大正から令和へ。100年余りにわたり秋田市の歓楽街で営業を続けてきた老舗料亭が5月で店を閉じた。歴史を締めくくる最後の日、長年店を守り続けてきた女将(おかみ)は、いつもと変わらず真心を尽くして客をもてなした。

断腸の思いで閉店を決断

秋田市の歓楽街・川反にある老舗料亭「濱乃家」。

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1918(大正7)年に本格的な数寄屋造りの料亭として創業し、冠婚葬祭や社交の場として、数多くの地元の名士や文化人などに利用されてきた。

濱乃家でのきりたんぽ作りの様子
濱乃家でのきりたんぽ作りの様子

家庭料理だった「きりたんぽ鍋」を料亭のメニューに加えるなど、郷土料理の浸透にも貢献してきた。

秋田を代表する老舗の料亭として親しまれてきたが、新型コロナの影響で経営が厳しくなった。さらに人手不足によって運営が難しい状況が続き、2025年2月、店を閉めることを決断した。

「断腸の思いで閉店を決断した」と話す料亭 濱乃家・竹島知憲社長
「断腸の思いで閉店を決断した」と話す料亭 濱乃家・竹島知憲社長

料亭 濱乃家・竹島知憲社長:
予約は来るが受けることができないという状況が3~4年続いた。断腸の思いもあるが、やっと肩の荷を降ろせるという感じもある。このサービスを県民の方が理解して利用していただいたのが濱乃家の歴史なので、本当にありがたいと思っている。

最後まで真心込めておもてなし

40年以上、ほぼ休むことなく客を迎えてきた女将の竹島仁子さん。

料亭 濱乃家の女将・竹島仁子さん
料亭 濱乃家の女将・竹島仁子さん

最後の営業日となった5月30日、「107年で終わるということは本当に残念だが、いつもと同じように平常心で客を迎えたい」と心境を語った。

この日店を訪れたのは3組約30人。
最後の客を前に女将は「どうぞ皆さま、最後までごゆっくりお過ごしください」といつもと変わらぬ笑顔であいさつ。県産の食材を使った自慢の料理や地酒を振る舞い、女将は一人一人、真心を尽くしてもてなした。

「濱乃家は特別な存在だった」と語る男性客(右)
「濱乃家は特別な存在だった」と語る男性客(右)

山形県出身で、長年秋田で働く男性客は、川反の中でも日常から離れられる濱乃屋が特別な存在だったと振り返る。そして「地域の味が減っていくという感じがする。寂しさは当然ある」と閉店を惜しみながらも「長い間店を守ってもらって、本当にありがとうございましたという気持ち」と長年の労をねぎらった。

老舗の歴史はこれからも川反とともに

閉店の時刻まで残りわずか。女将と客の笑顔とともに料亭 濱乃家の歴史が終わりを迎えようとしていた。

最後まで笑顔で客をもてなす女将
最後まで笑顔で客をもてなす女将

午後9時半、宴会が終わり最後の客を見送ると、いよいよのれんを下ろす時がきた。
門に柵を設置し、最後の片付けが終わると、女将は「では、お疲れ様」と従業員に声をかけた。

料亭 濱乃家女将・竹島仁子さん:
きょう1日終わった。またあす頑張ろうという気持ちで、まだ実感がない。濱乃家は青春の場だった。

地域に愛されて107年。濱乃家の歴史は、店の明かりが消えても川反の街とともに生き続ける。

(秋田テレビ)

秋田テレビ
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