2023年7月、九州北部を襲った記録的な大雨。福岡・久留米市田主丸の竹野地区は、甚大な被害を受けた。あの悪夢のような災害から約2年。未だに爪痕が残る地区の復興へ向けて、住民が頼りにしている“駐在さん”の姿を追った。
九死に一生を得た災害から2年
『平成29年7月九州北部豪雨』と名付けられた豪雨災害。久留米市田主丸町の竹野地区一帯は、流木と岩、泥で埋め尽くされた。

あれから2年。未だに爪痕が残るこの地区で、住民たちが頼りにしている人物がいる。この地区を担当する“駐在さん”。竹野駐在所員の橋本直也巡査長(32)だ。

3年前から竹野駐在所に勤務している橋本巡査長。「災害で建て替えということだったので、同じことがないように2階建てにして、垂直避難ができるようになっています」と新しくなった駐在所について話す橋本巡査長。

2年前の豪雨で、以前の駐在所は押し寄せた大量の土石流に飲み込まれ、大破した。

当時の駐在所は、裏側に住居部分があり、橋本巡査長は家族とともに生活していた。あの日は早朝からうきは警察署内で災害対応に当たっていたため、橋本巡査長は駐在所にはいなかったという。

妻の早紀さんは「上の子が『トイレに行きたい』と言っていて、丁度、停電して『もう少しトイレを待ってね』って話していたら、土砂がやってきて…、本当にどうなっていたか分からないよね」と当時の状況を話す。

住宅部分は土砂とともに流れてきた大きな丸太が直撃し壁が完全に崩れていた。この状況から早紀さんは子どもを連れて逃げ出し、運良く助かったという。

九死に一生を得た災害から2年。復興はまだ道半ばだ。この地域を離れた人たちも少なくない。しかし、この地域を愛し、住み続ける人たちの安全を守るため橋本巡査長はパトロールを続けている。
「どうも橋本さん転勤らしい…」
竹野地区で植木業を営む中川信吾さん。自宅は無事だったが、育てていた植木は殆ど流されてしまった。

「災害のときも一番、先頭に立って、自分の家族も本当は心配やったでしょうけど、みんなのことを先に考えて行動してくれたので…。そういう風景を見ているとやっぱり大切な存在です」と話す中川さん。橋本巡査長に全幅の信頼を寄せている。

続いて橋本さんが訪れたのは、竹野校区のコミュニティセンター。『まちづくり振興会』の中村誠治さんも橋本巡査長は「地域に欠かせない存在」と話す。「日頃から丹念に、各校区の家を回られている。ですから災害があったときにどこに誰が住んでいるか全部頭に入っている」。中村さんも橋本巡査長に全幅の信頼を寄せている1人だ。

普段から丁寧に巡回していた橋本巡査長のおかげで救助活動も迅速に対応できたと中村さんは話す。しかし、橋本さんが竹野地区に来て2年が経った頃、或る噂が中村さんの耳に入ってきた。「どうも橋本さん転勤らしい…」という噂だ。

駐在所勤務の警察官の任期は、原則3年とされている。橋本巡査長の任期は2025年3月に3年を迎えるため、異動する可能性があったのだ。
地域住民に愛されるおまわりさんへ
噂を耳にした中村さんは「橋本さんがいてくれないと困る」と竹野校区の各区長とともに動く。まだ復興途中の竹野地区を知り尽くす橋本巡査長に残ってもらいたいという住民の声を集め、福岡県警本部に『任期の延長』を求める嘆願書を提出したのだ。

「この地域が再起していくために橋本巡査長は必要な人物。この非常時にもうしばらく居て下さい」。嘆願書にはそう記してあった。

住民の思いが届いたのか、2025年4月、橋本巡査長の異動はなかった。「まだ災害に関しても復興を目指す中ではありますけれども、引き続き災害というのはこれからも起こるので、それに向けて防災対策とか防犯も含めて、パトロールをしっかりやっていきたいなと思います」と橋本巡査長はきょうも竹野地区の安全を守る。

2025年、すでに北部九州は、梅雨明けが発表されているが、次に来る災害への意識は常に持っておく必要がある。豪雨災害から2年経って、少しずつ対策は進んでいるが、橋本巡査長は、豪雨に限らず、あらゆる災害への意識を高めて欲しいと話していた。
(テレビ西日本)