これからの雨の季節、乗り物や外出先に、うっかり忘れてきてしまうのが、傘。持ち主が現れず、処分されるはずだった傘を、“新たな作品”にリメイクする取り組みが、注目されている。
忘れ物の傘 年間1万9000本
福岡市中央区の西鉄福岡駅。平日・休日を問わず、大勢の利用者で混雑している。ホームに到着した車両から乗客が降りると、車掌が慌ただしく各車両を回り、忘れ物をチェック。

最も多いのは、傘の忘れ物だ。「駅で保管している遺失物で、下の段が傘です」と大量の傘を示す西鉄ステーションサービスの本田智大さん。「梅雨になると傘の忘れ物がどうしても多くなって、毎列車ごと、届け出がある」とのこと。

西鉄では、高価なワイヤレスイヤホンや現金などの忘れ物は、警察に引き渡すが、傘などの安価なものは、2週間ほど保管し、その間に持ち主が現れなければ、処分するという。西鉄福岡駅では、傘専用の保管庫まで設置している。この日、倉庫に保管されていた傘は、200本余り。傘の忘れ物は、天神大牟田線と貝塚線を合わせて、年間1万9000本にものぼる。

しかし、持ち主が引き取りに訪れるのは、この内の5000本ほど。残りの約1万5000本は、2週間経つと廃棄される。管理している本田さんも「勿体ない。傘も安いものではないので、何かに使えたら」と話す。
“忘れ物の傘”をエコバッグに
こうした中、廃棄される傘を再利用、リメイクする取り組みが福岡県内で始まっている。この日、駅で廃棄された傘が運ばれた先は、福岡市内にあるクリーニング店。店の奥の工房では、傘の生地を使ったエコバッグが作られていた。

工房を運営する『合同会社ボタン』は、病気や障害がある人を雇用し、就労支援を行っている。元々は、工房の従業員が、ミシンの訓練をするために、西鉄から廃棄傘を引き取っていたが、難しいナイロン生地をまっすぐ縫う技術を生かそうと、前の年からエコバッグ作りを始めたという。

傘の分解作業を担当している白坂洋平さんは、1日に20本の傘を分解するという。

「最初は慣れない環境で緊張していたが、徐々に慣れて、周りの人とも楽しく仕事ができている。1つ1つ数をこなして慣れていくのが大切」と話す。傘1本の分解に割く時間は、5分ほど。骨組みと生地の部分を丁寧に分ける。

そして、分解した傘の生地は、クリーニングされた後、仕上げの裁縫作業を担当する尾崎亜耶さんへとバトンタッチ。「縫い目を合わせたりブランドのタグを付けたりするのが難しい」と話す尾崎さん。

そして、完成したのが、傘の生地を使ったエコバッグだ。

傘の特性を生かし、耐水性にも優れているのが特徴で、「2種類の生地を使っているので、前と後ろで模様が違っている。

同系色なので、まとまりがあるかなと思い、この2色を使っている。これからの季節に合うかなと思い、アジサイの柄を選んだ」と話す尾崎さん。大きなサイズのエコバッグを作る際は、複数の傘の生地をつぎはぎする必要があり、どれも世界に1つだけの1点ものだ。

値段は、大きいサイズが1650円。小さいサイズが、1100円で、福岡市・天神の「雑貨館インキューブ」と、西鉄薬院駅にある「ときめきショップ」の2か所で販売されている。
忘れ物を“エコ”と福祉で再生
「『ボタン』は、福祉の会社なので、まずは働いている皆さんのスキルアップ。コンセプトは、利用者からスペシャリストへ。利用者がスペシャリストになってほしいと思っている」と代表の坂田知裕さんは、利用者にエールを送る。

現在、ボタンでは、20人近くの利用者が働いている。坂田さんは、「本人達の感性が作品として評価され、商品にとして売れていくことに健常者も障害者も関係ない。作った本人にとっても自己肯定感が上がり、良い循環になっている」と傘のリメイク作業に期待を示す。

本来ならば捨てられるはずだった忘れ物の傘。モノを無駄にしない理念と福祉の観点からも息の長い支援と協力が必要のようだ。
(テレビ西日本)