地震と豪雨、二重被災からの復興を進める石川県輪島市町野町で、北陸三県で初めてとなる臨時災害放送局の開局を目指す男性を石川テレビの稲垣真一アナウンサーが取材した。

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二重被災を乗り越え再開した田植え

稲垣:
輪島市町野町に来ています。奥能登豪雨から間もなく9カ月を迎えます。以前はこの川をふさぐように流木が流れ着いていたんですが、現在はその両側で護岸工事が進んでいます。そして、7月1日には能登半島地震から1年と半年を迎えます。この街に新たな動きが生まれます。以前このコーナーでお伝えした男性を中心に、この街になくてはならない『あること』を立ち上げるんです。

6月3日、輪島市町野町金蔵。雨の中、田植え作業が始まった。例年より1カ月遅れの田植えだ。

稲垣:
6月って今まで田植えしたことあるんですか?
山下さん:
過去に1回だけ、田植えがなかなか進まなくて6月2日、3日ぐらいで終わったことはあるんですけど。それ以来ですかね、6月に入って田植えをするって。

町野町でコメ農家を営む、山下祐介さん。能登半島地震によって2024年の作付けは例年の2割、2ヘクタール程に減った。やっとのことで実を付けた稲も、収穫途中に襲った奥能登豪雨で半分を刈り取ることができなかった。

山下さん:
さすがにショックっていうのが正直なところですよね。経費だけかけて結果収入がゼロになるんだったら、本当に今年1年、なんで田植えしたんだろうって思いたくないけど思ってしまう。

ため池や用水路の修復の目途が立たないまま春を迎えた。それでも自分の育てた米を待つ人がいる。そんな思いで、例年の1割未満ながら何とか田植えにこぎ着けることができた。

山下さん:
地震もあって豪雨もあって、米価もいい年に出すものがないというのは辛いかなという所はありますけど、一人でも二人でも、今年の新米を渡せそうなので、そこはちょっとホッとできる材料かなと思います。

 情報格差を埋める『まちのラジオ』

農業を営むかたわら、地元、町野町の復興に向け活動を続ける山下さん。
準備しているのがラジオ局だ。

山下さんたち、町野の住民が自分たちの手で運営を行う。名付けて『まちのラジオ』。

山下さん:
復旧・復興に向けて取り組んでいく中で、『正しい情報が広く早く伝わらない』っていうのをずっと課題として感じてたんですね。地震があって豪雨の時もそうでしたけれども、一時的ですけれどもやはり情報が全然入ってこないという経験もしてますし。

2024年、地震と豪雨で二度の孤立を経験した町野町。情報が得られないことの不安を身にしみて感じた。

山下さん:
とにかく高齢の方が多い地域において、何が一番有効なのかって考えた時に、よくよく考えると、『平時から高齢の人、畑でラジオ聞いてたな』とかそういうのがあったので、ラジオだったら老若男女問わず聞いてくれるのかなと…。

2025年2月の試験放送。

武内陶子アナウンサー:
2月23日、朝10時になりました。町野町の皆さん、おはようございまーす!
町野町臨時災害放送局、実験放送!

『臨時災害放送局』とは、災害発生時にライフラインの状況などをきめ細かく伝えるため、自治体が開設する、一時的なラジオ局である。1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに制度化され、東日本大震災では26局開設された。この日は一日限りの『お試し放送』であったが、大きな反響を呼んだ。

山下さん:
まずは一日お試しでって言って放送しているのに『次はいつですか?』というお問い合わせが来たり…『これ、ぜひこの後も継続してやってもらえたらすごく助かるんだけど』『いや楽しかったよ』っていう…本当にぜひっていう声が圧倒的に多かったので、それでやるぞっていう風になりましたよね。

臨時災害放送局の開局は、北陸三県でも初めての事である。ただ、スタッフの中で放送に携わった経験のある人は誰もいない。そこで…。

東日本大震災の経験から学ぶ

メンバーの1人:
5月19日月曜日、12時31分を回っています。只今開局準備中、まちのラジオ『まちのWA』

メンバーは先月、宮城県女川町を1週間にわたり訪ねた。女川町では、東日本大震災で5年間にわたり、臨時災害放送局を運営した実績があるからである。今回、訪ねたのは、当時のメンバーから、放送機器の扱い方や番組の作り方を学ぶためである。

メンバーは、旧女川さいがいFMのスタッフから、「原稿を読み間違えるのはいい。不安になって急に声が小っさくなったりとか…そこは堂々と読み直しすればいい。」や、「一人でずっと喋ってるとすごいダラダラっと間延びした感じの放送になるので、インタビュー形式の方が聞いている人も気持ちよく聞ける」などといったアドバイスをもらった。

厳しくも愛のある指導。それは、この放送局を運営していくことの難しさを誰よりも分かっているからである。

旧女川さいがいFM 松木代表:
新たにラジオ局をやる、尚且つ災害が起こってから避難所が解散しているという状況であれば、成果を出すというのはすごく難しい。町民の人たち1人でも多く一緒にやってもらう。ただ聞いてもらうだけじゃなくて、一緒にやってもらう。どれぐらい輪島の人たちに認められて、みんなを引っ張っていけるかにかかっているので…そこは僕らの次元よりも成果を生むかもしれない。何か夢あるでしょ。

 地域の力で開局へ

山下さん:
もう色んな人から『応援しています』『頑張ってください』という声を頂くので、その期待に応えられるようにしっかりとした放送、町野の人にとって役に立つ放送を実現していきたいなと思いますんで…開局に向けて走るのみっていう感じですね。

多くの人の支えを得て始まる『まちのラジオ』。今月下旬の開局を目指している。

山下さん:
ちょうど、いま予定としてはこの間に(放送ブースを)何とか設置できないかということで…。

稲垣:
ここなんですか!

山下さん:
ここです。とにかく急ピッチでいま開局に向けて進めているので、まずはプレハブのスタジオですけども、何とかそれで放送を始めて、皆さんにも是非放送にも参加をしてほしいですし、見に来てほしいなと思って準備を進めています。楽しみにして頂ければなと思います。 

石川テレビ
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