コロナ禍を機に、人々の働き方や学び方は大きく変化した。栃木県宇都宮市在住の女性が、九州・宮崎県の講師からオンラインスクールで「動画編集」を学んだ後、単なる「作業者」にとどまらないステップアップをしている。企業のSNSによる情報発信ニーズが高まる中、作り手に求められる力や役割とは…?

トラックドライバーの世界を伝える動画

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「トラックは気軽な運転じゃねぇぞ」「トラックはとにかく時間厳守だ」トラック業界を知り尽くした人物からのメッセージ動画がTikTokにある。トラックドライバーの仕事について独特の雰囲気でトラックの世界を伝えている。動画を展開しているのは、栃木県宇都宮市に本社を構える従業員5人の運送会社「エイトカンパニー」

「マジで震える瞬間を教えてやる」という動画を見てみた。トラックを運転していて「震える瞬間」とは何だろう?動画では黒い服を着た男性がトラックの前に立ち、その瞬間について教えてくれる。凄みのあるタイトルから想像した、いかつい雰囲気ではなく、素朴で優しそうな声で「震える瞬間」について教えてくれる。

その瞬間とは、「風にあおられてハンドルを取られる」「フロントガラスに鳥がバコーンと当たってくる」「炎上するトラックの横を走り抜けなければならない事がある」など、確かに、そんなシーンに遭遇したら震えることは間違いない瞬間だ。

 他の動画では、「ピッタリ前進駐車に挑戦!」「半クラのコツ」「トラックの煤焼きって何?」など、トラックの事や業界の事を垣間見る事ができる。いっぽうで「若者飛び込んでこい」「引っ越し始めます」など、企業の求人や業務拡大をPRする動画も並んでいる。

動画制作 一番の目的は「求人」

動画に出演しているのは、エイトカンパニーの社長、鈴木巌太さん。社長自ら出演するという力の入れようだ。なぜこんな動画を作ろうと思ったのか?一番の理由は「求人」だという。

トラック業界は2024年問題、2025年問題に象徴される通り、深刻な人手不足に苦しんでいる。鈴木社長は、世間一般のトラックドライバーに対する「理解不足」も感じていて、これを少しでも解消したいという想いがあるという。またこの他にもBtoBでの営業、会社の認知のため。社長自らが出演することで、求職者や業者の人が、社長の人となりをわかる感じにしたいのだという。

社長は出たがり・・・?と思いきや、「めちゃくちゃ恥ずかしい。会社のためなので頑張っている」とのこと。出演時には髪をセットして髭を整え、恥ずかしさを忘れて、大きな声と大きな動きを心掛けているという。反響は?と聞くと、そこまで大きくはないものの、仕事関係者との間で話題になるなど、手ごたえを感じているそうだ。

フリーのクリエイターが動画制作をプロデュース

「エイトカンパニー」の動画を制作しているのは、地元在住でフリーのクリエイター、大伴優季(おおとも・ゆき)さん。大阪のゲーム会社やITエンジニアを経て、動画編集の世界に入った。

動画の中で「社長!」と呼びかける声やリアクションは、大伴さんのもの。社長との明るく楽しいやりとりが印象的。大伴さんが持ち前の明るさやコミュニケーション力の高さで世界観を作り上げているようだ。

鈴木社長も大伴さんについて、「楽しい人。やりやすく、スムーズに一緒に仕事をしている」と話す。恥ずかしさを抑えて頑張っているという鈴木社長、撮影時には噛んでしまったり、うまく話せない事もあって苦労するというが、撮影の合間の大伴さんとの雑談などで、楽しく撮影できているという。

一緒に作り上げる仲間の存在

彼女がエイトカンパニーで行っている作業は、単なる「動画編集者」ではなく「SNSプロデューサー」だ。TikTokで公開される動画は、ほとんどが数十秒から2分以内。とはいえ、編集作業はそれなりに時間を要する。出来上がった動画を社長に見せて、1回でOKが出れば良いが、修正が入る事も多い。1本の動画の編集を仕上げるのは、なかなか大変な作業だ。

大伴さんは動画内容の企画提案、打合せ、撮影までを行うが、実はその先の編集作業は別の人に依頼している。同級生を含む3人グループによる「協業」体制を作っているという。そうすることで同時並行で多くの動画編集を進めることができるため、よりスピーディーに、より多くの動画を作ることができる。また、仕事の内容によって得意/不得意があったり、同時に仕事を請け負いすぎた時に分散できる。何より、「ひとりじゃない」というメンタル的な支えにもなるという。

動画編集者からディレクター的な立ち位置に

大伴さんもこの世界で「動画編集」の仕事から始めた。最初の仕事は、ライバーから受注し、ライブ動画を編集して物販用の説明動画を作ったという。「不安でしょうがなかった」と振り返る。また、登録者20万人という人からショート動画の編集を請け負ったが、評価されなかったのか、長続きしなかったという。

その後も大伴さんは動画編集の仕事を請け続けたが、次第にディレクションをする側に回り、編集作業はせず、契約を取りに行く方が主になっている。

「素直で努力家タイプ」な生徒

 オンライン編集スクールで指導にあたった木村圭吾さんは、大伴さんについて、「現場で感じた課題に対して自分なりに動いていった積み重ねが、「ディレクションする側」への変化に繋がっていると思う。」と話す。

オンライン編集スクール「TAPAS」木村圭吾代表:
動画編集をマスターして実際に仕事を受けるところまでは、誰でも緊張するし、不安もあるもの。大伴さんも、最初は不安で悩む場面が多かったが、一歩ずつ進みながら“ただ編集するだけでなく、仕事の進め方自体を考えよう”と切り替えていった姿が印象的だった。

将来の夢「世界を放浪しながら稼ぎたい」

大伴さんはエイトカンパニーの仕事以外に、SNS運用会社から素材を受けてXに投稿する仕事や、YouTube運用代行会社からのチャンネル運用ディレクターの仕事など、幅広く活躍している。

 そしてこの先の目標は、ポジションをもっと上に上げていく事だという。単なる「作業者」から「管理者」「ディレクター」「プロデューサー」と、より大きな仕事を引き受け、チームで結果を出していきたいと話す。そうやって安定した収入を得ること、そして将来は「世界を放浪しながら稼ぎたい」と、大きな夢を語ってくれた。

(テレビ宮崎)

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