「割り込み禁止!中央の通路に並んでください。一定の距離を保って下さい」
日本のコンビニのレジ脇に貼られた「中国語と英語の貼り紙」が、中国のSNSで話題になっている。
「日本のコンビニって並ぶ場所が分かりづらい」
「中国人は割り込みをされないために前の人に近づいて並ぶ」
など様々なコメントが多数寄せられ、反響を呼んでいるという。
確かに日本のレジの並び方は少々ややこしい。
コンビニとスーパーで異なる場合が多いし、同じチェーン店でも店舗によって違う。
筆者は先日、スーパーで混みあったレジに並んでいた際、新たに開けられたレジに、隣の列の後方にいた人がササっと移って先に会計を済ませたのを見てモヤモヤ感を味わった。
「来店客が商品をレジに持ってきて決済する…実はこのシーンはお客さんの不満が最も発生する瞬間です。そして工夫次第でその不満を和らげ、売上げUPにつながるチャンスなのです」
と話すのは、長年、小売業のDX支援を手掛ける郡司昇氏。詳しく話を聞いた。
■「後から並んだ人が先に会計した」「待たされた」レジ待ちの不満いろいろ
【店舗のICT活用研究所代表 郡司昇氏】
来店客のレジ待ちへの不満は、主に下記のようなことがあります。
*時間への不満 「レジで長時間待たされた」
*不公平感「自分より後に並んだ人が先に会計した」
レジの並び方には大きく2種類、「並列並び(パラレル並び)」と「一列並び(フォーク並び)」の方式があります。
「並列並び」は、各レジに直接並ぶやり方で、食品スーパーなどで多く見られます。昔からある方式です。
「一列並び」は、レジが複数ある場合に、まず1列に並び、並びの先頭で各レジに分かれる方法です。
上から見た時に「フォーク」のように見えることから、「フォーク並び」とも呼ばれ、コンビニエンスストアや家電量販店、ドラッグストアなどの多くはこの方式です。
■不公平感じる「並列並び」 公平だけど時間ロス生じやすい「一列並び」
並列並びは、「列が短い」と思って並んでも、「前の客にアクシデント」や「レジの担当者が業務に慣れていない」といった要因で、「思ったより時間がかかった」「後から並んでいた人がいた人の方が早く進んだ」など、「不公平」を感じやすい並び方です。
その点、「一列並び」は、先に並んだ人が先に処理されるという、公平性を重視した並び方です。
レジ担当者同士のスピードの差が見えにくいことから、従業員へのプレッシャーが低いこともメリットと言えます。
しかし、デメリットもあります。レジ台数が多いと、どのレジが空いたか先頭の客が把握しにくく、時間のロスが発生してトータルの並び時間が長くなります。
また、待機の列が長くなることで、購入を諦めて帰る来店客が増加するといったことも起こります。
さらに、来店客がこの並び方のルールを把握できておらず、空いたレジに向かってしまい、割り込みが生じてしまうということもあります。
■解決策?「ハイブリッド並び」とは
これらの不満が解消される方法として最近、スーパーなどで増えているのが、「並列並び」と「一列並び」」の良い所を活かした「ハイブリッド方式」です。
これは、2台のレジに対して並び列を1列にする…例えば6つのレジが稼働していたとして、3列の並び列を作り、それぞれの列の先頭で左右2つのレジの空いた方に進むという方式です。
限られたスペースで「並列並び」の弱点「各レジの進み方による不公平感」と「一列並び」の弱点、「総待ち時間の増加」のを補完する仕組みと言えます。
また、お客様や従業員が少ない時間に、2台のレジの1台を閉めることで、人件費の節約になり、レジの集金もスムーズに行えます。
現金払いが多い日本のスーパーなど小売店では、レジにお金を貯めないよう営業時間中も何度かレジを閉めて集金をしなければいけません。
集金作業がスムーズにできるというので、ハイブリッド式の採用が増えている側面もあります。
「ハイブリッド方式」は自然発生的に始まり、「うちも取り入れよう」とスーパーを中心に広まっていっています。
■「ついで買い」客のイライラ抑え 店側は売り上げUPも
そして、レジ待ちの不満への解決策として、非常に有効な策が「“ついで買い商品”を並べる」ことです。
アメリカのウォルマートでは、レジ待ちの列を「低めの商品陳列棚」で区分し、様々な『ついで買い商品』を並べる工夫をしています。
興味を引く商品を並べることで、レジ待ち時間のイライラを解消し、ついで買いによって売上げも上がるのです。
原宿のコスメストアでも同様の工夫をしていました。
話題の商品など、「これ、なんだろう」と女性の興味を引くものを並べることで、客はレジ待ちの間も楽しめますし、店は売上げアップが期待できます。
■「セルフレジ」で浮いた人手を何に活かすか?
今後は「セルフレジがメインで、有人レジもありますよ」という形が主流になっていくと思います。
セルフレジの台頭で、レジの人手が少なくてすむようになります。
日本の場合、「最低賃金があがって人件費が大変だから、セルフレジを導入して人件費を減らせないかな」という視点が強いように思いますが、そうではありません。
「浮いた人員を、どうほかのサービスに活かすか」が重要になってくるのです。
例えばコンビニだと、ホットフードを増やす。
コンビニが何軒か並んでいる場合、ホットフードが充実しているお店に行ってみようかなという気持ちになります。
店内で作って売れていると活気が出てきますし、消費者は品揃えが良く元気な店で買い物ができます。
そしてそこは「選ばれる店」になっていくのです。
限られた人件費の中で、レジにかかる分を減らして他に回す。
その企業ならではの売り上げの上げ方に繋げていくことが、これからの大きな課題になると思います。
(店舗のICT活用研究所代表 郡司昇氏)