今年、宮城県内では合わせて89人が消防士に採用されました。その新人たちは現在、一人前の消防士になるべく消防学校で厳しい訓練の真っ最中です。新人消防士たちの訓練に密着しました。
宮城県消防学校。県内各地の消防本部に採用された新人消防士が1年間にわたって訓練を受ける場です。この日は、東日本大震災発生直後現場で実際に活動した先輩消防士が当時の様子を話しました。
先輩消防士
「人間の力でどうにかできるもの、できないものがあると痛感した」
今年の新人たちは18歳から25歳まで。震災発生当時は4歳から11歳で当時の記憶はあまりないという人がほとんどです。
先輩消防士
「女性を探して家族がずっと多賀城市内を歩いている中で、そのお母さんを発見したときに救助要請をしてくれて」
先輩から聞く災害現場の現実。それぞれが自分の身に置き換えて受け止めます。
新人消防士たちは全員、消防学校に隣接する寮で共同生活を送っています。多賀城出身の小島晃太さんは4歳の時、津波に遭いました。
石巻消防本部 小島晃太さん
「アパートの2階に住んでいた。1階は浸水して、自衛隊に救助してもらった」
今度は人を助ける立場として不安な思いをする人を少しでも減らしたいと話します。
塩釜消防本部に採用された山田広信さん。大崎市内の保育園で震災を経験しました。
塩釜消防本部 山田広信さん
「幼いながらも絶望感というか、もう終わってしまったなという気持ちが強かったのを覚えている」
その一方で、消防団の団長を務めていた祖父に憧れを抱きました。
塩釜消防本部 山田広信さん
「災害をなくすことはできないけれど、災害を最小限に抑えることはできる。そういう取り組みをしていきたい」
厳しい訓練が続く毎日で、寮でのひと時はつかの間の休息ですが…。
(非常招集アナウンス)
抜き打ちで非常招集の訓練が行われました。消防士として急な出動に備えるため、こうした抜き打ち訓練が時々行われます。
朝から気合十分の新人たち。この日は「災害想定強歩訓練」です。災害想定強歩訓練とは、災害時の活動を想定し、消防活動に必要な装備を持って約29キロを歩くもの。重さ20キロもあるホースや筒先、ロープ、担架などを交代で運びます。これに加え、それぞれが6リットルの水分などを入れた重たいリュックを背負います。
宮城野区幸町の消防学校から若林区荒浜を目指し、再び消防学校へ。消防士に必要な体力や団結力の強化を目的に、毎年この時期に行うもので、特に過酷な訓練の一つです。
仙台市消防局 佐藤海希さん
「とても厳しい訓練になると思うが、最後まで一人も欠かさずやり切って、一人でも多くたくさんの市民を助けられるように臨みたい」
午前7時40分、訓練が始まりました。この日は変りやすい天気で、出発直後にはにわか雨も。それでも、予定通り最初の休憩場所に到着しました。仲間だけでなく、教官や報道機関にまで塩分タブレットを配る山田さん。一方、この時点で数人の隊員が靴擦れの治療を受けていました。
出発から約2時間半、折り返し地点である若林区荒浜地区に到着。一度装備を下ろし、震災遺構の荒浜地区住居跡を見学します。同行する教官が震災当時の話をしました。
宮城県消防学校 谷藤駿平教官
「消防無線で入っていた。『荒浜地区に200人くらい人が浮いている』。こっちの余剰人員を早く荒浜地区に行かせてあげたいと思っていた。ここで何かを感じ取って、皆さんの今後の長い消防生活の糧になってもらいたい」
復路の出発直後。
「新たな任務付与。要救助者複数発生。2名の要救助者を宮城野消防署まで搬送」
要救助者に見立てた重さ約60キロの人形を担架にのせて、宮城野消防署まで運ぶ訓練が追加されました。人形とはいえ、要救助者の想定。ただ運ぶだけでなく、声をかけながら歩みを進めます。
午後2時。強い日差しが隊員たちに襲い掛かります。この日の仙台市の最高気温は30.5度。休憩が増え、予定時間を大幅に超えながら訓練は続きました。
励まし合いながら、ゴール。思いが溢れます。
塩釜消防本部 山田広信さん
「ゴール直前、一番声出して一番鼓舞していたのは2小隊だった。これを生かして、今後もみんなで力をあわせてやっていこう」
石巻消防本部 小島晃太さん
「きつい中でもサポートしあう雰囲気で完歩できて、第2小隊はやっぱり第2小隊は最高だと思う」
新人消防士
「みんながいなかったら、多分、救護の車に乗せられていた。自分の限界はもうとっくに超えていた。でも皆さんのおかげで最後まで歩き切ることができた。ありがとうございました」
宮城県消防学校 谷藤駿平教官
「本当に、消防の仕事は1人でやる仕事は一つもない。みんながみんなを支えないといけない。つらい時には『助けてくれ』と言わないと、チームは成り立たない」
訓練を統括した教官は…。
宮城県消防学校 木村宣洋教官
「知識面とか技術面の向上はもちろんだが、チームワークや人を助けるという思いを、自分の中にしっかり芯として持って、強く優しい消防士になってもらいたい」
一人前の消防士を目指して、新人たちの訓練は続きます。