45歳・独身、車の中での生活…ここが戦さんの今の居場所だ。「戦力外」と感じた会社員時代。「戦力外110kgおじさん」という名前でYouTubeを始めた男性は、やりたいことに没頭できる環境に身を置き、いまや困っている人を救う「戦力」を持ち備えた。
好きなことに没頭できる今
記者:なんてお呼びすればいいですか?
「YouTubeに出している名前が『戦力外110kgおじさん』じゃないですか?なので、皆さん『戦(せん)さん』って呼ぶ人が多いですね」
自称「戦力外110㎏おじさん」の戦さん。勤務していた会社を辞め、現在はYouTubeへの動画投稿などで生計を立てている。福島県を拠点に、おじさんが思いのままにぼやき、愛車の中で好きなものを食べるだけの動画だ。

「『戦力外さんはいいですよね、家族と疎遠だし。友達もいないから自由で』とバカにされた。倍以上も歳の離れたやつらにバカにされて…私は『おい!お前ら年上の人をバカにするんじゃない!』とガツンと言ってやった。…心の中で」
YouTube「戦力外110kgおじさん」より
動画のほとんどは、戦さんの趣味や、やりたいことが中心。好きなことに没頭できるのも会社員生活をやめたからこそだという。
戦力外と感じた会社員時代
「戦力外って名前は、会社組織の中にいたときに自分があまり役に立たなくて、無能で戦力外だなって思って戦力外とした」と語る戦さん。
2年前までインフラ整備の会社で働いていたが、不器用でなかなか仕事を覚えられず、苦悩の日々だったという。自分への歯がゆさと会社へのうしろめたさで、精神的に追い込まれていった。

「自分はここにいていいのだろうか?給料もらうだけの仕事をしているのだろうか?と自問自答したりしていたし、言われたりもした」と振り返る。
コンプレックスを武器に
車中生活を始めたのは、そんな辛い現実を忘れ、非日常な生活を味わうため。
不器用さは相変わらずだが、会社員時代は嫌いだった不器用な自分を今は少しずつ受け入れられるようになった。

「もう本当に不器用だし、バチッと決められないし。以前はそれがコンプレックスだった。かっこよく決めないといけない場面で失敗して笑われるのがコンプレックスだったけど、YouTuberになったら、そういうのがネタになる。YouTuberになったら宝になった」と語る。
人の役に立つ存在
哀愁漂う不器用な中年の男性が、趣味の車中生活で辛さを忘れ、目の前のやりたいことを楽しむ。その動画は、厳しい社会を生きる多くの人々から共感を得ている。戦さんのYouTubeの登録者は17万人まで増えた。そして、会社員時代は見いだせなかった新たな役割も担い始めていた。

福島県郡山市にある「味噌担々麺ばんかい」店主の大須賀雅彦さんは、以前に事業を失敗していることもあり戦さんの動画に心を動かされた一人だ。ラーメンの味には定評があるものの、立地などの条件が悪く集客に苦戦。そんな時に、戦さんの動画を見てある依頼をした。

戦さんは、この店でアルバイトをする動画を投稿。すると、動画の視聴者の間で店はちょっとした「聖地」となり来店客が急増したという。
依頼に「最初は戸惑った」という戦さん。「会社員で戦力外だった自分が、何か人の役に立てるのかなと思っていた」と話す。
必要とされる戦力に
会社員としての居場所は見つけることができなかった戦さん。今は、ありのままの自分が必要とされる居場所がある。

「戦力外と名乗っているくらいなので、無能で役に立たない人間なのだなって思っていた。色んな人から問い合わせがあって、“頼られる”じゃないけど自分のいい意味での影響力を友人や仲間のために使えるようになった。そこが自分の『居場所』というか、多少、仲間やそういう人たちにとって自分は戦力外ではないのだという思いはあります」と戦さんは語った。

学校や仕事、人間関係などで、時に見失ってしまう自らの存在意義。戦力外110kgおじさんの車中生活は、誰でも自分らしく、輝ける場所があることを気づかせてくれるヒントになるのかもしれない。
(福島テレビ)