刑事事件で大阪府警の留置施設に勾留されていた容疑者の男性が取調べに強制的に連行され、「黙秘権を侵害された」として、きょう=10日、大阪府を相手取り賠償を求める裁判を起こした。

映像にはその一部始終が記録されていた。

手錠・腰縄で車いすに乗せられ
手錠・腰縄で車いすに乗せられ
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■取り調べを受けるよう迫る職員と拒否する容疑者の中国人男性のやり取りが映像に

大阪府東淀川警察署の留置施設内で警察が撮影した映像には、自動翻訳機を使って取り調べを受けるよう迫る職員と、それを拒否する容疑者の中国人男性のやり取りが記録されていた。

男性(中国語):受けません。取り調べを受けません。
警察の留置管理課の職員:取り調べを受けません。はい、そうですかとはならない。何人かで連れていってもいいの。

男性(日本語):私、話は全部、全部終わり。
警察の留置管理課の職員:それは刑事が必要かどうかを決めるんで。
警察の留置管理課の職員:あなたが終わったと思っても、刑事が終っていないと言ってます。

取り調べを受けるよう迫る職員と拒否する容疑者の中国人男性
取り調べを受けるよう迫る職員と拒否する容疑者の中国人男性

■酒に酔って暴行加えてきた同僚に対する殺人未遂容疑で逮捕「黙秘」決める

技能実習生として日本で働いていた男性は去年9月、大阪市内の路上で酒に酔って殴るなどの暴行を加えてきた同僚を、刃物で刺してケガをさせた、殺人未遂の容疑で逮捕された。

(のちに傷害罪・銃刀法違反で起訴)

その後、留置施設で勾留された男性は、弁護人と相談した上で、事件について黙秘することに。

それでも長時間の取り調べが続くため、翌日からは取り調べそのものを拒否した。

男性(中国語):取り調べを受ません。黙秘します。
警察の留置管理課の職員:黙っているのは構いません。でも、取り調べには出なさい。日本の法律で逮捕されている人はそれに従わなければいけません。

事件現場
事件現場

■「取り調べ」巡って解釈の争いも 手錠・腰縄で車いす乗せられ取調室へ

そもそも法律では、捜査機関が取り調べをできるとする一方、被疑者(容疑者)は、いつでも取り調べ室を退去できると記されている。

しかし、「勾留されている場合を除く」とも書かれていてこの解釈を巡って争いがある。

警察は、黙秘してもいいから取り調べを受けるよう伝えるが、男性は拒否を続ける。

すると職員らが取り囲み、手錠と腰縄をつけ…

男性:痛い。
警察の留置管理課の職員:痛い?じゃあ支えといたる。車いす用意しようか。

男性は車いすに乗せられ、捜査員に引き渡されると、取調室に連行された。

取調室へ連行される男性
取調室へ連行される男性

男性によるとその後、捜査官に腰縄とTシャツを引っ張られる形で、階段を引きずり降ろされることもあったという。

男性は、関西テレビの取材に対し、当時の心境を明かした。

男性:(事件によって)全身に傷があったので、すごく痛かったし、すごく怖かったです。死にたい気持ちでした。人間扱いされていないです。明らかに人権侵害でしょ。

「捜査官に腰縄とTシャツを引っ張られる形で階段を引きずり降ろされることも」
「捜査官に腰縄とTシャツを引っ張られる形で階段を引きずり降ろされることも」

■「黙秘権」の侵害にあたるとして賠償求め提訴

男性は警察の一連の行為は「供述の強要」にほかならず、憲法で定められた「黙秘権」の侵害にあたるとして、きょう=10日、大阪府に対し110万円の賠償求めて裁判を起こした。

男性の代理人 高山巌弁護士:長ければ8時間ぐらいずっと(捜査官の)質問浴びせられても耐え続けて、初めて黙秘権が行使することができる、なんていう権利を権利と呼びますか。黙秘権があるということは、取り調べに行かないという自由も認めて初めて成立する話です。

大阪地裁に入る男性の代理人弁護士
大阪地裁に入る男性の代理人弁護士

■大阪府警 一般論として「取り調べのために留置施設から出場させること自体は黙秘権の侵害になるとは考えていない」

今回の警察の対応は適切だったのか。

関西テレビは大阪府警の「留置管理業務に関する手引き」を入手。

そこには、取り調べを拒否された場合の措置について、こう記述がある。

【「手引き」より】
「強制出場の指揮…必要最小限度の範囲で有形力を行使して出場させる」

また、こんな注意書きも…

【「手引き」より】
「有形力の行使が過剰と認められる場合は、供述そのものの任意性に疑いが持たれることになるので、出場させる方法について捜査側と十分に協議する」

今回の事案について大阪府警は一般論とした上で、「取り調べのために留置施設から出場させること自体は、黙秘権の侵害になるとは考えていない」と回答した。

大阪府警の「手引き」
大阪府警の「手引き」

■専門家「黙秘権には冤罪から社会を守る、その人を守るという公共的な性格も」

捜査機関が主張する取り調べを受ける義務と黙秘権が争われる今回の訴訟。

専門家は、「黙秘権」は容疑者や被告人のためだけにある権利ではないと指摘する。

龍谷大学法学部 斎藤司教授:黙秘権がない世界を考えると『嘘でもいいから話せ』ということになるわけですよね。嘘をしゃべったら誰が一番被害を受けるというと、社会です。冤罪から社会を守る、その人を守るという公共的な性格も私はあると思っています。

現状の取り調べの中で、黙秘権がどう運用されるべきなのか、司法の判断が注目される。

司法の判断は
司法の判断は

■菊地弁護士「冤罪を生まないために『黙秘権の保障』が必要」

この黙秘権を巡る裁判について菊地幸夫弁護士は、「冤罪を生まないために『黙秘権の保障』が必要だ」と話す。

菊地幸夫弁護士:黙秘権ってのは憲法に根拠があるということで、尊重しなければいけないのは当たり前なんですけど、この尊重を実際に効果あるものとするためには、取り調べの場に出て行き、いろいろ質問を浴びせられて、『それに耐えて黙秘権を行使しろっていうのは、無理でしょ』というのが弁護側の言い分。

菊地幸夫弁護士:だから、黙秘権を保障するためには、取調室に行かない自由を認めなければいけないということ。

菊地幸夫弁護士:そして『いや違う。取り調べ室には来なきゃだめなんだ』というのは、捜査側の主張であり、裁判所もそういう見解を取っています。これは従来から鋭く対立してる論点なんですね。

菊地幸夫弁護士:冤罪を生まないためには、やはり『黙秘権の保障』というのを、私はしっかり確立する必要があると思います。

裁判の行方が注目される。

(関西テレビ「newsランナー」2025年7月10日放送)

菊地幸夫弁護士
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関西テレビ
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