7年前に亡くなった越前市出身の絵本作家・かこさとしさん。「だるまちゃんとてんぐちゃん」や「からすのパンやさん」など数多くの絵本を描き続け、今もなお、読む人の心をひきつけています。かこさんの死後、未発表の原稿が見つかり、このほど新作絵本が発表されました。題材はかこさんの作品では初めての「戦争」です。
 
戦後80年の今年、戦争の時代を生きたかこさんの思いをくみ取った家族が絵本を発刊しました。


◆未発表原稿を作品化

<絵本の一節>
「ふーん、えらいなあ。これから遠いところまでひとりで働きにいくのか。えらいなあ。それに、お父さんが死んでしまったのか。かわいそうだなあ」
 
「パポちゃん、いったいなにを感心しているんだい」
 
岩のあいだからでてきた、ヤドカリくんでした。
 
「うん、あの男の子のお父さん、いないんだってさ」
 
「そうだよ、お父さんの甚吉さんは戦争にいって、死んじゃったんだよ」

2025年2月に刊行された最新作の絵本「くらげのパポちゃん」です。
 
2018年に92歳で亡くなったかこさん。神奈川県藤沢市の自宅で発見された未発表の原稿に、孫の中島加名(かめい)さんが絵を描いて作品化しました。


◆かつて軍人を志したことを恥じ…

かこさんは大正15年(1926年)に生まれ、7歳までを越前市で過ごしました。
 
その後、東京へ移り住み太平洋戦争のさなか、学生生活を送ります。戦時中は軍人を志し、心身を鍛え、勉学に励んでいました。
 
かこさんは2015年に福井テレビの取材に応じた際、絵本作家を志した理由をこう話していました。「世の中のことを知らずに狭いところで判断したから、間違いが生じた。こういうことにならないような子供に育ってほしいし、外から導くのではなく応援団になりたい」
 
自らの戦争体験から、軍人を志した自分を恥じ、子供たちには自分のように誤った判断をしないよう、自分で考えて行動できるようにと手助けしたいという願いから、数々の著書を生み出しました。

◆「自分で判断できる子供に」が創作活動のベースに

越前市の「かこさとしふるさと絵本館らく」の福田紀美絵さんは「かこさんは戦争を体験し、大人の言いなりになったことを後悔していた。これからを生きる子供たちには、自分で考え判断できる子供にと、その思いが絵本を作るベースになっていた」と話します。

生涯を通して、戦争を題材にした絵本は作らなかったかこさんですが、戦後80年の今年、かこさんの残した原稿から家族が思いをくみ取り、作品作りに関わったことで、初めて戦争を題材にした絵本が刊行されました。
  
かつて、かこさんは未来を担う子供たちへ「世の中の動きや歴史なども身につけて、これからの人類がどう進むといいか、未来を開く人になってほしい。それが僕の願いです」とメッセージを残していました。
 
絵本には、かこさんが未来を託す子供たちへの思いが詰まっています。
 
企画展は9月1日まで開かれています。

福井テレビ
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