9月19日から始まった日本の4連休では観光需要喚起策「Go Toトラベル」などの効果もあり、各地で人の行き来が大幅に増え、観光地は多くの人でにぎわった。その4連休もあっという間に終わりを迎え、SNS上では“4連休がもっと欲しい”といった投稿が相次いでいる。実はこの「4連休」を今、あの手この手で作り出して景気浮揚につなげようとしている国があるのをご存知だろうか。それが、東南アジアのタイだ。
タイでは「4連休」を続々創出
タイでは新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いて以降、連休に関するニュースが増えた。政府が次々と祝日を組み替えて、連休を作り出しているためだ。タイ政府は9月22日の閣僚会議で、2020年11月と12月にそれぞれ4連休を設けることを決めた。
11月の4連休は11月19日(木)~22日(日)で、木曜・金曜の2日間を平日から祝日に変更することで作り出した。また12月の4連休は、12月7日に元々設定されていた振替休日をずらして12月10日(木)~13日(日)までとした(12月10日は祝日)。

タイが4連休を設けるのは今回が初めてではない。国内での感染が落ち着きはじめた7月、そして9月にも4連休が設けられた。この4連休は、新型コロナウイルスの感染対策で延期していたタイ正月(ソンクラン)の祝日(もとは4月に3日間)をそれぞれ振り分けることで作り出された。こうした政策の結果、タイでは今年7月以降、1ヶ月に1度に近いペースで4連休が設けられている。
【最近のタイの4連休】
7月4日(土)~7日(火) :もともと4連休
7月25日(土)~28日(火) :振替休日を利用
9月4日(金)~7日(月) :振替休日を利用
11月19日(木)~22日(日):平日を祝日に変更
12月10日(木)~13日(日):振替休日を移動
狙いは「観光振興策」
タイ政府が4連休を次々と設ける理由は、新型コロナウイルスで低迷する観光業を支援するためだ。タイは観光業が国内総生産(GDP)の約2割を占める観光立国だが、同国を訪れた外国人観光客は2020年4月以降ゼロが続いている。低迷する経済を立て直すために、国内観光の活性化は最重要課題となっている。
この観光振興策の主要なターゲットは、コロナ禍で海外旅行に行けなくなったタイ人だ。タイ政府観光局によると、海外旅行を好むタイ人は国内で1200万人いると推定されている。タイ政府は宿泊費や航空運賃などを支援する観光振興策などを打ち出すとともに、連休を次々と設けることで、彼らがタイ国内を旅行する機会を作り出そうとしている。タイ流GoToキャンペーンに4連休を加えることで、相乗効果を狙う試みだ。

観光振興策としての4連休は、観光地に一定の効果をもたらしている。9月に設定された4連休についてプーケット国際空港の担当者は、プーケット県へのタイ人旅行者が増加し、地元観光業の押し上げにつながったとの認識を示した。また、他のリゾート地、首都バンコクに近いチョンブリー県やホアヒン、ペッチャブリー県、北部チェンマイには4連休の期間中、多くのタイ人観光客が訪れた。
タイ当局はタイ在留の外国人に対するプロモーションも強化している。タイ政府観光庁の総裁は「駐在員にもっとタイ国内を旅行してもらい、各地で素晴らしい経験をしてもらいたい」と述べ、タイで暮らす外国人向けの国内観光フェアを開催するなど、積極的にアプローチしている。実際にこれまでの4連休では、タイ国外に出られなくなった多くの在留日本人がタイ国内を旅行していて、その潜在力の高さを印象づけた。
外国からの観光客は望み薄
タイは新型コロナウイルス感染のリスクがあるとして、国外からの外国人観光客を今も受け入れていない。しかし、国境を閉じ続ければ経済的な打撃が更に拡大するため、受け入れの再開を何度も模索してきた。
直近では、10月から観光地プーケット限定で外国人観光客を認める案が検討されていた。この計画は、外国からの観光客はプーケットに到着後、感染防止の観点から宿泊地周辺の指定エリアに14日間とどまることが義務付けられるが、隔離中であってもエリア内であれば自由に移動することが可能でビーチも楽しむことができる、というものだった。しかし地元住民による反対の声は大きく計画は頓挫した。
その代わりに出てきたのが「特別観光ビザ(STV)」という新たな枠組みだ。このビザを取得した観光客は最長270日間まで滞在延長が可能で、タイ政府は1ヶ月あたり1200人程度に発給することを想定している。しかし入国の際に14日間の隔離措置が必要で、主に長期滞在者の利用を想定したものであり、実際にどれだけの需要があるかは不透明だ。国外からの外国人観光客には当面頼れない状況が続く。

タイ政府が秘策として打ち出した「4連休」は、国内観光の活性化に一定の効果をもたらしている。外国人観光客の受け入れが難航する中、タイでは今後も4連休が続くことになるかもしれない。感染拡大防止と景気浮揚をいかに両立させるか。“4連休ロス”が広がる日本でも、タイの“秘策”は一考の余地がありそうだ。
【執筆:FNNバンコク支局長 佐々木亮】