西日本豪雨から2025年7月で7年。OHK岡山放送では「復興 その先へ」と題し、倉敷市真備町のまちや住民、それぞれの今を伝える。

災害を乗り越え、前向きに生きた真備町の100歳の女性が2025年1月に亡くなった。女性が残した言葉や思いが、地域の人に受け継がれ被災地の復興を後押ししている。

西日本豪雨で浸水していく自宅…同居の孫らに導かれ…泥だらけの1本の「筆」とともに脱出

〇加藤久子さん宅に集まる人たち

2025年1月、穏やかに息を引き取り、100歳の人生を全うした加藤久子さん。西日本豪雨からまもなく7年。多くの人が被災地の復興を後押しした加藤さんをしのんでいる。

(2023年当時の加藤久子さん)
「4月で99歳、数えの100歳」

7年前、加藤さんが孫たちと暮らす自宅は水に漬かった。加藤さんは2年前、OHKの取材に対し、「孫とひ孫が早く出ようと言ってくれたから、水が来る前に出た、本当に何もなくなった。この筆が1本だけ」と・・・。

加藤久子さんが西日本豪雨の被害から逃れた際に唯一持ち出した愛用の筆
加藤久子さんが西日本豪雨の被害から逃れた際に唯一持ち出した愛用の筆
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加藤さん揮毫(きごう)の「がんばろう真備」が看板に…5年間、まちの復興を見守った

この筆を使って加藤さんが書いたのが、真備町の2カ所に設置された看板の文字。

町の復興を応援しようと、町内に住む木谷万倍(ますみ)さんが企業などに協力を求め実現したもので、加藤さんは木谷さんからの依頼を快く引き受けた。

今やデジタルの時代、普通はパソコンで文字を打つことが多い。

それでも木谷さんは励ましの意味もある「がんばろう真備」の文字はどうしても墨で書いてほしいと思い、地元の人でもあることから、どうしても加藤さんに・・・と、木谷さんは涙ぐみながら加藤さんに依頼した理由を語った。

加藤久子さんは生前、西日本豪雨被災の際に筆を持ち出すにあたり「ばい菌があるから持って帰ったら駄目と言われた、どうしてもと思って内緒で持って帰った」そうだ。その筆の存在があったから、木谷さんに「書いてくれ」と言われて書けたと語っていた。

加藤さんの力強いメッセージは、5年間、まちの復興を見守った。

木谷さんは「看板がある間は、通るたびに看板を見かけると励まされた」と言う。また、公益社団法人倉敷市シルバー人材センター真備支所の諏訪里美支所長も「先生(加藤さん)には筆耕、字を書いてもらうお仕事が多い。演題や年賀状、あらゆるものを書いてくれた」と、感謝の思いでいっぱいだ。

加藤さんが揮毫(きごう)した看板(2008年撮影)
加藤さんが揮毫(きごう)した看板(2008年撮影)

書道でつながる仲間たちに「今を楽しく」「しっかり生きるんよ」…加藤さんの前向きな考え方

小学校の教諭だった加藤さんは退職後、書道教室を開いたり、シルバー人材センターなどから頼まれる、看板の文字や宛名書きの仕事を続けた。

現在の上皇・上皇后両陛下が被災地を訪問されたことを記念する石碑の文字は加藤さんが担当した。

諏訪支所長は加藤さんについて「前向きな考え方や、精神的な部分」について教えてもらうことがたくさんあったと語る。

加藤さんの自宅には、加藤さんがが立ち上げた習字同好会の人々も駆けつけた。加藤さんが白寿や100歳の誕生日を迎えた時には書道でつながる仲間たちでお祝いをしたことも。

同好会の仲間は加藤さんについて、「褒め上手」「笑顔がすごくいい」という人柄だけでなく、加藤さんから「今を楽しく生きなさい」「私も被災して一人になった。あなたも周りの人に助けてもらって、しっかり生きるんよ」と、前向きな言葉をかけられたという思い出を語る人もいた。

習字同好会の皆さんに囲まれ白寿のお祝いを受ける加藤さん
習字同好会の皆さんに囲まれ白寿のお祝いを受ける加藤さん

孫がひつぎに収めた筆とともに被災地から旅立った加藤さん「最後はこうして幸せ…」

90歳を過ぎて避難所生活を経験した加藤さん。決して人生を諦めることなく、真備町の復興を見届けた。

加藤さんの孫・カヨさんに筆について聞くと、「おばあちゃんの宝物」である筆は久子さんのひつぎに入れて一緒に持っていったという。

「前を見て!」

加藤さんは生前、OHKの取材に対し「心があったら何とかなる。あの時のことを考えたら、それぞれ心があるから体も動く」と、前を見て生きていくことの大切さを説くと同時に、自分自身をこう振り返っていた。

「水害にあった時よりも、もっとやりたいことがいっぱい。人生はいいことと悪いことがいざないあって、最後はこうして幸せ」

(岡山放送)

「前を見て!」被災者の心に訴える加藤久子さん(2023年撮影)
「前を見て!」被災者の心に訴える加藤久子さん(2023年撮影)
岡山放送
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