近年、福井県内で多くの被害があった野生のかみつきイルカ。県はその対策として、そのイルカに発信器を装着したことを明らかにしました。リアルタイムで位置を監視し被害を防ぐことを目指す新たな対策です。背景には、観光地の評判を左右しかねないほどの被害と、地域の安全を守るという重い課題がありました。
県内の沿岸で海水浴客の安全を脅かしている“かみつきイルカ”。過去3年間で、県内では53人がけがをし、その多くが中京・関西圏からの観光客でした。
昨シーズン、県対策検討委員会の森阪匡通委員長は「基本的には人に会ったら寄って来ることはなく人を避けるが、人に慣れる経験をしてしまった」と話していました。
30日、2025年度初となるイルカ被害対策会議が県庁で開かれ、沿岸の市町や警察、観光関係者など46人が出席。県農林水産部の稲葉明人部長は「イルカと人との距離をはかっていく体制が整いつつある。今季はイルカ被害をゼロにしようとイルカへの発信器の取りつけを試みた」と説明しました。
県は、このイルカは特定の1頭であるとみて、行動を監視する対策を検討。法律上、イルカの捕獲は原則禁止されていますが、試験研究の目的で国の許可を得て、6月にそのイルカが小浜市宇久漁港に入ってきた際、発信器を装着しました。
県対策検討委員会の森阪匡通委員長は「共存を考えると今できることはこれくらいしかない。世界的に見ても重要な例になる」と話します。
発信器が取り付けられた小浜市では―
小浜市の漁師:
「網を出たり入ったりする。船が港に帰ってきた時に船に並走してくる。こんなに人に慣れたイルカは初めて」
実はこのイルカ、小浜市の宇久漁港で3月頃からたびたび姿が確認されていました。取材班が乗る漁船にも並走していたイルカ。人に慣れた行動が目立っていました。
発信器による位置情報共有システムは30日から始まり、観測装置を通じて県や自治体、海水浴場の関係団体に情報が即時共有されます。誤った接触を防ぐため一般には公表されません。イルカの接近時には、場内アナウンスやSNS通知などで海水浴客への注意喚起が図られる見通しです。
県内外から毎年数万人の海水浴客が訪れる美浜町の水晶浜では、2024年には「イルカが出没しています。すみやかに海からあがってください」というアナウンスもありました。ここでは2023年から、野生のイルカが海水浴客にかみつき、けがをさせるケースが後を絶たず、地元では海開きの是非についても議論を呼びました。
7月1日からは待ちに待った海開きがあり、海の家のスタッフはイルカへの発信器の装着に大きな期待を寄せています。
海のインディアンズ・下田大樹さん:
「(発信器を付けることは)安心。少なからず、1頭の動きは分かるので。それで対策を新たに打てると思う。アプリで見られると聞いていたから、どの辺にいるのかみんなが情報共有できれば一番いいと思う」
発信器でイルカの位置を“見える化”する新たな取り組み。安心して夏を楽しむために、 その効果がまもなく試されます。