延長タイブレークの激闘 あと一歩及ばず
第107回全国高校野球選手権。仙台育英(宮城)は8月17日、沖縄尚学との三回戦に延長タイブレークの末、3対5で惜敗した。2年ぶりのベスト8進出をかけた一戦は、11回151球を投げ抜いたエース吉川陽大投手の力投も実らず、終止符が打たれた。
しかし、敗戦の悔しさの中で語られた須江航監督の言葉が、SNSなどで静かな共感を集めている。

「人生最高の夜ふかし」ナイター試合への肯定
近年、甲子園では暑さ対策の都合上、試合の時間帯を朝・夕に分ける2部制が導入されている。夕方の試合は終了時刻が遅くなりがちだという一部批判もあるが、須江監督は試合後の取材でこう語った。
「人生最高の夜ふかしですよ。夏休みに友達と夜ふかししたんだっていう、最高の思い出じゃないですか。だから僕は肯定的に考えています」
この一言に、SNSでは「素敵な表現」「こういう大人になりたい」といったコメントが相次いだ。須江監督は「何でもやってみて判断すればいい」と、2部制導入やDH制など新しい取り組みにも柔軟な姿勢を見せていた。

控え選手への感謝「私が代表して言います」
試合後のミーティングでは、須江監督はベンチに入れなかった控え選手たちに向けて、深い感謝の言葉を口にした。
「本当に控えの子がいてくれるおかげなんですよ」
「自分が夢見た甲子園の舞台に立ちたかったという思いが消えることはない」
「それでもよくサポートしてくれたのは普通のことじゃない。改めて、控えの子は私が代表して言いますけど、最大限サポートしてくれてありがとうございました」
須江監督自身、高校・大学時代ともにレギュラーではなかった。野球人生の中で「敗者」の立場にあった経験が、いま指導者として選手に伝える力となっている。

「人生は敗者復活戦」主将の言葉にもにじむ誇り
3年生で主将の佐々木義恭選手も、仲間への思いを言葉にした。
「自分たちは日本一になれなかったけど、控えの3年生は日本一の控えの3年生」
「負けて良かったということは絶対に思わないけど、この仲間と野球ができたことが本当にうれしくて」
「(1・2年生は)周りの期待をプレッシャーに感じずに、力に変えて、3年生も含めてこれからの人生の糧にしてほしい」
須江監督が一貫して口にしてきた「人生は敗者復活戦」という言葉。それは単なる敗戦の慰めではない。競技の場を越え、人生そのものをどう生き抜くかという哲学でもある。

「青春って、すごく密なので…」記録にも記憶にも残る言葉
須江監督は2022年、仙台育英を東北勢初の優勝に導いた。優勝インタビューで語った「青春って、すごく密なので…」という言葉は、同年の「ユーキャン新語・流行語大賞」で選考委員特別賞を受賞。コロナ禍で制約の多い高校生活を送った生徒たちに向けた、心のこもったエールとして記憶されている。
「この3年間、多くの学生の皆さんがされていたように、知恵・情熱・工夫を持って今の現状に立ち向かってもらえれば、きっとコロナ禍が終わった世の中で、今、経験・体験・我慢したことが生きて、大きな花が咲くような人生が待っていると思う」
敗れても、下を向かない。語る言葉に、にじむのは悔しさだけではない。須江航監督が伝えようとしたのは、「勝敗を超えて、人は強くなれる」ということだ。
