アメリカの信用格付けが「最上位」から転落した。大手格付け会社ムーディーズが16日に発表したもので、「Aaa」から「Aa1」へと1段階格下げとなった。

「巨額の財政赤字と増大する利子コスト」

ムーディーズは、アメリカの格付け引き下げについて、10年以上にわたって財政改善が進まなかったからだとした。判断に影響を与えた要因として、連邦債務が増大し、利払い負担が上昇を続けて、ほかの高格付け国を大幅に上回る水準に達していることをあげ、「歴代のアメリカ政権と議会は、巨額の年間財政赤字と増大する利子コストの増加傾向を反転させる措置で合意に至っていない」と指摘、「アメリカが持つ経済・財政の著しい強さは認識しているが、これらの強みだけで財政指標の悪化をもはや完全に埋め合わせることはできない」とした。

格下げ判断は、金融市場に驚きをもって受け止められた面がある。大きな理由のひとつは、「トランプ減税」をめぐり議会での調整が進められるなかでの発表だったことだ。

トランプ政権は所得減税を延長する構え           
トランプ政権は所得減税を延長する構え           
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トランプ政権は、一連の関税強化によって税収を増やすとともに、1期目に打ち出し2025年末に期限を迎える所得減税を延長する構えで、夏にはアメリカ議会で政府債務残高の上限引き上げをめぐる攻防が見込まれる。

ムーディーズは、現在の検討案では、「(社会保障をはじめとする)義務的支出と財政赤字の複数年にわたる大幅な削減が実現しない」として、減税・雇用法が延長された場合、今後10年間で、連邦政府の赤字は約4兆ドル(約580兆円)増加し、2024年に98%だった債務負担のGDP比率は、2035年には約134%にまで跳ね上がると予想した。これまでもムーディーズは、アメリカの財政悪化を警告するリポートを出してきており、引き下げ実施は時間の問題とみられていたが、今回、「トランプ減税」の行方がどうなるかを見届けることなく、格下げを決定したことになる。

「アメリカ売り」への影響は

アメリカ国債は、アメリカ政府と基軸通貨であるドルへの信頼を背景に、世界で最も安全な資産として投資対象とされ、多様な金融商品に組み込まれてきた。

アメリカの格付けをめぐっては、S&Pグローバル・レーティングが2011年8月に、フィッチ・レーティングが2023年8月に、それぞれ最上位から引き下げていて、今回のムーディーズの決定で、アメリカは最上位の格付けを大手3社からすべて失うことになった。

パウエル議長は利下げを急ぐ必要はないとの認識を示した
パウエル議長は利下げを急ぐ必要はないとの認識を示した

市場関係者の関心を集めているのは、発表が、アメリカ金利が上昇しやすい局面で行われた点だ。FRB(連邦準備制度理事会)は5月6~7日に開いた会合で、3会合連続での政策金利の据え置きを決定し、パウエル議長は、トランプ政権の関税措置をめぐり「インフレ率や失業率が上昇するリスクが高まるのは確実だ」と指摘したうえで、経済は底堅いペースで成長しているなどとして、利下げを急ぐ必要はないとの認識を改めて示した。

FRBの早期利下げ観測が後退し、足元の景気指標が底堅さを示すなか、このところ、アメリカの長期金利は再び上昇の動きを見せていたが、ムーディーズの発表後、一時4.49%と、発表前と比べ0.05%程度高い水準をつけた。 

“減税”・“利下げ”に逆風か

4月の金融市場は、関税政策やFRBのパウエル議長の解任をめぐる強硬姿勢により、「アメリカ売り」が急速に強まったあと、トランプ氏が態度を軟化させ、相場が戻るという展開がみられた。

今回の格下げがトランプ政権の経済運営に及ぼす影響は…
今回の格下げがトランプ政権の経済運営に及ぼす影響は…

トランプ大統領は、5月13日、自身のSNSに、改めて利下げを要求する内容の投稿を行ったが、今回の格下げにより、米国債をはじめ、アメリカ売りの新たな材料が追加されたことになる。                        さらに、財政悪化の懸念が指摘されるなか、減税の想定通りの実現が見通せなくなれば、関税強化でインフレ懸念が強まり支持率が低下傾向を見せるトランプ氏にとって、逆風となるだろう。

乱高下を繰り返した金融市場が回復の様相を見せるなか、投資マネーのアメリカ回帰が足踏みすることになるのか。今回の格下げが、トランプ政権の経済運営に及ぼす影響を注意深く見ていく必要がある。 
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員