日本人の2人に1人がかかると言われる「がん」。中でも死亡率が高いとされているのが「すい臓がん」だ。すい臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、自覚症状があらわれにくいとされている。がんの早期発見を目指し、自宅で簡単にできる検査キットも開発され、注目されている。
■ワンコインで「がん検診」 すい臓がんの早期発見にも期待
名古屋市が行っている「ワンコインがん検診」は、大腸がんや肺がんなどを対象に、各検査を自己負担500円で受けることができる。
2025年2月から、政令市では初めて「腹部エコー検査」も、ワンコインで受けられるようになった。

腹部エコー検査では、肝臓、腎臓、胆のうなど多くの臓器を見ることができる。中でも期待されているのが、「すい臓がん」の早期発見だ。
名古屋市北区のクリニックでは、60代の男性が「腹部エコー検査」を受けていた。お腹にゼリーをつけ、超音波を出す機械を当てると、体の中をリアルタイムで見ることができる。
小林内科 小林邦生院長:
「すい臓に白い点がありますね。ちょっとだけ慢性すい炎みたいに炎症を起こした跡があるかもしれないです。見えている範囲では腫瘍とかはなかったです」
受診した60代男性:
「(受けるのは)初めてです。結構いろんなことが分かるんだなと思いました」

小林内科 小林邦生院長:
「すい臓がんはかなり見つけるのが大変なんですよ。見つけにくくて、死亡に至りやすいというがんになりますので、早く見つけることが大事だと思いますね」
■すい臓は「沈黙の臓器」…気づかぬうちに「がん」が進行
がんは日本人の2人に1人がなるとも言われている。
中でも死亡者が増えているのが「すい臓がん」で、2023年には4万人を超え、胃がんを抜き、3番目に多い“がん”となった。

市民:
「友達も1人、すい臓がんで亡くした。怖いね、見つからないからね」
別の市民:
「すい臓がんになったら助からないでしょうね。見つかったら運が悪かったということじゃない」
なぜ、すい臓がんが増えているのか?名古屋大学消化器内科学の川嶋啓揮教授は、こう指摘する。

川嶋啓揮教授:
「胃がんのピロリ菌とか、肝臓がんのC型肝炎とか、(すい臓がんは)原因がはっきり1対1でわかっていない。進行したすい臓がんは誰でも診断できますけど、早期すい臓がんは、CTなどで腫瘍として認識できないようなものを探していかなければいけないので、非常に見つけにくいです」

すい臓がんの主な症状には、腰痛や体重の減少などがあるが、初期は症状があらわれにくく、早期発見が難しいという。
ステージ4の5年生存率はわずか1.8%で、他の種類のがんに比べて低くなっている。
川嶋啓揮教授:
「手術ができる状態で発見される人はだいたい20%。『背中が痛い』とか『お腹が痛い』と病院に来ていただいて、検査をして膵臓がんですといった人の中で、手術ができる人はすごく少ない。新薬があまり、すい臓がんの世界では出てきていないんです」
すい臓は異常があっても症状が出にくく、「沈黙の臓器」と呼ばれている。自覚症状が出た時には、すでに手術が難しいことが多いため、「早期発見」が欠かせないという。

すい臓がんの早期発見を目指す動きは、全国に広がっている。広島県尾道市では2007年から、早期発見を目指すプロジェクトを行っている。
地域ぐるみで早期発見を目指す「尾道方式」と呼ばれ、かかりつけのクリニックでエコー検査を行い、さらに糖尿病や肥満、飲酒や喫煙の習慣などを調べ、すい臓がんのリスクが高いと判断されると中核病院を紹介され、より精密な検査を受ける。

かかりつけ医と大規模病院が連携することで、5年生存率は全国平均の8.5%に対し、尾道地域では21.4%と、大幅に高くなっている。
東海3県でも、三重県が「膵がん早期発見プロジェクト」を実施しているほか、愛知県でも愛知医科大学が地元の医師会と連携したプロジェクトを行うなど、全国50以上の地域で同様の取り組みが行われている。
■早期発見に「尿」が役立つ!? 手軽にできるメリットも
がんの「早期発見」へ、新たな研究も進んでいる。
2025年6月に行われた記者会見で、「尿」を使ったがんの検査キットで、早期のステージ0の肺がんを発見できたことが報告された。
北海道大学病院 加藤達哉教授:
「“おしっこ”はすごくいいものだと思っていまして、血液は病院に行かないと採れないが、“おしっこ”は家庭で採尿できる」
「尿」を使った検査キットは、名古屋大学発のベンチャー企業「クライフ」が開発した。痛みを伴わない、がんの早期発見を目指し、2022年に検査キット「マイシグナル」の販売を始めた。

検査の方法は簡単で、自宅などで尿を採取し、容器に詰め、冷蔵の宅配便で送る。
クライフでは、尿に含まれている「マイクロRNA」という物質から、がん細胞のサインをAIを使って検出する。

現在はすい臓がんなど10種類のがんを対象に、リスクを「低・中・高」の3段階で判定され、リスクが高いと判定された場合、速やかに精密検査を受けることを勧めている。

クライフ 坪井智子さん:
「血液だと早期のがんはとれないが、尿のマイクロRNAだと、早期のがんから分かる。尿であれば自宅で日々出るものなので、それを使ってがんの検査ができるところは、お客さまにとっても使いやすい」
「マイシグナル」はドラッグストアでも購入できる。保険適用外のため、価格は6万9300円と安くはないが、関心は高まっているという。

マイシグナルを購入した50代の男性に1カ月後、郵送で届いた結果を見せてもらうと、いずれのがんもリスクは低いとの判定だった。
検査を受けた50代男性:
「結果は特に問題なかったみたいですので安心しました。よかったです。病院に行かなくてできるというのは、非常に助かりますね。予約も大変ですし、それにかかる労力も、かなり大変な検査みたいなので」

すい臓がんの早期発見を目指し、医療は進化を続けているが、何より大切なのは、私たちの「心構え」だ。
名古屋大学 川嶋啓揮教授:
「『すい臓がんは早期発見すれば治るんだ』ということを知っていただいて、検診や人間ドックを能動的に受けていただく。自覚症状がないうちに検査することが大事」
2025年7月22日放送
(東海テレビ)