関西の犯罪被害者でつくる「つなぐ会」と関東の同様の団体「にじの会」は25日、法務省に対して、被害者や遺族の意見を受刑中の加害者に伝える「心情等伝達制度」を巡って、受刑者への教育の改善や、制度を利用しやすいものにすることなどを法務大臣に要望しました。
この「心情等伝達制度」を利用した、娘を殺害された遺族のもとには、受刑者から「過去のことは忘れて、今できることをやりたい。人生をやり直すことを考えている」などと反省が見られない返事が届いたということで、加害者が反省や謝罪を行うための適切な指導をすることなどを求めています。
■利用した遺族のもとに加害者から「事件忘れて人生やり直す」反省見られない言葉が
この制度を実際に利用した、関東の犯罪被害者でつくる「にじの会」の代表・渡辺保さんは、2000年に当時22歳だった長女を殺害されました。
加害者は無期懲役の判決が確定し、服役しています。
渡辺さんは去年、心情等伝達制度を利用しましたが、返ってきた返事は反省すら感じられないものでした。
【受刑中の加害者からの返事より】「過去のことは忘れて、今できることをやりたい。人生をやり直すことを考えている」
怒りを覚えた渡辺さんは、再び制度を利用し、「事件をなかったことなどできないが、どう思うか」などと問いましたが、返ってきたのは次のようなものでした。
【受刑中の加害者からの返事より】「どう思っていようが、俺には関係ない」「過去のことは、俺はなかったことにする。それを自己中心的な考えだと思うなら 勝手に思えばいい」
こうしたやり取りについて、渡辺さんは刑務所での教育が不十分ではないかと訴えました。
【渡辺保さん】「20年近く刑務所生活を送っていても、全く改善の兆しが見えない。これは更生教育に少し欠陥があるんじゃないかと。そのやり方については、我々はわかりませんけども、ぜひ考えて有効な更生教育をやって欲しい」
■被害者側が要望したことは 「適切な指導」「謝罪や被害弁償の仲介」など
こうしたことから、2つの被害者団体は、被害者への謝罪の重要さを教えるほか、その方法についても具体的に教えることなど、「加害者が反省や謝罪を行うための適切な指導」をするよう求めています。
また今月からは、更生と社会復帰を重視した拘禁刑が導入され、「懲らしめ」のための刑務作業がなくなることから、贖罪の意識を持つよう、指導の充実を求めています。
また会の別の被害者遺族には、加害者側から「謝罪の手紙を送りたい」、「損害賠償もしたい」という返事があったものの、1年経ったいまも実行されていないということです。
被害者が住所や連絡先を伝えることに抵抗感を感じることが多いことから、こうした意思を示した受刑者には、保護観察官や保護司など、国が責任を持って仲介することや弁護士に仲介を依頼する場合には費用を負担することなどを求めています。
■被害を思い出すのもつらい…制度利用の際 付き添いの人の交通費支給を
このほか、「心情等伝達制度」を利用する際、自身の経験を語ること自体に不安を覚える被害者や遺族が、支援者に付き添ってもらった例もあり、現在は制度の利用者にのみ支給されている交通費を、付き添いの人にも支給するよう求めました。
これについては、法務省側から前向きな回答があったということです。
■拘禁刑導入「自分を見つめ直す形に 受刑者も作業に逃げるよりしんどいのでは」法務省側が説明
また被害者側は、「懲らしめ」よりも立ち直りを重視する「拘禁刑」が導入されることで、「被害弁償や贖罪の意識を本当に持ってもらえるのか」、という不安があったことを巡り、法務省側から説明があったことを明かしました。
【関西の犯罪被害者でつくる「つなぐ会」 寺田真治代表理事】「長く刑期を過ごしているにもかかわらず、被害弁償は一切気持ちが動いてない。贖罪の気持ちなんてこれっぽっちもない。ただ漫然と刑期を過ごしているだけ(という例は多い)。
そういう中で『拘禁刑』になると、加害者でも被害弁償・贖罪の意識を十分持ってしかるべき指導をするべきなんだけども、それも飛び越えて、今度”お客さん”で”刑期を快適に過ごしていただく”みたいな気持ちがしまして、何となくその嫌な制度が始まったんだなって。
(法務省側から)『逆にそういう作業に逃げていたところを、自分を見つめ直す形になってくるから、彼ら自身も作業に逃げるよりは、しんどいんじゃないか』っていうことを言われまして、ちょっとほっとして。これからの行く末っていうのは、ずっと見ていかなあかんないかんのじゃないかなっていう、改めてそういう気持ちになりました」
■被害者・遺族の声を受刑中の加害者に伝える「心情等伝達制度」とは
「心情等伝達制度」とは、犯罪被害者の考えや意見・気持ちを加害者側に伝える制度で、去年12月からは、被害者の声を更生の教育に生かそうと、受刑者などにも伝えられるようになりました。
被害者や遺族は刑務所などの矯正施設や、こうした施設を管轄する「矯正管区」で担当の職員に口頭で意見を述べます。