6月14日に開かれた初夏の風物詩「チャグチャグ馬コ」。
参加する馬の減少や後継者不足で今後の継承が懸念されるなか、祖父や父の思いを受け継ぎ初めて馬主として臨んだ大学生に密着しました。
江戸時代から続く伝統行事「チャグチャグ馬コ」は、田植え作業を手伝った馬に感謝し五穀豊穣と無病息災を祈ったことが始まりとされています。
馬主として初めて参加した泡渕珠久さん（21）は、岩手県滝沢市出身で今は北海道の大学に通っていますが、チャグチャグ馬コのために帰省しました。
泡渕珠久さん
「馬と接していると自分の心もすがすがしくなってくる気がしていて、北海道に行ったからこそ地元・滝沢のよさをすごく感じられていると思う」
本番3日前、滝沢市にある珠久さんの実家の厩舎、農業を営むこの家では農耕馬として飼っていた名残で現在も8頭飼育しています。
この日、珠久さんは祖父や父の手ほどきを受けながらブラシで馬の毛並みを整えていました。
祖父の大坪昇さん（87）は、これまでチャグチャグ馬コに43回参加し、市内に住む馬主の中で最年長です。
珠久さんの祖父 大坪昇さん
「チャグチャグ馬コを始めて43年目、馬は（飼って）50年。好きでやったものだから途中でやめようと思ったこともない」
昇さんの義理の息子で珠久さんの父親である泡渕力さん（53）は、12回参加しています。
珠久さんの父 泡渕力さん
「かわいい、子馬生まれた時も子馬育てている親馬もかわいい。そこはすごく年々感じている」
珠久さんは3歳から15歳まで当たり前のようにチャグチャグ馬コに参加してきました。
大学進学などで6年間行事から離れていましたが、今回祖父・昇さんからの誘いで馬の責任者である馬主としての参加を決意しました。
泡渕珠久さん
「今までは馬を出したことはなかったが（馬主として）出すべって言われて、ちょっと責任感は感じている気がする」
古くから全国屈指の馬の産地として知られてきた岩手。
しかしピーク時の1961年、609戸694頭だった滝沢市での飼育頭数は農機具の発達などで減少し続け、2025年6月現在は14戸40頭にとどまっています。
祖父の昇さんは馬コと歩くことが大変になってきたといいますが、伝統行事の継承に向けて強い思いを持ち続けています。
珠久さんの祖父 大坪昇さん
「私が言うまでじゃないんだけど続いてほしい。これがなくなったら滝沢市でお祭りがなくなる」
泡渕珠久さん
「（祖父は）馬を育てることに対して人生捧げてきた人。すごく尊敬できる存在。伝統文化の継承を担っていけたらいいと思っている」
珠久さんの祖父 大坪昇さん
「じゃまにならないように頑張って」
泡渕珠久さん
「頑張ります」
そして迎えた本番当日、早朝5時から馬に装束をつけ始めます。
指示を出しながら、馬一頭一頭を見つめる昇さんのまなざしは真剣そのもの。
珠久さんの父・力さんも馬を気遣いながら丁寧に作業を進めていきます。
そして珠久さんも馬主としての衣装を身に着け自分が乗る馬の様子を確認、本番へ意気込み十分です。
泡渕珠久さん
「本当に背も高くてきれいな馬なので、安全に気を付けながら楽しんで、お客さんにも楽しんでもらえるように頑張りたい」
いよいよ祭りが始まります。
きらびやかな装束に身を包んだ馬コたちは滝沢市の鬼越蒼前神社から盛岡八幡宮までの約14ｋｍを練り歩きます。
1頭あたり大小約700個あるという鈴の音が初夏の訪れを告げます。
父・力さんが引く馬に乗り沿道の人に手を振る珠久さん。6年ぶりの景色に気持ちを高ぶらせていました。
泡渕珠久さん
「皆さんが馬とふれあって手を振って頑張ってねと言ってくれる。地域の皆さんと触れ合うところも魅力だと思う」
休憩場所では馬コに水をあげた後、珠久さんもアイスでひと休み。
観客からの写真撮影に応じる場面もありました。
後半、盛岡市中心部に入ると珠久さんは馬から降りて観客の近くを歩き、沿道の声援に応えました。
そして開始から4時間、馬コたちはゴール地点に到着。珠久さんも無事に初めての馬主を務めあげました。
泡渕珠久さん
「沿道の皆さんの笑顔を見られてすごく楽しかった。祖父はずっと長年やってきているし、父もそれを引き継いでいこうとして馬の世話もすごく頑張ってくれているので、自分も続いていきたい気持ちが大きくなった」
珠久さんを優しく見守りながら一緒に歩いた父・力さんは「久しぶりなので、娘は（馬に）乗るのに緊張していたみたいですけど、慣れてきたのでよかった。続けてもらえれば本当にうれしい」
珠久さんはすでに将来を見据えています。
泡渕珠久さん
「地元で就職して今後もチャグチャグ馬コに携わっていけたらいい。自分ができることを精一杯頑張っていきたい」
未来に残したい音と風景。珠久さんは祖父と父の思いを胸に伝統を受け継ごうとしています。
