天皇皇后両陛下は戦後80年に当たり、長女の愛子さまを伴い、6月4日から2日間の日程で沖縄県を訪問された。2025年は、上皇さまが皇太子時代の1975年に初めて沖縄を訪問されてからちょうど50年。そこから11度も足を運ばれ、沖縄に心を寄せ続けてこられた上皇ご夫妻。今回は、天皇・皇后として最後の沖縄ご訪問を取材した平成30(2018)年4月8日放送「皇室ご一家」(第1948回 天皇・皇后両陛下 沖縄への思い)を振り返る。
なお、本記事は当時のナレーションをそのままとし、上皇ご夫妻をそれぞれ「天皇陛下」、「皇后さま」と記載する。
11回目の沖縄ご訪問
天皇・皇后両陛下は3月27日から3日間、沖縄県を訪問されました。

那覇空港で多くの人々の歓迎に手を振って応えられた両陛下。

沖縄県をお訪ねになるのは、皇太子時代を含め11回目となります。
天皇・皇后両陛下 沖縄への思い
沖縄到着後、まず向かわれたのは、18万人あまりの犠牲者が眠る糸満市の国立沖縄戦没者墓苑。

両陛下は、白菊の花を手向け、深く拝礼されました。

太平洋戦争末期の昭和20年3月から6月。地上での戦いとなった沖縄では、多くの民間人を含む、およそ20万人が犠牲になりました。
昭和50年。皇太子時代の両陛下は、天皇家として戦後初めて、沖縄県をご訪問。

「ひめゆりの塔」に献花された際、「火炎瓶事件」が起こりました。

陛下はこの日、「多くの尊い犠牲は、一時の行為や言葉によってあがなえるものではない」とし、沖縄に心を寄せ続ける気持ちを発表されたのです。
以来両陛下は、沖縄と沖縄の人々に特別な思いを寄せられてきました。8年後の昭和58年、「ひめゆりの塔」を再びご訪問。

両陛下が沖縄を訪問されるたびに、沖縄の人の心も、和らいできました。
即位後の平成5年、6回目のご訪問の際には、沖縄平和祈念堂で多くの遺族に会い、優しく励ましの言葉をかけられました。
《両陛下とご遺族の会話》
陛下「お父さまを亡くされたのですか。」
遺族「はい」
陛下「どうぞ皆さん、力を合わせて、お元気で」

戦後、沖縄の人々に長く心を寄せてこられた両陛下。即位10年の会見で、陛下は改めて「沖縄への思い」を述べられました。

《天皇陛下 おことば》
沖縄はその後米国の施政下にあり、27年を経てようやく日本に返還されました。このような苦難の道を歩み、日本への復帰を願った沖縄県民の気持ちを日本人全体が忘れてはならないと思います。
沖縄戦没者墓苑で遺族とご懇談
そして今年、国立沖縄戦没者墓苑の前で、両陛下は、遺族の人々に会われました。

ひとりひとりに労いの言葉を掛けられた両陛下。そこには、25年前にも両陛下と会った、照屋苗子さんもいました。

《沖縄遺族連合会 照屋苗子前会長インタビュー》
天皇陛下の方から「遺族会のために頑張って来られましたね」と言われましたので「はい、ありがとうございます」と言って。皇后さまは「お元気でしたか」って。だから私は、覚えて下さっているんだと思ってうれしく感じまして。前お会いした時、複雑な気持ちでお会いしたんですけれども、今とても、天皇・皇后両陛下については感謝をしています。本当にありがとうございましたと申し上げたいです。
ご訪問を歓迎する提灯奉迎も
この日の夜、宿泊先近くの公園では、およそ4500人が提灯を揚げて、両陛下の沖縄訪問を歓迎しました。

両陛下はこの歓迎に「とてもきれいに見えました」「大変、大勢の方が来てくれてありがとう」と感謝の気持ちを伝えられたと言うことです。

翌3月28日、両陛下は日本の一番西に位置する与那国島(よなぐにじま)へ。

今回初めてとなった与那国島ご訪問も、退位が近づく中、両陛下が強く希望されていたことの一つでした。
日本最西端の島 初の与那国島へ
まず、東(あがり)牧場に足を運ばれた両陛下。

日本に8種類しかいない、在来馬の一種、「与那国馬(よなぐにうま)」をご覧になりました。
皇后さまは与那国馬について、「何を食べているのですか?」などとご質問。両陛下は、与那国馬との触れ合いを楽しまれていました。
このあと、世界最大級の蛾「ヨナグニサン」のサナギと成虫の標本をご覧になりました。「ヨナグニサン」は沖縄県の天然記念物に指定されています。

《両陛下のやりとり》
陛下「大きなものね、こうやって見るとね」
皇后さま「羽が蛇みたい」
陛下「こっちが目になってね」

両陛下は世界最大級と言われる羽の大きさに大変、興味深げなご様子でした。
島の伝統芸能「棒踊り」をご鑑賞
続いて、与那国町立久部良(くぶら)小学校で、伝統芸能「棒踊り(ぼうおどり)」をご鑑賞。

「棒踊り」は、小刀と2mほどのなぎなたを組み合わせ、太鼓や鉦(かね)の音色とともに舞う、独特の踊りで国の重要無形民俗文化財に指定されています。

力強い演技に大きな拍手を送られた両陛下。

踊りを終えた子供たちに「いつから続けていますか?」「これからもよい踊りを続けてください」などとやさしく声をかけていらっしゃいました。
日本最西端の西崎へ
そして、与那国島、最後の訪問先、西崎(いりざき)へ。
「日本最西端の碑」をご覧になった両陛下。「ここが最西端になるのね?」などと質問されていました。

また、ここから110キロ先に台湾があり、空気が澄んだ晴れの日には見えるとの説明に皇后さまは「近いですね」と話され、陛下は、感慨深げに海を眺められていたと言うことです。

来年4月30日の退位の前に、沖縄ご訪問を強く望まれた天皇・皇后両陛下。
沖縄の人々の心に寄り添い続けたいという、両陛下の強いお気持ちが表れた3日間の旅となりました。
(「皇室ご一家」第1948回 平成30年4月8日放送)