一向に市場に出回らない備蓄米。政府が改善策を発表した。
JA会長「高いとは思っていない」
政府は7月まで毎月10万トンずつ、合計30万トンの備蓄米の放出を表明。さらに価格を抑えるため、備蓄米の入札要件の緩和も決定した。

江藤拓農林水産相は会見で「より円滑に、そしてよりスピーディーに、より広範に大手のスーパーだけでなく、町の小さな個人経営のスーパーであったり、町のお米屋さんだったり、そういったところにまで備蓄米があるという状況をつくるためにはどうしたらいいかということを検討した上で決めたこと」(5月16日)と述べた。

具体的には政府が売り渡した業者から同じ量を買い戻す期限を、これまでの「原則1年以内」から「原則5年以内」に伸ばすとしている。

3月に落札された約21万トンの備蓄米のうち、4月13日までの1カ月でスーパーなどの小売店に届いたのは僅か1.4%にとどまっている。

全国のスーパーで販売される5キロのコメの平均価格は、4214円と前の週より19円下がったが、前年の価格と比べ2倍の水準で「高止まり」の状態が続いているのだ。

「長年にわたり生産コストをまかなえていないような極めて低い水準だった」(5月13日)と会見で述べた全国農業協同組合中央会の(JA全中)の山野徹会長。現状のコメ価格は「高いとは思っていない」と発言。

これまでの価格では、農家が生産コストを賄い切れておらず「生産者と消費者が互いに納得できる価格が適正価格だ」と述べた。
原材料費高騰をカバーできる
5月14日から3日間に渡ってマリンメッセ福岡で開催された「西日本食品産業創造展」。国内の企業、団体など約230社が出展し、食品加工や飲食サービスに関わる最新技術が披露された。

展示会を主催する日刊工業新聞社西部イベント事業部の甲斐義憲部長は「今回の展示会では、省人化に資する調理ロボット、そのほか搬送システムやAIによる品質管理などのソリューションを出されている企業が多く出展している」と話す。

ここ数年はロボットなどの人手不足を補う機械が中心の展示となっていたが、いま注目されているのは原材料費の高騰をカバーできるシステムだという。

まず紹介してもらったのは、米飯の加工機器を扱うメーカーでご飯を自動で盛り付ける機械。コスト削減に一役買っているそうだ。

出品した鈴茂器工九州営業所の大原慧士主任は「米の価格高騰や人手不足を手助けしてくれる機械です。どうしても人が、ご飯をよそうとなると忙しいときは多めに入れてしまったりするが、きれいに計量してくれるのでお米のロスを防ぐことができる」と胸を張る。

また農機具から炊飯までコメに関する事業を手がける企業が力を入れている商品は、計量や洗米も全て自動でできる業務用炊飯器だ。

出品したイセキトータルライフサービスの中里良一九州エリア長によると「高い米を仕入れても、なかなか本来のおいしさを引き出すというのは結構、難しいとされている。米の研ぎ加減とか水加減、炊飯の火力加減など全てマイコンでセットされているので、低価格の米でもおいしく炊けるシステム炊飯器」と自信を見せた。

入荷状況が不安定な「備蓄米」
企業の規模に関係なくコメ価格への対策に各社が頭を悩ませるなか、消費者の苦悩も浮き彫りになってきている。福岡市内のスーパーでコメ売り場を見ると国内産の複数原料米、5キロで税込み3759円と一般的な県産米に比べ1千円ほど安い商品が並んでいた。

サニー平尾店の崎秀嗣店長は「これは備蓄米です。通常の5キロの価格より1千円近く安いので、こちらを展開した日は、大体5キロ4千円台のお米が1日10袋売れるとしたら、こちらは100袋近く一気に売れてしまった」と話す。

備蓄米は4月末に初めて入荷して以降、入荷状況が不安定で、店頭に出せばすぐに売れてしまうのだ。さらに崎店長によると、主食のお米が、なかなか手が届きづらい価格にあるので、パスタや冷凍うどん、シリアル、食パンを選ばれる消費者が増えたという。価格の高いコメからパンやうどんなどへ主食の「置き換え」が増えているのだ。

買い物に訪れた2児の母親は「自分ひとりのお昼とかだったら、もう適当にパンとか麺類とかで済ませることが多くなっている気がする」と話し、夫婦2人暮らしの女性は「パスタとかパンとか、そっちのあまりお金のかからない方を買っている。パスタのレシピをいっぱい調べて、ひたすらそれをマンネリ化しないようルーティンしている。コスパがいいので」と話す。

店としてはこうした消費者のニーズに応えつつも手に取りやすい価格のコメが安定して入荷できるようになってほしいとしている。

備蓄米が消費者にほとんど届いていないことを受け、政府はスーパーなどに流通先を決めている入札業者に対しては、優先的に売り渡す枠も設けることにしているが、その効果がすぐに出るのか。本当に消費者のもとに届くのか。疑問の声も上がっている。

価格の高止まりで深刻な状況にある消費者の「コメ離れ」。日本の食卓を大きく変える可能性が出てきている。
(テレビ西日本)