モノづくりの街・北九州市の大学生が、持てる技術を全て注いでレーシングカーを手作りしている。目指すは、スピードや耐久性などを競う『学生フォーミュラ日本大会』。0.1秒の短縮、1グラムの軽量化実現に拘り、理想のマシンと走りを追求する学生たちの姿を追った。
九州工業大学『KIT-FORMULA』
風力の抵抗など、計算され尽くした美しい流線型のフォルム。コース内の最高時速は、90キロ。スピードを追い求めるため、車体は、オープンホイールでオープンコックピット。それが、フォーミュラカーだ。

このマシンを作り上げたのは、これまで数多くのカーエンジニアを送り出してきた九州工業大学(福岡・北九州市)の学生フォーミュラチーム「KIT-FORMULA」。

タイヤとエンジン以外、2000以上もあるパーツのほぼ全てをチームのメンバーが、設計、製作した。

チームは、2004年に結成され、現在は55人が所属。愛知県で開催される学生カーレースの最高峰『学生フォーミュラ日本大会』に出場を予定している。

大会は、学生で組織されたチームが、1年間でフォーミュラスタイルのレーシングマシンを設計・製作し、その性能と企画力、技術力などを総合的に競うもの。

元々は、学生たちに「モノづくり」の機会を与えるために1981年にアメリカで始まった競技会だ。

ドライバーを務める大学院1年生の曽我井天信さん(22)は、チーム全体をサポートするプロジェクトマネージャーも担っている。今のマシンの調整と走りに手応えを感じているという。

目指すは過去最高となる7位以内
チーム結成20年の節目となった2024年の大会では、80チーム中9位と、目標の1桁台での順位を獲得した。

しかし、曽我井さんは「正直、悔しいところもあったので、今大会では、絶対に最高のパフォーマンスを引き出せるよう、炎天下、マシンのテストを繰り返している」と本来の実力を発揮できなかったと悔しさを滲ませる。2025年の大会で目指しているのは、過去最高となる7位以上だ。
学生フォーミュラ日本大会に挑む『KIT-FORMULA』のマシンは、『KS-21』。4サイクルエンジンで、排気量は710cc以下と規定されている。

曽我井さんは、『意のままに操る1台』というコンセプトの下、ドライバーが本当に自分の手足の様にコースを走る事ができるようハンドル操作をアシストする電子制御を導入。更に、運転に集中できるようにメーター類をハンドルに集約した。

「前年の車両は、全体的に完成度は高かったが、ハンドルが重かったり、エンジン周りの不調でうまくパワーを出せなかったりした部分があったので、今回は、そういう点を徹底的に改善して本当に速い車を作り上げました」と曽我井さんは、リベンジを誓う。

更に、スピードを追求するため、1つ1つの部品を見直し、大幅な軽量化も実現した。そうした努力の積み重ねで、700メートルのコースタイムは、42秒台。前年のベストタイムを3秒以上も更新した。

0.5度のずれを2時間かけて…
この日、車輪の取り付け角度について、サスペンションリーダーの岸本康太郎さん(21)が、わずかなズレに気づいた。

「え?めっちゃ、ここズレてる。今は0.5度くらいズレてます」と声を上げると、ドライバーの曽我井さんが、「0.5度のズレでも、走行していたら車の挙動に変化があったり、感じる」とすぐに応じる。テスト走行で生じた0.5度のズレを、2時間以上かけてメンバーが急きょ、修正することに…。こうした細部への拘りが、速さと安定性に繋がるのだ。

更なる高みを目指すチームのメンバー。当然ながら全員が大のクルマ好き。部室に寝泊まりすることもしばしばで、学生生活の殆どの時間をフォーミュラカーに注ぎ込んでいる。チームリーダーの渡邊航志さん(22)は、「部品1つ1つ、違う人が設計しているので、本当に1個1個、拘りがあると思う。ずっと話していられるくらいに」と昼夜問わず、学生生活のほとんどの時間をフォーミュラカーに費やしているメンバー達の熱い思いを口にした。

「ガソリン車のわくわくする感じが好き」
徳島県の高等専門学校を卒業後、九州工業大学に編入した曽我井さんの部屋も車で溢れている。テレビを置く台の替わりに、車のタイヤを積み重ね、プラモデルやミニカーも、所狭しと並べられている。

「ガソリン車の、わくわくする感じが好き」と話す曽我井さんは、物心ついた3歳の頃から車作りを夢見ていたという。「学生フォーミュラの活動がしたくて九州工業大学を選んで入ってきた。やっぱり好きな車にずっと向き合える生活は、めちゃくちゃ楽しい。正直、ずっとこのままでいいです」と曽我井さんは笑う。

大会を1か月後に控えた8月14日。福岡県のトヨタ自動車九州宮田工場では、九州から大会に出場する4チームの合同試走会が行われた。

「普段、自分達ばかりで走っているので、車両が多いと盛り上がるというか、楽しいです」と曽我井さんは話す。
「もっと高い所を目指したい」
2周回ごとにメカニックとやりとりし、“足回り”を中心に調整を続ける曽我井さん。「操舵反力が重いっていうのが第1印象かな。スーって切れるけど、戻す所がグッグッてなるような感じ。マイルドじゃない」と実際に運転した感触をメカニックに伝える。

試走会に参加した各チームが、アスファルトを焼く炎天下、実戦形式の調整に全力を注ぐ。微調整に次ぐ、微調整の連続だ。

曽我井さんたちが作り上げてきたマシン『KS-21』。他のチームは、その走りをどう見ているのか?崇城大学の宮本奏さんは、「急なカーブがあるんですが、そこでもクイックに曲がっていて、安定性を感じる」と話すと、久留米工業大学の馬原晨成さんも「完成度が高い車だという印象」と評価は上々だ。他チームからもライバル視される存在となっている。

9月8日から愛知県で開催される『学生フォーミュラ日本大会』。九州工業大学のチーム『KIT-FORMULA』は、過去最高順位を更新する7位以上を目標に掲げているが、曽我井さんは、「車の性能としては内心、もっと高い所を目指したい」と更なる上位も狙っている。
(テレビ西日本)