東京の都心部にある総合病院、NTT東日本関東病院で、病気や産休により通常8人いる産科医が4人に半減し、約100人もの妊婦が転院を余儀なくされている。
産科医の不足は全国各地で起きているが、この状況が来年4月、より深刻化する懸念がある。現役の医師であり、医療ジャーナリストとしても活動する森田豊医師に話を聞いた。

産科医の現状

――産科医が足りないという話をよく聞きますが、なぜでしょう

森田豊医師:
お産を担当する医師が少ないという点があります。お産はいつ起きるか分からないので、24時間体制の当直勤務が必要です。他の科に比べて拘束時間が非常に長く、体力的にきつい。また訴訟リスクもあります。一方で、研修医時代に産科を希望し、産科医になる人は増えています。ただ、不妊治療や更年期障害などを専門とし、お産をしない産科医が増えているのです。またお産を扱う病院自体も減っています。

医師で医療ジャーナリストの森田豊氏
医師で医療ジャーナリストの森田豊氏
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――産科医の仕事の難しさとは

先ほど話した当直勤務以外に、自宅などに待機する医師もいます。妊婦や胎児に何らかの問題が起きた場合には、緊急で帝王切開をしないといけないケースもあり、その場合、当直医に加えて、自宅などに待機している医師も駆けつけて手術に当たる事になります。今回は常勤医師8人が半分になったということですが、外部から当直担当を呼ぶなどしても限界があります。病院としては、苦渋の選択で妊婦の転院をお願いすることになったのではないでしょうか。

NTT東日本関東病院では産科医が半分に
NTT東日本関東病院では産科医が半分に

――妊婦の負担は

当然お産を前に病院が変わるので、不安や憤りを感じる人もおられると思います。他の医療機関は是非協力してほしいです。ただ、東京だからこそ100人もの妊婦さんの転院先が見つけられるとも言えます。もし地方で同様の事が起きたら、受け入れ先を探すのはより難しくなり、妊婦への負担もより大きくなると思います。

女性医師の産休

――今回のケースでは、産科医が「産休」で休んでいます

医師の世界でも「産休」や「育休」を取得しようという流れはあり、男性医師も女性医師も休みを取ることは多くなっています。ただ女性の場合は実際に分娩をするので、休む期間は長くなります。そして、医師全体で見ても女性医師は年々増えていますが、特に産科は女性の医師が比較的多くなっています。女性医師は現場で大きな戦力になっていますが、どうしても産休による医師の欠員というのは今後も増えると思われます。

医師の「働き方改革」

2024年4月、これまで「青天井」だった医師の時間外労働時間を規制する「医師の働き方改革」がスタートする。長時間労働による過労死や健康被害を防ぐために始まるこの改革。医師の時間外労働は、原則一般労働者と同程度の年間960時間に制限される(地域医療など長時間労働避けられない場合は1860時間)。医師の命や健康、暮らしを守るためには大事な改革だが、産科などの医師不足に拍車をかける恐れもある。

――来年4月に始まる「医師の働き方改革」で人手不足に拍車がかかる可能性もあります。どうすればお産の現場を守ることができるのでしょうか

医療ジャーナリスト 森田豊医師:
産科医を集約化するという対策があります。生まれる子どもの人数が20~30人の小規模な病院でも、お産の場合、当直体制は必要です。ですから大きな病院に産科医を集約して、15人20人体制で交代勤務できるようにする。産休や育休で欠員が出ても、カバーし合える人員を集めれば良いのではと思います。

――国がやれることはありますか

医師になってどの専門医になるのかはもちろん自由意志です。ただ、そうすると医師が偏在する問題が起きます。外科医も不足しています。国として何らかの形で産科を増やす、分娩担当を増やすという政策が必要になるかもしれません。

渡邊康弘
渡邊康弘

FNNプライムオンライン編集長
1977年山形県生まれ。東京大学法学部卒業後、2000年フジテレビ入社。「とくダネ!」ディレクター等を経て、2006年報道局社会部記者。 警視庁・厚労省・宮内庁・司法・国交省を担当し、2017年よりソウル支局長。2021年10月から経済部記者として経産省・内閣府・デスクを担当。2023年7月からFNNプライムオンライン編集長。肩肘張らずに日常のギモンに優しく答え、誰かと共有したくなるオモシロ情報も転がっている。そんなニュースサイトを目指します。