「一刻の猶予もない中で、23年が経った今も一歩も前進していない」
こう訴えるのは、北朝鮮に拉致された日本人を救う福井の会の森本信二会長だ。23年前に帰国した拉致被害者・地村保志さん(70)の同級生でもある。帰国当時は連日メディアで報道され国民の大きな関心を集めたが、その後は進展がないまま年月だけが過ぎ、風化が進んでいることに危機感を感じている。

七夕デート後に忽然と姿を消した2人

福井県小浜市の地村保志さんと富貴恵さんは、1978年7月7日、レストランで姿を目撃されたのを最後に忽然と姿を消した。

当時は拉致と断定されていなかった
当時は拉致と断定されていなかった
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小浜公園には2人が乗っていたと見られる軽トラックが、キーが差さったまま放置されていた。その直前に婚約し結納を交わしていた2人は、拉致されてから1年4カ月後に現地で再会し、結婚。2002年10月に夫婦で帰国し、23年が経った。

帰国後、地元の小浜で歓迎を受ける地村夫妻
帰国後、地元の小浜で歓迎を受ける地村夫妻

拉致被害者も支援者も高齢化

2025年5月、小浜市内で「北朝鮮に拉致された日本人を救う福井の会」の総会が開かれた。ただ、この場に、毎年出席していた地村さんの姿はなかった。
  
北朝鮮から帰国した当時47才だった地村さんも、70歳の古希を迎えた。救う福井の会の森本信二会長は「(地村さんは)年々無理が効かなくなってきている」と話す。そう話す森本さんは地村さんの同級生、70歳だ。

北朝鮮に拉致された日本人を救う福井の会・森本信二会長
北朝鮮に拉致された日本人を救う福井の会・森本信二会長

地村さんは帰国後、小浜市役所に勤務していたが、2016年に定年退職。「拉致被害者の自分に何かできることがあれば」と救う会に協力を申し出た。以降、メンバーとともに早期解決を求める署名活動や若年層への拉致問題の啓発に取組んできた。しかし、体調への負担を考慮し、今後は活動を縮小することを決めたのだ。
  
救う会福井が毎年実施しているイベント会場での署名活動にも毎回参加していたが、「今回は遠慮したい」との申し出があったという。
   

署名活動に参加する地村さん
署名活動に参加する地村さん

森本会長は「体力面の衰えや、精神的な疲れなどあるんだと思う」と理解を示す。さらに地村さんの苦悩について「帰国後も“拉致被害者の地村さん”として見られることで感じることもあったと思う。今まで協力してくれたことは感謝して、彼自身の気持ちを尊重するのが大事」と寄り添う。

同級生の森本会長は地村さんの心境に寄り添う
同級生の森本会長は地村さんの心境に寄り添う

若年層への啓発が課題

「横田めぐみさんはあなた達と同じ歳の頃に拉致された。関心を持ってください」
  
若者に署名を訴えるメンバーたちも、地村さんの同級生だ。「子どもらに知ってもらうよう努力をしないといけない」と危機感を募らせる。
  
署名に協力した中学生に、拉致問題について知っているかと尋ねると「前回署名したときに初めて知った。もっと深く知って考えたいと思った」と前向きな声が聞かれた。
  
同じく署名をしていた親子。娘は拉致問題について「全然知らない。そういう事件があったのは知っているけど詳しくは知らない」と語る。母親は「テレビで扱われているときは、昔、小浜でそういう事があったんだと伝えたことはあるけど…帰国したときはニュースの扱いが大きかったがそれから何十年と経つと、どうしても忘れてしまう」と風化を口にする。

「拉致問題を知らない」という若い人も
「拉致問題を知らない」という若い人も

拉致問題の風化が懸念される中、メンバーも高齢化し、会では今後どう次世代へ引き継いでいくのか、大きな課題に直面している。
  
「一刻の猶予もない中で、被害者が帰国して23年が経った今も一歩も前進していない」こう語る森本会長は、政府に対する苛立ちを隠せない。「日本政府の拉致問題解決に対する本気度が試されている時期だと思う。私たちも古希を迎えるが、いつまでも活動を続けられる体ではない。これからは仲間や行政とも相談しながら、新しい組織のあり方や活動の仕方を考えていかなければならない。一番大事なのはこの活動を止めてはだめだということ。私たち国民の声が小さくなればなるほど、一番喜ぶのは北朝鮮だと北に強い思いをぶつけて解決を迫り、動かない政府に対して私たち国民の声を訴えて導いてもらうのが大事」
 

活動継続の必要性を訴える森本会長
活動継続の必要性を訴える森本会長

森本さんが会長になった10年前と比べると、署名の数も減ってきているという。メディアを含め、国民一人ひとりが拉致問題へ関心を寄せ、声を上げ続け、政府を突き動かす“原動力”が求められている。

福井テレビ
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