2020年8月、福岡市の商業施設で21歳の女性の未来が突然、奪われた。当時15歳だった少年に刺殺されたのだ。事件から5年。娘を失った母親が、今も癒えることのない思いを明かした。

娘を奪われた母親の心の叫び

「時間が経つにつれ、悲しみは深まり、日常にぽっかり空いた穴は埋まることはありません。悲しみで心が引き裂かれそうになり、考えるほど理不尽で、悔しい思いでいっぱいです」

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報道関係者に配布された1枚の文書。コメントを寄せたのは福岡県内に住む50代の女性。5年前に突然、命を奪われた21歳の女性の母親だ。

事件が起きたのは2020年8月28日。福岡市中央区の商業施設を訪れていた21歳の女性が、わいせつ目的で近づいてきた当時15歳の少年に包丁で十数回刺され、殺害された。

体には14センチに達する深い傷も残されていた。

元少年の特異な家庭環境が明らかに

事件から2年後の2022年7月、福岡地裁で始まった元少年の裁判員裁判。当時15歳の少年の裁判が、公開というかたちで行われるということは異例だった。

法廷で明らかになったのは元少年の特異な家庭環境。元少年の父親は、家に余り居ることはなく、母親は家事と育児の能力が低かったという。

元少年は、小学3年生になると施設に送られ、その後、少年院に入所。そして事件の2日前、少年院を仮退院した元少年は、母親が引き取りを拒否したため福岡県内の更生保護施設に移った。

しかしその翌日、施設を脱走し、福岡市に移動。事件を起こしたのだ。

少年「女性の姿が母親と重なった」

法廷で元少年は犯行時に、自首をすすめてきた21歳の女性の姿が、自分を引き取らなかった母親の姿と重なったと主張した。

「少年院を出るとき、引き取り手として母のもとへ、と話が進んでいたのに、直前になって断られて、期待した気持ちが強かったので、その気持ちが重なった。(女性と)母親と姿が重なり怒ってしまいました」

この点について女性の母親は「娘を殺害したときに『母親と重なった』とも刑事裁判で言っていました。加害者は事件当時、15歳で義務教育も終えていない子どもです。ずっと施設に預けられたままで、福祉を利用して育児放棄をされていたとしか思えません。加害者が育った家庭環境や事件に至る背景が、私たち遺族には未だに理解できません」と今回のコメントで言及している。

裁判では元少年の発言が揺れ動く場面もみられた。

少年「人間クズはクズのまま」

弁護側の被告人質問で、弁護側から謝罪の言葉はあるかと訪ねられた少年は「自分の勝手な行動に将来のことなど、いろんなものを自分の行いで奪ってしまったことは申し訳ないと思います」と答えたが、被害者側の弁護士が問うと、答えは一変した。

▼被害者側の代理人弁護士「被害者の命日を思い返したことは?」

▼少年「1秒もないです」

▼被害者側の代理人弁護士「被害者や遺族への謝罪の気持ちは?」

▼少年「…謝罪というのが、どういうのか分からないので特にない」

▼被害者側の代理人弁護士「更生したいと思うことは?」

▼少年「人間クズはクズのまま。変わらないと思う」

2022年7月25日。福岡地裁は「非常に凶悪な犯行」で「人格的な未熟さなどを理由に保護処分を受けることは社会的に許容し難い」として、元少年に懲役10年以上15年以下の不定期刑を言い渡し、その後、判決は確定した。

女性の遺族は2023年3月、元少年に対しては犯罪行為、少年の母親に対しては監督義務違反を理由に合わせて総額、約7800万円の損害賠償を求める民事裁判を起こす。

遺族感情を逆撫でする言葉

母親は、2024年12月の記者会見で「反省も何もしていないというか、逆に私たちの心を余計怒らせるようなことを言ったり、悔しさしかないです。何が原因でこういう事件を起こしたのか、きちんと犯人はもちろんそうですけど、母親にきちんと事件のことを向き合ってもらいたいんです」と訴えた。

21歳女性の母親(2024年12月)
21歳女性の母親(2024年12月)

女性の母親は訴訟を進めながら『心情等伝達制度』を使って元少年に娘を奪われた気持ちを伝えたが、返ってきた言葉は余りにも冷酷なものだった。

「人はあっけなく死ぬもんですね」

2025年3月、福岡地裁は元少年に対して約5400万円の支払いを命じた。しかし、元少年の母親に対しては「更生保護施設入所中の少年が、第三者の生命に危害を加える可能性は予見できなかった」として請求を棄却した。

女性の母親は、この判決を不服として控訴している。

母親「悔しくて、悲しくなる」

今回のコメントで女性の母親は「同じ親として思うことは、子どもに対して育児放棄をし、その子が事件を起こしたら、自分には何の責任もないという姿は親として間違っているということです。しっかり、加害者も、その親も、事件に向き合い、反省し、責任を認め、娘に償いながら生きてほしいです。母親に監督義務違反はあります。責任は無いなんて神様は許しません」と記している。

遺族側の弁護士によると判決で損害賠償が命じられたものの、元少年からの支払いは、一切ないという。

「加害者本人に責任があるといっても、実際には弁済能力なんかないでしょう。支払う意思さえありません。15歳の加害者の親には責任がないということになると、被害者は実際には何の償いも受けられず見捨てられることになります。それでいいと考えているのが司法の立場なのでしょうか。ひどい話です。考えれば考えるほど、悔しくて、悲しくなってきます」

遺族が元少年の母親に損害賠償を求めた控訴審の第1回弁論は、9月12日に開かれる予定になっている。

(テレビ西日本)

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