「ペットは家族」と言われる時代。
飼い主の思いに応えるように、自宅で預かるペットホテルが注目を集めている。
ケージを嫌がる犬も安心して過ごせる空間…。そこは、まるで“第二のわが家”のようだった。
「人間の子どもと一緒」
週末の朝。1人の女性がオスとメスの小型犬を抱き上げ、車に乗せていた。
広島市内の一軒家で「ぬくもりあふれる犬たちの宿 ワンコ亭」を営む松浦三佳さん。
犬の性格について尋ねると、松浦さんは笑顔で「みんな違います。人間の子どもと一緒です」と答える。

自宅で犬の預かりサービスを始めたのは2025年3月。いわゆる“ペットホテル”ではなく、「一緒に寄り添って過ごすペットシッターのような形」だという。
この日、ワンコ亭に宿泊するのは、マルチーズの「まる太くん」(4歳)と、マルチーズとチワワのミックス「はなちゃん」(4歳)。飼い主から預かった手書きのメモには、2匹の性格や生活リズムなどが丁寧に記されていた。

その中には、“理解できる人間の言葉”も…。
例えば、「しーしー(おしっこ)」「ペッ(口にくわえているものを出す)」「かーお(ペット用の服を着る時に顔を出す)」など実に10語以上。
「すごいですね。飼い主さんがめちゃくちゃこの子たちをかわいがっているのが、すごくよくわかる」
松浦さんは、この家族の幸せな暮らしをメモに感じていた。
ケージフリーの“お泊まり会”
ほとんどのペットホテルは、犬同士の事故を防ぐためケージなどに入れて管理する。しかし、最近はペットを飼育する環境に変化が起きている。

「ペットというよりも家族。一緒の空間でペットと寝食を共にするスタイルの人が多い」
室内犬は柵に囲まれたサークル内で過ごす位置づけだったが、今ではサークルやケージに入れない犬もいるという。松浦さんは「ケージに入ったことがない子をケージに入れると、余計にパニックを起こす」と話す。

新たなニーズに対応するために松浦さんが始めたペットの預かりサービス。1日1組限定のプレミアムコースは、ケージには入れず、できる限り部屋で寄り添って過ごす。
散歩は1日2回。 すべての犬が散歩好きとは限らない。散歩が苦手な子もいるため、無理のないペースで散歩に連れていくという。
スプーンで食べる? 手から食べる?
食事も同様だ。スプーンで食べる子、手からでないと食べない子。それぞれに合った方法で世話をするのが“松浦流”。

2匹がおもちゃで遊んでいる。これは犬の知育玩具?

ニンジンの下におやつを隠し、見つけたら、引き抜いて食べるというもの。犬の心を刺激する工夫が施されている。
松浦さんが言った通り、まるで“人間の子ども”のようだ。
「修学旅行みたい」添い寝の夜
極めつけは、「添い寝」サービス。
その夜、松浦さんは2匹のために人間用の布団を敷いた。まる太くんが「待っていました」とばかりにふかふかの布団に飛び込み、はしゃいでいる。

「今日はここに泊まるんよ。修学旅行みたいだね。一緒に寝ようね」
松浦さんは、預かった犬たちと一緒に眠った。添い寝までする徹底ぶりである。
このワンコ亭には、神奈川や大阪など、県外からも問い合わせが多く寄せられている。希望があれば事前に見学してもらい、利用者が納得したうえで預かるようにしているという。
「ストレスがゼロと言ったらうそだと思う。ここは自分の家ではないので。だけど極力寄り添うというのが、私がしてあげたいこと」
そう話す松浦さんの言葉には、犬たちへの深い愛情がにじむ。

月曜日の朝、飼い主が迎えにきた。
窓辺でしっぽを振る2匹。飼い主にかけ寄って、思い切り甘えている。飼い主は「ケージが何段にもなった檻のようなところではかわいそうかなと思って。できるだけストレスのない場所を探してあげたかった」と話す。
こうして、まる太くんとはなちゃんの初めての“お泊まり”は幕を閉じた。
「ペットホテル」という言葉では伝えきれない、ぬくもりに満ちた「犬の宿」。ペットの家族化が進む今、飼い主とペットに寄り添うサービスがさらに増えていきそうだ。
(テレビ新広島)