コメの価格高騰への対策として政府の備蓄米放出が続いています。市場の販売価格を下げるという政府の狙いですが、値崩れを起こすのではないかとコメ農家の間には不安が広がっています。


◆農業は天候に左右される

政府の備蓄米放出についてコメ農家の声を聞こうと取材したのは、福井市の安実農場。安実靖司さんは、祖父の代から3代にわたって農業を営んできました。40ヘクタールの農地でコメやダイズを育てています。
 
今、コメを取り巻く情勢が揺れていることについて、安実さんは―
「コメ問題が過熱しすぎというか…農産物は天候に左右される。いつもいつも手に入るものではないと、少しは知ってもらえたのではないか」
 
小泉農林水産相は10日、備蓄米20万トンの追加放出を発表。対象となるコメは2020年産と2021年産で、20年産の価格は5キロあたり約1700円とされています。
     
小泉農水相は「明日からまた追加の備蓄米放出します。全く手を緩めるっていう気はないと。できることは何でもやるということを、改めてマーケットの皆さんにお届けしたい」と発言。具体的な策を次々投入していきたいとしました。

県内でも、先週末から随意契約による備蓄米の販売が始まりました。価格は5キロで2000円前後。安いコメが市場に出回ることは、生産者にとって何を意味するのか。
 
安実農場・安実靖司さん:
「民間のコメの価格バランスも壊れてしまう部分もあるので不安。どの業者も不足感がまだ強いから、今年の新米は値段が高く動くのではないか。その後、もしかしたらグンと値段が下がる可能性がある」
 
市場を支えるのは生産の現場です。価格が大きく動けば、その土台が揺らぐ可能性もあります。


◆生産コスト上昇、余裕ある経営は難しい

安実さんが大型の農機を見せてくれました。「これはコンバイン。イネやムギの収穫に使う機械で(購入時は)1300万円ほどだったが、今は2000万円近いので…買い換えるのが怖いですね。兼業農家が少しずつやめている。正直、高級車みたいなもんですから」
 
高額な機械投資。そして、年々膨らむ資材費と燃料費。どれだけコメを作って売っても、余裕のある経営にはなかなかつながらない、それが現実です。
 
政府の対応について、安実さんはこう苦言を呈します。「ここ1年でコメの収量も戻るので、そんなに増産に踏み切る必要もないと思う。急きょ増産するにしても1年はかかる。そんなにすぐ増産できるものでもない。増産しても米価が下がってくると、農家が何やっているんだという話になる。国もうまく調整してもらわないと困る。単純に米価を下げるために動くのではなく、今後の農業、日本の農業者のことを思って動いてほしい」


「コメが足りなければ作ればいい─」
その裏にある、現場の声。コメを増産するには、時間も人手も必要です。
 
安実さんは、国が明確な方針を示すとともに農業者に支援を行うべきだと訴えています。


◆持続可能な農業の形を―

政府備蓄米の多くが放出される見通しの中で、安実さんは「民間の業者には確かに不足感があるが、決してコメがないわけではない」と話していました。
  
もし備蓄米が大量に市場に出回ればコメ全体の価値が下がり、民間の米価にも影響が出かねない。安実さんはそうした不安を率直に語ってくれました。
 
農業を続けていくには、コンバインのような高額な設備投資も欠かせず、経営の先行きを見据えると、価格の安定は極めて重要だということですね。
 
農家の暮らしが守られてこそ、 私たちの食卓の安定があります。今、問われているのは、持続可能な農業の形です。

福井テレビ
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