視界不良の日韓関係…日本では制裁の声も
この記事の画像(7枚)冬の韓国・ソウルで生活するのは、なかなか厳しいものがある。氷点下10度以下という寒さには慣れたが、近年深刻化したPM2.5による大気汚染に慣れる事は永遠に無いだろう。酷い日には外出もままならず、市内を流れる漢江(ハンガン)の対岸は白く煙って見えないほどだ。この大気汚染と同様に視界不良なのが、日韓関係だ。
慰安婦問題に加え、国会議員による竹島上陸、日韓関係の根幹を揺るがす「徴用工」問題、さらにはレーダー照射問題まで起きた。まさに「全く先が見通せない(複数の日韓関係筋)」状況だ。日本の韓国への反発は高まっている。与党議員からは「制裁すべきだ」との声も出ていて、実際に様々な提案がなされた。その1つが「韓国人のビザなし渡航の制限」だ。
「ビザなし渡航」とは?
ビザとは、平たく言えば「入国許可証」の事。国が「来てもいいよ」と判断した外国人に発行するものだ。ビザを取得するには、大使館での面接や公的な書類を求められたり、高額な手数料がかかる場合がある。旅行者にとっては負担だ。そこで、友好国同士の場合、「ビザがなくても入国していいよ」という取り決めがなされる事がある。日本は観光目的で入国する韓国人に対して、ビザなしの入国を認めている。もし、この「ビザなし渡航」を制限するという制裁が実行されれば、韓国人観光客はいちいち在韓日本大使館か領事館にビザを申請しないと日本に行けない事になり、韓国人旅行客の減少が容易に予測できる。
「ビザなし渡航の制限など出来ない」と高をくくる韓国
日本政府は、2020年に訪日外国人を4000万人にするという目標を掲げている。訪日外国人は2012年以降右肩上がりに急増していて、2018年はついに3000万人を突破し、3119万人に達した。その中で韓国人は753万9000人で、全体のおよそ24%を占めている。大変な数だ。
「観光客を増やそうとしている日本が、お得意さんである韓国人観光客が減少するような行為、つまりビザなし渡航制限制裁など出来るはずがない」というのが、多くの韓国メディアや、ネット記事のコメント、日韓関係に詳しい韓国人専門家の共通した見立てだ。
しかし、本当にそうなのだろうか?
韓国人は大勢来るがお金は使わない
日本への理解を深めるという意味で、訪日外国人の数は重要ではあるが、経済的に重要なのは、彼らが日本で落とすお金だ。そこで、どの国の人がどのくらい日本でお金を使ったのかを比較してみると、興味深い事が分かった。検証は観光庁が今月発表した2018年の訪日外国人消費動向調査のデータを使用する。
訪日外国人が日本で使った1人当たりのお金(宿泊費、飲食費、国内での交通費、娯楽費、買い物代)を見てみると、1位はオーストラリアで24万2050円、以下スペイン23万6996円、イタリア22万4268円、中国22万3640円と続き、アメリカ、カナダ、シンガポール、そしてベトナムが19~17万円ほど、タイ、マレーシア、フィリピンは12万円前後になっている。ベトナムを筆頭に、近年増加する東南アジアの旅行客も、かなりのお金を落としてくれていることが分かる。ありがたい事だ。
では韓国はどうか?実は国別データが示されている20の国と地域の中で断トツの最下位である7万7559円なのだ。韓国人観光客は大勢来るが、お金は使わない。訪日外国人が2018年に日本国内で使ったお金の総額は4兆5064億円だが、そのうち韓国人が使ったお金はおよそ5842億円であり、全体の13%だ。もちろん大きな金額ではあるが、人数ベースでは24%を占める韓国人の存在感は、金額ベースで考えるとかなり小さくなるのは否めない。
多くの韓国人観光客は「若いリピーターで反日ムードに左右されにくい」
訪日韓国人観光客の大きな特徴は、滞在日数が極端に短い事だ。2017年の統計では、すべての外国人の平均滞在日数は5.2日だが、韓国人は2.8日である。また2017年に初めて日本を訪問した人の割合は、外国人全体の平均が42.3%であるのに対し、韓国人は36.1%と低い。つまり、リピーターが多いのだ。
そして日本訪問が2回目~9回目という韓国人リピーターのうち、半数以上は20代以下の若年層だ。また日韓関係が極度に悪化した2018年12月にも訪日韓国人は68万人を超え、中国を抑えて国別1位となっている。反日的なムードとは関係なく、日本には行きたがるのだ
まとめると、「交通費が安い事から短期間の滞在を繰り返すリピーターで、20代以下と若く、あまりお金を使わないが、反日ムードに左右されにくい」日本に来る韓国人観光客は、こういう要素を持った人物が多いとみられる。
「ビザなし渡航制限制裁」のメリット・デメリット
韓国人のビザなし渡航をやめて、渡航を制限する制裁を科すメリットとしては、韓国政府に日本の本気度を示す事が出来る点が挙げられる。最近の韓国政府の対日政策は、反日というよりは「日本軽視」の色彩が強いとみられるため(文在寅大統領は大半のエネルギーを北朝鮮問題と国内経済問題に向けている)、制裁実施が韓国政府を日韓関係改善に向けて動かす圧力になる可能性がある。
また、韓国の世論調査によると20代の若者はほかの年代に比べて政権支持率がかなり低い事もあり、ビザなし渡航制限という日本の制裁への不満の矛先を、文在寅政権に向ける人が出てくるだろう。これも、対日政策改善圧力になる可能性がある。
一方デメリットは、もちろん韓国人旅行客が減少するという事だ。人数ベースで24%を占めているだけに、影響は大きいだろう。日本に行きにくくなる事で、日本に好意的な人が減ってしまうという影響も大きい。しかし、先述の通り金銭ベースでは13%と割合は下がるので、経済的影響は比較的小さくなる。
また日韓関係の悪化にも関わらず訪日韓国人は堅調である事から、簡易な手続きで複数回出入国出来るマルチビザを発給するなど制裁内容を工夫すれば、韓国人観光客の減少を最小限に食い止められるかもしれない。
もちろん、この制裁により反日の機運が極端に高まり、民間の交流が先細るとともに、文在寅政権がより強硬に出てくる可能性があるというのが、最大のデメリットであろう。
制裁は荒唐無稽ではない。韓国政府には冷静な判断を期待したい
以上の検討から、ビザなし渡航を制限する制裁は、内容次第では決して「やれるわけがない」ものではないと言えるのではないか。
もちろん、制裁など科す事なく、話し合いで関係改善するというのが理想なのは言うまでもない。日本が韓国を併合した際の歴史問題があるとは言え、それを解決して未来に向かって歩もうと両国が合意した条約を一方的に反故にし、代案さえ出さないような韓国政府の姿勢に理解を示すのは難しい。
日本と韓国がケンカして喜ぶのは、中国と北朝鮮であることは自明だ。韓国政府には、日本といたずらに対立すると大きなデメリットがあると冷静に判断してもらいたい。まずは、韓国政府の従来の立場とも異なり、日本企業に賠償を命じた「徴用工」関連の判決についてどう対処するのかを早急に明らかにし、その上で日本との協議に応じるべきではないか。