東京・日本橋で27日、ロケットの燃料タンク廃材を使ったスピーカーが、音楽イベントで披露された。空間デザイン企業と宇宙産業系プロジェクトが協力し、資源循環とサステナブルな意識変革を目指している。専門家は、生活に密着した活用が循環型社会の拡大に重要だと語る。
宇宙の廃材が音楽と出会う新発想
宇宙へと旅立つロケットの廃材が、異分野の世界で生まれ変わる。

東京・日本橋のホステルで27日夜、音楽イベントが行われた。主役となるのが、変わった形をした、その名もロケットタンクスピーカー「DEBRIS(デブリ)」だ。

ロケットの廃材から作られた世界で1台のスピーカーだ。

空間デザインを手がける「乃村工藝社」と、ロケット廃材をさまざまな家具に変える「&SPACE PROJECT(アンドスぺ―ス プロジェクト)」がタッグを組み開発した。

&SPACE PROJECT・中井章郎さん:
こちらは、元々宇宙開発で使われるロケットの燃料タンクの一部。この2台は1つの長い棒状の物になっていて、これは、(宇宙の)圧力に耐えられるかを試験するための溶接のいわゆるビート(盛り上がり部分)。

当時の溶接痕や傷跡など、素材の歴史をそのまま生かしたデザインになっている。

素材は、宇宙産業が盛んな北海道・大樹町から調達し、構想から約1年の歳月をかけて完成した。

役目を終えた素材が、新たな価値を奏でる。大量の資源を消費する建設・内装業界にとって、この取り組みは、重要な役割を担っているという。

乃村工藝社 未来創造研究所 サステナブルデザインラボ・後藤慶久さん:
環境課題の解決は、関係人口が増えていくことが重要で、自分たちががむしゃらに頑張っても、結局そこに共感値を得られない。(スピーカーを通じ)プロダクトに興味を持ち、環境に対して意識変化が起こればいいと思う。

今回の音楽イベントでは、さまざまな業種の関係者を招待し、スピーカーを通じ、サステイナブルな取り組みの仲間作りにもつなげていきたい考えだ。
招待客は、次のように話す。

招待客(アパレル関係):
廃材にするモノは日本中にいっぱいあって、作ったものを燃やすのではなく、そのまま使い続ける考えはすごく賛同できる。

参加者(イベント企画系):
代官山爽涼祭という祭りをやる予定だが、“人と環境をつなぐ”“人と未来をつなぐ”という色んな文脈の「つなぐ」を大事にしていたので、まさにサステナブル文脈のこのスピーカーは、そのお祭りに適したものだと思う。

乃村工藝社 未来創造研究所 サステナブルデザインラボ・後藤慶久さん:
小売・デベロッパー・製品メーカー、さまざまな人に来てもらい、プロジェクトに賛同してもらいながら、資源の価値・環境課題の解決を一緒に頑張っていきたい。
宇宙産業で進む資源循環が日本の安全保障にも直結
「Live News α」では、デロイトトーマツグループ執行役の松江英夫さんに話を聞いた。
海老原優香キャスター:
廃材の循環、大切なテーマですよね。

デロイトトーマツグループ執行役・松江英夫さん:
そうですね。今回の取り組みは、「宇宙×資源の循環」の観点で、非常に意味があると思います。
今、宇宙産業は、資源の有効活用が世界的な流れになっていて、例えばNASAでは、宇宙空間で排出された廃棄物や、宇宙ごみ自体をリサイクルする技術の開発も進んでいます。
海老原キャスター:
日本については、いかがですか。
デロイトトーマツグループ執行役・松江英夫さん:
日本は、特にロケット開発に関する意識が高まっています。ロケット開発は、何度も実験を繰り返すなかで、製造コストをいかに抑えるか、そのために資源をうまく使い、循環させることが大事です。
さらに、ロケットの原材料が、チタンやアルミニウムなどの重要鉱物に占められているので、日本にとって輸入依存度が高く、資源を安全に確保する安全保障の観点でも重要性が高いです。
宇宙と日常をつなぐ発想が資源循環の広がりを生む
海老原キャスター:
今後こういった動きを進めていくには、何がポイントになるのでしょうか。

デロイトトーマツグループ執行役・松江英夫さん:
宇宙産業における資源循環の輪を広げるには、「仲間づくり」の裾野をどう広げるかが大事です。
「宇宙×資源循環」と掛け合わせる「何か」をいかに広げるか。生活に根差した異業種のアイディアをいかに継ぎ込めるかにあると思います。
海老原キャスター:
この「何か」、具体的には何でしょう。

デロイトトーマツグループ執行役・松江英夫さん:
生活に身近なところと業種を掛け合わせることで、いろんなアイデアがあります。
今回のスピーカーはまさにインテリアで、宇宙ロケットの素材を使った上で、例えばベンチやテーブルなどの家具に使い、インテリアに変えるというアップサイクルです。
さらに雑貨では、ロケットの素材を金属の粉にして、3Dプリンターによって、ネクタイピンやキーホルダーといった、身近に使えるものに変えていくことも大事な工夫です。
海老原キャスター:
すでにいろんな形で、リサイクルが進んでいるんですね。
デロイトトーマツグループ執行役・松江英夫さん:
海外では宇宙ゴミを使ったアートも進んでいて、宇宙空間に対する環境意識を高める取り組みも始まっています。
宇宙というと、身近な生活からかなり遠い存在に感じますが、こういった身近につなげるような、業種を超えたアイディアを掛け合わせることによって、循環型の宇宙産業が日本でも広がっていく、そのような展開に期待します。
(「Live News α」6月27日放送分より)