私たちの暮らしになくてはならない電力。
関西電力の供給する電力のおよそ半分が原子力発電でまかなわれている。
しかし、原子力発電には大きな課題があります。それは使用済み核燃料の行き場だ。

■満杯状態の使用済み核燃料プール
国は「再利用」を掲げていますが、現実は原発施設内に大量の”行き場のない”燃料が溜まっている。
美浜原発では73%、高浜原発では88%、大飯原発では90%と、使用済み燃料の貯蔵プールはいずれも高い使用率となっている。
このまま運び出せなければパンクする使用済み核燃料をどうすればいいのか。
そのカギを握る施設が青森県六ヶ所村にあります。今回、内部撮影の許可を得て、その実態に迫った。
【記者リポート】「再処理工場内部の撮影許可が出ました。これからこのバスで六ケ所村に向かいます」
青森県・六ケ所村。およそ1万人が暮らす村の中に、日本で唯一の「使用済み核燃料」を再利用するための「核燃料サイクル施設」があります。運営するのは日本原燃。
まず通されたのは、施設から1.5キロほど離れた場所にあるPRセンター。
【記者リポート】「核燃料サイクルにちなんで、『ツカッテモ・ツカエルくん』というカエルのキャラクターが出迎えてくれます」
ここから核燃料サイクル施設までの移動は、セキュリティ上の理由で撮影が禁止に。厳重な警備が敷かれる施設の内部に入った。

■核燃料サイクル施設 本来の計画と現実のギャップ
核燃料サイクル施設では、再処理工場で福井県を含む各地の原発から運び込まれた「使用済み核燃料」からプルトニウムを抽出。そのプルトニウムを加工施設に移してウランと混ぜてMOX燃料にし、このMOX燃料を用いて再び発電する計画だ。
まさに「使用済み核燃料」”処理”の核心部分を担うことになる。
しかし、その内部の現実は想像を超えるものだ。
【記者リポート】「再処理工場内の使用済み核燃料プールは、各地の原発から運び込まれてきた使用済み核燃料で、ほぼ満杯の状態となっています。このうち4分の1が、関電の原発から運ばれてきたものです」
冷やし続けるための貯蔵プールは3つ。およそ3000トンの使用済み核燃料で、99%埋まっている。
実は、再処理工場はもともと1997年に完成し、稼働するはずでした。しかし、度重なるトラブルや地震対策の追加工事などで27回延期に。
2026年度の完成を目指しているものの、いまだに稼働できず、本来すでに再処理されるはずだった「使用済み核燃料」がプールに留め置かれている。
使用済み核燃料は、水で冷やし続けなければ、燃料が溶けだし放射性物質が拡散する恐れがあります。福島第一原発事故の時には、電源喪失で、プールを冷やせなくなり、昼夜を問わず水をかけ続けた。

■人が近づくと即死する「核のゴミ」
そして、もう1つ。さらに深刻なものが保管されている場所があります。それが…処分の見通しが立たない「核のゴミ」だ。
【記者リポート】「分厚い窓ガラスの奥、オレンジのフタのさらに下の地下に、高レベル放射性廃棄物が厳重に管理されています」
ここは高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のゴミ」を一時的に保管する場所。
「使用済み核燃料」から、プルトニウムを取り出した後に残る「核のゴミ」。人が近づくと即死するレベルの放射線を放つため、ガラスで固め、さらに金属性の容器に閉じ込める。
その数1830本。およそ2メートルのコンクリートの下に、9本連なるように保管されています。再処理工場が本格稼働しない中、「使用済み核燃料」をイギリスとフランスに運び再処理。その際に出た「核のゴミ」が、この場所に保管されている。
仮に再処理工場がフル稼働すれば、さらに年間最大1000本の「核のゴミ」が発生します。この「核のゴミ」の放射能が、人体に影響のないレベルにまで弱まるには、数万年はかかるとされていて、国は最終処分地を決めて、地下300メートルに閉じ込める計画だ。

■果たされない約束 30年がたっても「核のゴミ」運び出すことできず
国は「青森県を核のゴミ捨て場にしない」と30年前に約束。六ヶ所村は、「30から50年」を期限として、核のゴミを預かることを承諾した。
しかし、約束の1つ目の節目である30年がたった現在も、最終処分地は決まっておらず、核のゴミを運び出すことができない。
約束を前提に施設を受け入れた村。現在の状況を、村長はどう受け止めているのか。
【青森・六ケ所村 戸田衛村長】「国としても契約を守ってほしい、村としてもそうありたい。そういう考え方でおりますから、私の立場から今言わせると、”最終処分地”になることは、ありえない」
このままなし崩しに、六ケ所村が最終処分地になるのではないか。強い不安がありつつも、村は複雑な気持ちを抱えている。

■「貧しい村」を変えた核燃料サイクル施設
下北半島に吹き荒れる風「やませ」の影響を受け、育てられる農作物も限られる六ヶ所村。核燃料サイクル施設を誘致する前、青森県の中でも特に「貧しい村」だった。
【漁師70代】「冬になればみんな出稼ぎ行くし、青森県でも(所得は)最低の方の村だったんじゃないですか。それに比べれば、経済的な面ですごく潤っている。良くはなっています」
これまで六ヶ所村に入った原子力関連の交付金の総額は、756億円(2023年度まで)。村は、この交付金でおよそ33億円の文化交流施設などの、公共施設を複数建設した。
村の第三セクターが運営するショッピングモール。その中に入るスーパーのすぐ横には、核燃料サイクルなどをPRするブースが。さらに核燃料サイクル施設は、大量の雇用も生み出した。
【記者リポート】「のどかな畑の風景とはうってかわって、マンションがズラーっと並んでいます」

■「この事業がなければ、きっと村には戻ってこれなかった」
村内には、およそ1000人が暮らす、日本原燃の社宅も立ち並んでいる。
ここは、日本原燃の子会社が運営する温浴施設。村の内外から多くの人が訪れる。
そこで働く村畑さんは25年前、埼玉県の短大を卒業した後、故郷である六ヶ所村に戻ってきた。
【スパハウスろっかぽっか 村畑政子さん(46)】「短大の時に村を離れていて、戻ってきた時に、全然知らない道路ができていたので、そこはすごいなぁと思いました。この事業がなければ、私の働くところはなかったので、きっと村には戻ってこれなかったのかなぁと思います」

■恩恵少ないが影響は大きい 近隣地域の不安
立地自治体として、交付金による恩恵を受けてきた六ヶ所村。一方で30キロほど離れた七戸町は、原子力関連の交付金は、六ヶ所村の6%ほど。
その七戸町で農家を営む哘(さそう)さんは、テロなどで大規模な事故が起きた場合、影響は六ヶ所村に留まらないと心配している。
【七戸町・農家 哘清悦さん(56)】「放射能漏れ事故は、市町村の境界線関係なく、広がりますから。(事故が起これば)手に負えないようなものを、我々が残してしまったということを考えると、自分がどうこうというよりも、これからの子供たちには申し訳ないなという気持ちでいっぱいです」

■地元住民の複雑な思い
核のゴミの最終処分地が決まらない中で、六ヶ所村の人たちも、不安がないわけではありません。酪農家の五十嵐さん。核燃料サイクル施設が誘致される前から、この土地で3代にわたり、およそ80年、酪農を営んできた。
【六ケ所村・酪農 五十嵐泰士さん(48)】「不安な気持ちは当然あります。安全というものは、世の中、安全に限らずだけど、100%って言われているものは、そんなになくて、当然そういう事故もあり得る話。大都市で一番電力は使われているので、そういう人たちが、核燃料サイクルをやっているのは、ここ六ケ所村ですよ。そこにはこういう人もいますよと、理解してくれることが大切なのかなと思う」

■懸念される「核燃料サイクル」の実現可能性
さらに問題なのは、核燃料サイクル施設が稼働したとしても、生み出されるMOX燃料は現在通常の原発で使われているウラン燃料のおよそ20倍のコストになる可能性があるという点だ。
明治大学の勝田忠広教授は「国の核燃料サイクル政策は破綻し、国はこの政策の失敗を認められない体質だ」と指摘している。
原子力発電を行っている多くの国でも、核燃料サイクルはうまくいっておらず、使用済み核燃料を再処理するとコストが高くつくため、新しいウランを使った方が安く発電できるという理由から、再処理せずにそのまま地中に埋めて処分する方向に動いている。

■増え続ける核のゴミ、決まらない出口
増え続ける「核のゴミ」。決まらない出口。最も多くの電力を消費しているのは、原子力関連施設から遠く離れた大都市だ。
私たちはこの問題から目をそらさず、使用済み核燃料と核のゴミの行き場について、真剣に考える必要がある。
六ヶ所村の人々の複雑な思いを受け止め、この問題を当事者として捉えることが、持続可能なエネルギー社会への第一歩なのかもしれない。
(関西テレビ「newsランナー」2025年6月17日放送)
