談していたとしても、請求書や契約書の発行が紙で行われていると、結局は出社しなければならない…ということもありますので、業務のプロセスごとにリモート化する方法を考える必要があるでしょう。

(提供:キャスター)
(提供:キャスター)

――労働者の管理で気を付けることはある?

リモートの導入により、働き手が疑心暗鬼になることはあり得ると思います。今まで見えていた姿が見えなくなることで、不安に感じる人も一定数いるはずです。ここの解決策としては、業務とプロセス、その結果の管理などを“見える化”することが重要だと思います。

具体的には、リモートでもお互いの業務状況を共有しあったり、コミュニケーションを部門・チーム単位でのグループチャットで行ったりすると、お互いの様子も見えやすくなると思います。誰が何をしていて、どの程度時間がかかることなどが見えることが、疑心暗鬼を解消する第一歩です。

――キャスターが成功した理由は?

当社を成功とするのはおこがましいですが、企業目標と事業展開、実際の働き方が一貫しているところはあると思います。具体的には「リモートワークを当たり前に」と掲げていながら、出社して働いていたり事業がリモートに適していなかったら、それは働き手とのギャップとなるでしょう。

コロナ禍はリモートワークにも影響

――キャスターにはコロナ禍の影響はあった?

当社は「Caster Anywhere」という、リモートワーク導入のコンサルティングサービスも展開しているのですが、こちらの相談が急増しました。これまでは、中長期または五輪に向けて導入を考えたいという声が多かったのですが、コロナ禍で導入を急ぐ企業が増えた印象です。

実際の働き方という点では、リモートワーク自体に変化はありませんが、学校などが休校・休園となったことで、従業員に一定の負荷がかかりました。子供が家にいて、コワーキングスペースなどに行くことも難しい状況では、仕事に集中することは難しいです。企業側としては、負荷軽減のため、小さい子供がいる従業員向けに特別休暇を付与しました。

――リモート導入を考える企業にアドバイスを。

実際の企業に話を聞くと、人事制度やセキュリティなどにリスクを感じて、導入に踏み出せないところも多いです。リモートの課題は導入して分かることも多いので、挑戦して感じた課題を一つずつ解決することが、成功のポイントではないでしょうか。

(提供:キャスター)
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リモートワークの導入にはメリットがあるが、それを支える仕組みがなければ働き手の不安を招いてしまうこともあるようだ。導入を検討している企業は、自社の事業がリモートに向いているか、働き手が出社しなくてもやっていけるよう業務のプロセスを見直せるかをよく考えてから、取り掛かるべきだろう。
 

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プライムオンライン編集部
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