コロナ禍を機に人々の働き方や学び方は大きく変化した。東京在住の男性が九州・宮崎の講師からオンラインで「動画編集」を学んでいる。趣味としてではなく、プロのクリエイターを目指すという大きな挑戦としてだ。2人を取材すると、住んでいる地域に縛られない「新しい学び方」そして「新しい仕事の形」が見えてきた。

東京の若者が九州の講師から学ぶ

東京都墨田区に住む中垣昌也(なかがき・まさや)さん。ブランド買取ショップで査定士として働く傍ら、映像の世界に本格的に取り組む決意をした。きっかけは、スマートフォンで撮影した動画を編集し始めたことだった。

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受講生 中垣昌也さん:
友人のために動画を編集していて、とにかく楽しかった。「これが職業になったら良いな…」と考えるようになったのは去年の終わりぐらい。それから、編集を教えてくれるところを探し始めた。

その2か月後、中垣さんは、毎週日曜日の夜にパソコンに向かい、編集スクールの講義を受ける生活に入っていた。モニターの向こうにいるのは、東京から800km以上離れた九州・宮崎県在住の講師。中垣さんが選んだのは、オンライン動画編集スクール「TAPAS」だった。

オンラインでは距離など関係なく、まるで目の前にいるかのように、リアルタイムで授業を受けられる。「TAPAS」のコンセプトは、プロのクリエイターを育成し、数カ月で仕事の受注ができるレベルを目指すというもので、中垣さんの目標に合致していたという。

マンツーマンで丁寧に

画面には編集ソフト「PremierPro」の画面が大写しになり、右側に小さく講師の姿が。「TAPAS」を運営する木村圭吾氏だ。この日は中垣さんから質問を受けていた「マスクのかけ方」について、ゆっくりとした口調で時間をかけて説明していた。

オンライン動画編集スクールTAPAS​ 木村圭吾さん:
マスクの考え方はいろいろあって、1つ目のやり方は不透明度の部分を使っていました。動かすとマスクがかかりますよね。なんですけど、ここで位置の移動をかけてしまうと、一緒に動いてしまうんです。

木村さんは、やってしまいがちな失敗を数多く再現して見せる。「どうしたら思い通りに動かせるか」は教材を見ればわかる事だが、「思い通りにいかないケース」に遭遇すると、教材を見るだけではなかなか解決策が見つからない。

木村さんは「思い通りに動かないケース」を「こうしたから変な動きになってしまった」と、その原因を示し、「こうすれば思い通りに動く」と、正解を見せていく。

TAPAS 木村圭吾さん:
これがわからないと、複数のテロップを入れたいとなった時、つまり「普通のテロップ」「サイドテロップ」「タイトルテロップ」も入れている、となった時に、アニメーションかけたら全部が一緒に動いちゃう、という事になっちゃうんですよね。

丁寧な説明に、中垣さんは深く頷きながら、納得の表情を見せていた。

ドローンがきっかけで映像の世界に

講師の木村圭吾さんは、宮崎市で生まれ育った。高校卒業後に横浜のデジタル系専門学校に入り、ウェブデザイナーとして就職。当初はインターネット通販の会社など動画とは縁のない世界にいたが、友人がドローンの会社を起業した事をきっかけにドローンでの映像撮影を覚えた。ここで必要になってきたのが、撮影したものを作品にする作業、「編集」だった。

ドローンを入口に様々な編集について独学で学んできた木村さんは、当時急成長していたYouTubeに「漫画動画」を投稿するようになる。そして、木村さんの動画を見た人から「教えてほしい」と請われたことをきっかけに、個人で塾を開いた。「編集」と「スクール」がセットになった瞬間だった。

ふるさとでの起業を決意

コロナ禍でリモート会議が世の中に浸透すると、「編集スクール」はオンラインでも十分に成果を上げられることに気が付く。そしてオンラインであれば、教室はどこにあっても関係ない。いつか宮崎に戻って、ふるさとの発展に貢献したいと考えていた木村さんにとって、それは地元に戻るという大きな決断に至るきっかけになった。

オンライン動画編集スクールを作るにあたって、木村さんは「クリップの基本操作」「トリミング」「エフェクト」「BGM」など、約80目の動画教材を作成した。基礎的な知識がない人に、まずは動画教材で勉強してもらう。動画教材を見るだけでもそれなりに技術を習得できそうだが、木村さんが重視しているのは、あくまでも「マンツーマンの指導」だ。

「マンツーマンの指導」は、受講生の中垣さんがこのスクールを選んだ決め手でもあった。知識ゼロからのスタートだった中垣さんだが、「早く編集技術を習得したい」という熱意は強く、木村さんも驚くスピードで動画教材の視聴を終えた。

受講生 中垣昌也さん:
難しいと思ったらすぐに聞ける。すぐに回答がもらえる。マンツーマンで教えてもらえるのは丁寧で良いと思う。スピード感をもって覚えたい自分にマッチしていたと思う。

2カ月で仕事の受注に至る

動画教材を終了すると、中垣さんはさっそく実践に移った。どうやって仕事を受注するのか?その答えもインターネット上にあった。「クラウドソーシング」だ。あるサイトを見てみると、「動画編集・制作」の仕事が数多く掲載されている。企業の広告用動画や、YouTubeショート動画など様々な動画編集をしてくれる人を募集していた。報酬も5000円から10万円まで様々だ。

中垣さんにとって初めての仕事は、登録者41万人のYouTuberからの案件だった。応募者も多かったそうだが、「経験が浅いので、安くで良いので頑張ります!」と売り込んだところ、採用された。10数分の動画編集で3000円。カット編集し、テロップを入れ、音響効果を入れ、エフェクトをかけ…3日かけてなんとか完成した。

その後も仕事に恵まれ、不動産のルームツアー動画や飲食店の求人動画など、2カ月で10数件を受注・納品した。同じ発注者から再度受注するケースもあり、クオリティへの自信にもなっている。今後、単価の高い仕事を取れるようにレベルアップする事が当面の目標で、その後は編集だけでなく、撮影やディレクションまで習得してフリーランスの映像クリエイターとして独り立ちすることが目標だ。

クリエイターは星の数ほどいるが…

木村さんは「クリエイターを自称する人は星の数ほどいるが、発注側が求めているレベルのクリエイターはまだまだ不足している」という。中垣さんをはじめ、多くの受講生をトップクリエイターに育て上げる事が、目の前の木村さんの目標だ。そして木村さんは、その先の目標も見据えている。

ふるさとの情報発信に貢献したい

TAPAS 木村圭吾さん:
まずはオンライン編集スクールで、優秀なクリエイターを育てていく。そしてその生徒たちと一緒にプロ集団としての仕事をしていきたい。その先には、宮崎に貢献したいという思いがある。

地元宮崎の企業は、まだまだネット空間への情報発信が進んでいない。木村さんは地元企業とプロクリエイター集団を繋げて情報発信を強化し、その結果としてふるさとに貢献できると考えている。

地方を拠点にしたオンライン動画編集スクールで、優秀なクリエイターを次々に生み出せるのか。木村さんの挑戦は、始まったばかりだ。

(テレビ宮崎)

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