「年収103万円の壁」の引き上げなどを掲げ、2024年の衆院選で躍進し、党の支持率では「野党第1党」の座を占めてきた国民民主党は、ここに来てその勢いに陰りが出てきたとの見方も出ている。夏の参院選で擁立する候補者の発表に続き、玉木代表の備蓄米に関する発言などについて、インターネット上を中心に批判が相次いだ。取材を通して、なぜ国民民主党が世論の反発が想定される候補者の擁立に至ったのか、そして、今後、求められる党の課題などについても迫った。

「自分の言葉で丁寧に説明尽くす決意」山尾志桜里氏が出馬会見開催へ

「初心に立ち返ろう。自分の言葉で丁寧に説明を尽くそう。その上でなお国政で貢献したい思いをまっすぐ伝えよう。その決意が固まった」

4日未明、自身のSNSにこのように投稿したのは、参院選の比例代表に国民民主党から立候補する山尾志桜里元衆院議員だ。投稿の中で、山尾氏は、「60人以上集まった2009年当選同期会。私の再挑戦の件も、同期の仲間という一点で、本当にあたたかい励ましをもらった」ともつづった。

山尾氏の立候補をめぐっては、インターネット上を中心に、過去の行動を問題視した批判が相次いでいる。そして、公認が発表されて以降まだ行っていない記者会見での説明を求める声が高まっている。

こうした中、未明の投稿の約14時間後、山尾氏は改めてSNSに「出馬会見をさせてください」などと投稿し、次のように説明した。

「決定当初は自然体で会見を設定していたが、その後、私の発信や会見が党に与える影響を読むことができず、躊躇していた。個別の取材対応より会見は影響が大きいので控えてほしいという声も届いており、その気持ちも痛いほど分かった」

その上で、「繰り返し丁寧に説明するという普通のことをやれてなかった自分と向き合い、猛省した。相前後して、代表や幹事長もそれぞれご自身の記者会見で、『会見すべき』と言っていることを知り、背中を押して頂いた。先送りすべきではないと思っているので、おって詳細をお伝えする」とつづった。

国民民主党は5月14日の両院議員総会で、山尾氏のほか、須藤元気元参院議員、足立康史元衆院議員らを参院選比例代表の候補として公認することを決めた。

山尾、須藤、足立3氏はそれぞれ立憲民主党や日本維新の会などに所属していた元国会議員だ。山尾氏は不倫疑惑や政治資金問題、須藤氏は原発やワクチン政策に関する発言、足立氏は他党批判などをめぐり国会で懲罰動議が提出されたことなどについて、問題視する声があがっていた。しかし、玉木代表ら執行部は、政策などについて党の方針に従う旨を記す確認書の提出を条件に、それぞれ公認に踏み切った。これに対し、インターネット上を中心に批判が相次いだが、特に反発を招いたのが山尾氏の擁立だ。

第45回衆院総選挙で当選し、初登院した山尾氏(2009年9月)
第45回衆院総選挙で当選し、初登院した山尾氏(2009年9月)
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山尾氏は、玉木氏と同じ2009年の衆院選で初当選を果たし、「保育園落ちた 日本死ね」の匿名ブログを国会で取り上げ、一躍脚光を浴びた。当時、筆者は民主党や民進党の担当記者として取材を続ける中で、党内に加え、支持団体である連合の関係者から、山尾氏の将来に期待する多くの声を聞いたことを覚えている。そして、山尾氏は当時の民進党で政調会長に抜てきされた。しかし、自らが支部長を務める政党支部で、2012年の1年間で約230万円分のガソリン代が計上されていた「地球5周分のガソリン代」疑惑が報じられ、厳しい批判を受けた。また、前原代表時代には幹事長に抜てきされる予定だったが、既婚男性との不倫疑惑を受けて見送られ、その後、離党に追い込まれた。

新たな代表に前原氏が選出された矢先の民進党に与えたダメージは計り知れず、その後、党の分裂を招いた「希望の党騒動」の一因になったとも指摘されている。当時、ある党幹部は、「山尾氏の件で動揺している民進党に対し、安倍首相はここがチャンスだと見て、衆院の解散総選挙に踏み切った。すきを見せて選挙を誘発させたという意味では、党を分裂させた戦犯の1人だ」と、憤っていたことを思い出す。

その後、山尾氏は立憲民主党などを経て、国民民主党に入党。15人の国会議員が参加した現在の国民民主党の結成メンバーに名を連ねたが、2021年に「私には政治家とは別の立場で新しくスタートしたいことがある」として政界を離れた。

榛葉幹事長「政党は幕の内弁当」 党の支持率が軒並み下落に幹部「山尾ショック」

山尾氏らの公認決定の2日後、榛葉幹事長は記者会見で、「100点満点の候補者ばかりではない。しかし、人間よいところもあれば、改善した方がよいところもある」とした上で、「自分の長所を最大限生かし、有権者に期待される結果を出してほしい」と強調した。そして、次のように訴えた。

国民・榛葉賀津也幹事長
国民・榛葉賀津也幹事長

「政党というのは幕の内弁当みたいなもので、色々な具が入っている。アレルギー体質だからというのは食べなければよい。好き嫌いがあるが、色々なものが入るから一つの弁当になる」

その上で、「ネット上で様々な賛否があるのは承知している。評判が悪ければ札(票)が入らないだけだ」と強調した。

しかし、報道各社の世論調査では、党の支持率は軒並み下落。FNNが5月17日18日に実施した世論調査でも、支持率は8.4%で、4月の前回調査よりも3ポイント下落した。

政党支持率の下落について、参院選の擁立候補者の発表が影響したとの見方を示した玉木代表
政党支持率の下落について、参院選の擁立候補者の発表が影響したとの見方を示した玉木代表

玉木氏は19日、記者団の取材に対し、「各社の調査で支持率が下がっていることは承知している。ネットで様々な批判があがっていることも全部見ているし、受け止めている」と述べた上で、次のように強調した。

「支持率が各社、落ちているということは、やはり影響があると思う。擁立の意義、理由をよりきちんと説明をしていくことが必要だ。長く支援いただいた方、特に支持率が1%前後の時から、一生懸命、踏ん張って支援をいただいた方々に不信感を与える形になってはいけない」

そして、玉木氏は、「手取りを増やす政策を実現していくためには、参院でも議席を増やしていかなければいけない。まだまだ擁立数が足りない」との認識を示した上で、「新人はもとより議員経験のある方についても、我が党の政策の方針に合致する方は擁立していくということで、党内でも様々な議論があったが、その中で決めて擁立した」と説明した。

ある幹部は、党の支持率の下落について、「山尾ショックだ。1人でこれだけ支持率を下げることができるのは、ある意味すごい」と漏らす。また、別の幹部は、「予想はしていた。世間の反発を見れば下がるのは当たり前だ」と冷静な見方を示し、擁立に踏み切った背景について、「衆院選で多くの新人議員が当選したが、戦力になっているかと言えば、まだまだ疑問だ。大きくなりつつある党にとって、議員経験のある即戦力が必要だった」と、苦しい内情を吐露した。

女系天皇に関する議論促す投稿 玉木代表「発信には注意をと伝えている」

それでは今回の山尾氏の擁立について、立憲民主党や日本維新の会など他の野党はどう見ているのだろうか。ある野党幹部は、「国民民主党はネット上で支持を広げてきたが、逆に批判の嵐になっている。支持率の下落は止まらないのではないか」との見方を示す。また、別の関係者は、「山尾氏の言動はよくも悪くも注目を集めている。政策などについて少しでも党と違う見解を示した時に、世間がどう反応するか。それを見誤ると、とんでもない負の連鎖になる」と話す。

こうした見方が現実のものとなってきているのが女系天皇をめぐる議論についてだ。山尾氏は公認決定の翌日の15日、自身のSNSに投稿し、「女系天皇の議論を避けつつ、女系天皇の選択肢を排除する進め方は間違っている」と、母方にのみ天皇の血筋を引く女系天皇についての議論を促した。

これに対し、2日後の17日、玉木氏は横浜市で記者団の取材に対し、「発言、発信には注意してもらいたいと伝えている」と明かすと共に、次のように述べた。

「少なくとも悠仁親王殿下までは、現行憲法または皇室典範のもとで、男系男子ということで引き継ぐ流れが明確に決まっている。これを揺るがせにするような議論は、かえってようやくまとまりかけている議論を妨げることになりかねない」

その上で、「有識者会議の報告書の中にもある通り、その先のことを議論するのは時期早尚だ」との認識を示した。

しかし、その後もネット上では、見解の食い違いを指摘する声が相次ぎ、玉木氏は6月6日、自身のSNSに投稿し、「国民民主党の皇位継承・皇室制度に関する考え方について疑問の声をいただいた」として、改めて先述の見解を説明する事態となった。

玉木代表「政権担いたい」 党内から参院選後の党のガバナンス懸念する声も

山尾氏らの公認決定に先立つ大型連休中の5月5日、玉木氏の姿は東京・JR秋葉原駅前にあった。街頭演説に臨んだ玉木氏は、集まった多くの聴衆に対し、次のように訴えた。

JR秋葉原駅前で街頭演説を行った玉木代表(5月5日)
JR秋葉原駅前で街頭演説を行った玉木代表(5月5日)

「誰よりも、何よりも政策や理念にこだわってこれからもやっていきたい。政権を担いたい。そう思っている。そのためには大きな塊、数もいる。でも大きな塊は確かに大切だが、大きな塊にするためにも、その最初の塊は正しい塊でないとダメだ」

そして、東京都議選や参院選に向けて、「正直まだまだ力不足だ。もっと力を与えていただき、さらに政策を実現する力を強めていきたい」と、党への支持を訴えた。

一方、参院選後のガバナンスをめぐって、党内からは懸念する声もあがっている。山尾氏らの公認決定の2日後に収録されたインターネット番組の中で、党の広報委員長を務める伊藤孝恵参院議員は、苦しい胸の内を次のように吐露した。

「確認書が必要な候補者をお願いして大きくするというのが正しいことなのか。衆院選でたくさんの方に期待していただいた。その時に何を期待してもらったのか、謙虚に内省した上で、もし私たちに少しばかりのエールがあるのだったら、そこにそぐう、私たちの政策を何のにごりもなく言える、無名でもよいから、そういう逸材を探してくる、その人たちを仲間にして大きくしていく、青い私からすると、そういうものなのかと思っていた。先輩方からそんな甘いものではない、清濁併せ吞む、それが政治だみたいなことを言われると、そういうものなのかという悩みがある」

その上で、伊藤氏は、「我々が参院選の後、ものすごく課題になるのはやはりガバナンスだと思う」と強調した。

山尾氏は8日、SNSへの投稿で、「事務所をオープンした」として、「小学校から大学までの同級生。バイト仲間から司法試験浪人仲間。社会に出てから仕事を通じて知り合った、今やかけがえのない友人たち。なかには党の応援団の方も。感謝で胸が詰まり、挨拶で言葉が詰まった」とつづった。そして、記者会見については、次のように言及した。

「豊かで強い国、国民にあたたかい優しい国。そういう日本を作る。約束を実現する。そのためにも、今週会見をしっかりやらなければならない。今週前半で党にお願いし調整中だ。決めて頂けた際には、できるだけ早くお伝えする」

ある党の関係者は、「会見を開くと言ってもそう簡単な話ではない。時間や質問者などを制限すると逆に批判が集まる。会見を開く場合には無制限しかない」と、慎重な姿勢を示す。

山尾氏の記者会見が実際に開かれるのか、その場で山尾氏が自らの思いをどのように訴えるのか、そしてそれが国民の理解を得られるかどうかが問われている。
(フジテレビ政治部 野党担当キャップ 木村大久)

木村 大久
木村 大久

フジテレビ政治部(野党担当キャップ・防衛省担当)、元FNN北京支局