毎年、熱戦が繰り広げられる“夏の甲子園”。高校球児たちが、憧れの舞台で躍動するなか、沖縄で新しい高校野球のかたちが芽生えつつあった。
陽の目を見ない場所に光を
2025年8月。“夏の甲子園”と同じ頃、全国から37人の高校球児たちが、沖縄・嘉手納町に集まった。そのユニホームはバラバラだ。

「将来はプロ野球選手になって活躍するというのが自分の将来の夢」と語る球児や「プロに入るだけじゃなくて、プロで通用する、勝てるピッチャーになりたい」と語る球児。皆、熱い気持ちを口にする。

彼らは2025年、“夏の甲子園”を逃した選手たち。沖縄で行われていたのは、もうひとつの高校野球『ジャパン・サマーリーグ』。今回が初めての開催となる。

「本当にやってよかったなと思っています」と話すのは仕掛け人の鷲崎一誠さん(33)。鷲崎さんは福岡・筑紫野市出身。元高校球児だった。

鷲崎さんは2022年、日本初の本格的な野球トライアウト『ジャパン・ウインターリーグ』を設立。3回目となった2024年は、NPBの3球団や社会人、さらには海外から140人もの選手が参加するなど、プロアマの垣根を超えた一大プラットフォームを作り上げている。

「超一流のプロでも『ウインターリーグ』のような機会が必要になってくる。チャンスを掴む場所が必要だと分かった。(これまでは)高校3年生を対象とする場所がない。地方大会初戦で負けたチームとか、そういう選手たちがもう一回、試合をやれる舞台があってもいいのではないかと思い、このリーグを立ち上げた」と鷲崎さんは話す。

ジャパン・サマーリーグは、甲子園に出場しない全国の高校3年生が自費で個人参加。プロや大学を目指す者、野球を継続するか悩む者、さまざまな思いを抱き1週間のリーグ戦を戦う。

かたちないものに勇気を出し参加
さらに、コーディネーターも配置している。野球を続けたい選手にとってコーチング力や知識を持っているトレーナーやアナリストの存在は、大きな魅力となっている。

そのなかには、福岡ソフトバンクホークスで2024年まで10年間、投手コーチを務めた佐久本昌広さん(51)の姿もあった。

「僕も高校のときに甲子園を夢見た1人ですが、甲子園には行けずに不完全燃焼で終わった。何とか完全燃焼できる舞台があるということは素晴らしい大会だと思う」と期待を寄せる。

試合後にはスキルアップを目的とした座学のプログラムも用意されるなど、高校生にとっては充実の内容だが、運営は簡単なことではない。

「サマーリーグは、高校野球学生野球憲章上のルールに則って行っている。運営は、主に参加費収入。クラウドファンディングや寄付で成り立たせていかないといけない」と運営の厳しさを口にする鷲崎さん。これまで大好きな野球を通して人との繋がりを広げて来た。

「1回目があって、次にどう取り組みを広げていくか。かたちがないものに勇気を出して参加するというのは、選手たちはなかなかできない。選手たちが日の目を浴びると確実にいいものだと理解をしてもらえる自信はある。来年以降は、参加選手数が伸びればと思っている」

野球好きの青年は、その信念と行動力で、野球界に新たな1ページを刻む。
(テレビ西日本)