砲弾の残骸と、不発弾の残る広大な畑。ロシア軍が撤退した後のウクライナ南部ヘルソン州の村には、激しい戦闘の痕跡が生々しく残されていました。
「ここに積まれているのは、すべて砲弾やロケット砲の一部です。この村だけでこれほどの量があるので、いかにロシア軍の攻撃が激しかったのか分かります」と語るのは、紛争地帯の取材経験豊富なアジアプレスのジャーナリスト・玉本英子さんです。
■復興を阻む地雷と日本の支援
農村の広大な畑には今も多数の地雷や不発弾が残り、地雷処理班が撤去に取り組んでいます。地雷が残ったままでは農業を再開できず、村の復興はなかなか進みません。
作業中の隊員が手にしているのは、日本から提供された地雷・金属探知機です。
「全ての地雷を撤去するのにどれくらいかかりますか?」という問いに、地雷処理班の隊員は「10年以上はかかります。日本の支援があれば、より早く進むでしょう」と答えました。
ウクライナ北部ハルキウ州では、「フロム・ザ・ピープル・オブ・ジャパン」と書かれた地雷除去車が活躍しています。復興に向けた地雷除去に日本の支援が生かされています。
■”戦争の現場”に「自衛隊の車両」
しかし、平和はまだ遠い現実です。今も続くミサイル攻撃に加え、東部や北部の前線ではロシア軍の進撃が続き、戦況が悪化するなか、ウクライナ軍は厳しい戦いに直面しています。
激戦地の一つ、ウクライナ東部ドネツカ州ポクロウシク近郊では、日本からの別の支援も目にしました。
【アジアプレス・玉本英子さん】「ここで戦うウクライナ軍の部隊には日本が供与した自衛隊車両が使われています」
ポクロウシクの東に展開する前線部隊、まさに”戦争の現場”に「自衛隊の車両」があったのです。
【アジアプレス・玉本英子さん】「あちらに見えるのは、ドローンよけのジャマーというもので、あそこから電波を発信してドローンが飛んでこないようにします」
ラベルなどは、自衛隊で使われていた当時の日本語ものが貼られたままでした。
今回の戦争で主に使われている自爆ドローン。
ロシア軍は去年夏以降、無線式に加えて光ファイバーのケーブルでつながった有線式のものも投入し始めました。
有線式は妨害電波で食い止めることができず、ウクライナ軍は苦戦を強いられています。
■兵士たちを励ます小さな人形
そんな兵士たちを励ましているのが、手作りの人形です。
「ボランティアが人形を送ってくれます。モタンカというお守りの人形です。これは友人の娘が作ってくれたものです。私たちの車には、すべてこれが吊ってあります」と迫撃砲部隊のカイザー車長は語ります。
■最前線への同行取材
ロシア軍との攻防が続く、東部の前線地帯への同行取材が許可されました。
【アジアプレス・玉本英子さん】「今から前線に向かいます。危険ですのでボディアーマーを着ます」
ロシア軍の侵入を阻止するため、いたるところでブロックの防御線が張られている前線。近づいてからは、自爆ドローンの攻撃が減る夜を待って、戦闘地帯へ。ライトも点けず、かすかな明りだけを頼りに進んでいきます。
【アジアプレス・玉本英子さん】「今から塹壕へ向かいます。今、何か爆弾が落ちたのでしょうか。火が燃えているのが見えます」
【アジアプレス・玉本英子さん】「今、私は第15特務旅団の前線拠点に来ています。前線拠点の塹壕に来ています。日が暮れてようやくここに来ることができました」
■領土放棄して停戦か、奪還まで戦うかの問いに「正直なところわからない」と前線兵士
たどり着いたのは、ロシア軍の陣地まで5キロほどにある最前線の防衛拠点。交代制で4人が常駐し、ここで寝泊まりしながら、防衛に当たっています。
「家族はどう思っている?」という問いに、兵士は「心配しない家族はいないでしょうが、私がここにいる必要性を理解し、支えてくれます」と答えました。
「占領地を放棄して停戦か、領土奪還まで戦うか?」との質問には、「正直なところ、わかりません。最後まで戦うべきと思いますが、兵士が足りません。もちろん領土は失いたくありません。兵士も市民も領土防衛と奪還のために命を落としましたから」と複雑な思いを吐露しました。
■塹壕を出て、暗闇の中へ...
前線の兵士も家族がいる1人の人間。複雑な思いを抱えながら任務に当たっています。
兵士たちが動き出しました!塹壕を出て、暗闇の中、敵に見つかりにくい赤いライトを頼りに向かった先には大砲です。司令部から、ロシア軍陣地へ向け大砲を発射するよう命令が出たのです。
手慣れた様子で準備を整えると…。「発射!」「発射完了!」「大砲を偽装して、直ちに退避!」反撃を受けないよう、すぐに撤収。これが日常です。
■増え続ける戦没者
【アジアプレス・玉本英子さん】「オデーサにある墓地に来ています。ここにある旗のひとつひとつが、亡くなった兵士の数を表しています」
3年の間に、戦没者を埋葬する墓地は、敷地の外にも広がりました。
ここで、2週間前に婚約者が自爆ドローンの攻撃を受け戦死したという女性と出会いました。4カ月前にポロポーズされたばかりだったそうです。
「彼はどんな人でしたか?」との問いに、女性は「とても心の優しい人でした。動物が大好きで、いつか犬を飼おうと言っていました。彼がいなくなった寂しさからは逃れられないでしょう」と答えました。
ウクライナ軍の兵士だけでも、今年2月までの3年で、4万5000人が戦死したとされ、墓碑は今も増え続けています。市民の犠牲も増え続けていて、どれだけの人の涙が流れれば、停戦への道筋が見えてくるのでしょうか。
(取材:アジアプレス 玉本英子)
関西テレビ「newsランナー」2025年6月25日放送