「当院は700床を超える大きな病院ですけれども、それに見合った薬剤師の数ははっきり言うと十分ではない」。富山県立中央病院薬剤部の向井妙子部長はこう語る。救急医療の最後の砦でありながら、専門職の確保に四苦八苦する医療現場の実情が浮かび上がる。

「くすりの富山」が抱える皮肉な現実

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全国に「くすりの富山」として知られる富山県だが、県内の薬局や医療施設で働く薬剤師は10万人あたり186.2人と全国平均を下回っている。県立中央病院では現在36人の薬剤師が在籍しているが、医療の高度化に伴うきめ細かな対応には十分ではないという。

この人材不足に対応するため、県立中央病院では今年2月、新たな自動注射薬払い出しシステムを導入した。医師のオーダーに応じて、注射薬の調合からトレイへの仕分けまで全自動で行う最新鋭の設備だ。

「確実に安全にできることは機械にやってもらい効率的に業務を行う。薬剤師は病棟で患者さんに説明や話をする時間を増やすことを行っている」と向井部長は説明する。

都会と地方の人材偏在が背景に

昨年度、県内23の公的病院で43人の薬剤師を募集したが、実際に採用につながったのはわずか22人だった。そもそも応募する人が少ないという。

「全国的なことを見ると薬剤師はほぼ充足していると捉えられているが、都会と地方では偏在がある。近年、薬局の数が増え、ドラッグストアでの薬剤師も必要とされるなかなか病院に目を向けていただく機会が少ないのかな」と向井部長は分析する。

この状況を打開するため、県は富山大学薬学部に「地域枠」を新設。県内での勤務を条件に、奨学金の返済免除や実習の機会を設けた。県立中央病院も月1回のWEB説明会を開催し、やりがいを発信した結果、この春は地元出身者4人の採用に成功した。

「興味のある分野を見つけて、専門性の高い、患者からも医師からも信頼される薬剤師を目指していきたい」と新人薬剤師の長澤瑞希さんは抱負を語る。

介護現場ではICT導入と外国人材活用

さらに深刻化が予想されるのが介護の現場だ。富山市の「特別養護老人ホームはなさき苑」では、「要介護3」以上の約80人の入所者に対し、36人のスタッフが介助にあたっている。

「介護職員を募集してもなかなか集まらない現状」と田近博之施設長は打ち明ける。

この施設では今年2月から入所者の睡眠状態を測定する機器を試験導入した。「寝ているか確認しなくて良い、夜勤の労力軽減につながる」と職員は評価する。また、日々の記録作業はタブレット端末を活用し効率化を図っている。

それでも人手不足は解消されず、「介護報酬で決められた収入の中でやはり人件費を確保するには人件費以外の部分を削るしかできない。現在、人件費の比率は70%を超えている」と田近施設長は訴える。

外国人スタッフへの支援強化

「はなさき苑」では去年からミャンマー出身の8人を雇用した。就労期間は5年間だが、介護福祉士の資格を取得すれば無期限で働くことができるため、施設では資格取得や語学研修に必要な費用を独自に補助している。

「美味しいと言ってもらうと嬉しい。日本で働いて介護福祉士になりたいから日本語を勉強して仕事も頑張っています」と語るソー・ミャー・ウィンさん。

田近施設長は「介護人材についてもっと地域の方に理解していただいて地域の大切な福祉施設として、手伝っていただけたら良いのかな」と地域全体での支援の必要性を強調する。

医療と介護、両分野で続く人手不足。機械化と外国人材の活用という共通の対策が進む一方、専門職としての価値を社会全体で見直す必要性も浮き彫りになっている。

富山テレビ
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