重さ1000~1800グラム。全臓器の中で最重量である肝臓は、食べものに含まれる栄養素を身体の細胞にとって使いやすくする代謝や、身体に有害な物質を体外へと排出する解毒などの役割を果たし、24時間365日休むことなく活動する働き者です。
そしてボクサーに喩えると、顎を打ち砕く強烈な一発ストレートに強いという特徴があります。例えば、心臓であれば激しい衝撃を受けると心筋梗塞となり、一発でノックアウト状態です。それに対して肝臓は、体積で7割に相当する部分を切り取ったとしても、3カ月後には体積も機能も元の状態に修復されます。
それもつるつるピカピカの“新品”として復活する。それほど大ダメージに強いのです。また、かすったくらいのパンチ、例えば毎日缶ビールを1本飲む「弱程度」の連続攻撃にも肝臓はビクともしません。
その反面、不思議なことにジョッキのビールを毎日4~5杯飲むといった「中程度」の連続攻撃に弱い。ボクシングで言うと、その時はあまり大したことがないように思えても後でじわじわと効いてくるボディブローの連打のような攻撃に弱いのです。
中程度の攻撃に弱い肝臓。しかし、沈黙の臓器と呼ばれる肝臓は最後まで悲鳴を上げないため、肝硬変等になるまで自覚症状が出ないケースが多く、痛みを感じることもありません。
「肝臓が硬く変化する」と書いて肝硬変です。健康な人の肝臓は焼く前の鶏のレバーのように赤く表面がツルッとしていて、弾力があります。一方、肝硬変になってしまった人の肝臓は、それで机を叩けばコンコンと音がするほど、まさに石のように硬くなっています。そんな状態になるまで音を上げずに頑張っている肝臓を、もっと労ってほしいのです。

尾形哲
日本外科学会専門医、日本消化外科学会専門医・指導医、日本肝臓学会専門医。現在は佐久市立国保浅間総合病院(長野県)の救急医療部長兼外科部長として、肥満・脂肪肝専門の「スマート外来」で診察を行う。著書に『肝臓から脂肪を落とす お酒と甘いものを一生楽しめる飲み方、食べ方』(KADOKAWA)等