円売りドル買いが一段と加速している。39年7カ月ぶりの安値水準を更新し、1ドル=163円台に突入した外国為替市場の円相場は、24日、一時1ドル=163円95銭近辺まで値下がりし、164円を伺う水準をつけた。
「1バレル=110ドル台も視野に」
円の一層の下落を誘引する「有事のドル買い」をもたらしているのが、海峡の「二重封鎖」による原油高への懸念だ。ホルムズ海峡の封鎖が続くなか、サウジアラビアからの原油輸出の代替ルートにあたるバーベルマンデブ海峡をめぐっても緊張が高まる事態となった。紅海の南側の「玄関口」にある同海峡は、幅が30キロメートル程度しかなく、ホルムズ海峡と並ぶ中東からのエネルギー供給の要衝だが、海上封鎖を宣言したフーシ派が付近の船舶を攻撃したと発表していて、戦域が広がりつつある。
アメリカエネルギー情報局(EIA)によると、バーベルマンデブ海峡を通過する原油や石油製品の輸送量は、2026年第1四半期で日量540万バレルと、世界供給全体の約6%を占めている。ホルムズ海峡の封鎖以降、サウジアラビアのヤンブーを出港してバーベルマンデブ海峡を経由するルートの需要が拡大してきたが、同海峡を通れない場合、日本向け輸送は、北上してスエズ運河を通り、アフリカ南端の喜望峰を回ることになる。バーベルマンデブ経由だと片道1カ月程度だった輸送日数が、喜望峰回りだと60日程度に増える可能性があるとされ、その分輸送費などが増えるほか、中東からのアジア向けで主流となっている大型タンカーの場合、スエズ運河の通過に制約が生じるという問題も指摘されている。
23日のニューヨーク市場で、原油の国際取引の指標となるWTI価格は一時1バレル=93ドル半ばまで上昇し、約1か月半ぶりの高値をつけたが、市場関係者からは、ふたつの海峡での「二重封鎖」状態が続けば110ドルを超える水準が視野に入るとの声も上がっている。原油の供給不安が長引けば、日本の貿易赤字拡大を懸念した円売りも広がることになる。
ウォーシュ氏「インフレ高止まり容認せず」
さらに、円安への動きを共振させているのが、アメリカの利上げ観測の強まりだ。原油高によるインフレ圧力が高まるなか、先週発表された全米平均のレギュラーガソリン小売価格は、消費者の心理的重荷になるとされる1ガロンあたり4ドル台の水準を約1カ月ぶりに記録した。
6月の消費者物価指数は市場予想を下回る結果となったものの、FRB(連邦準備制度理事会)のウォーシュ議長は、物価上昇への警戒を緩めない姿勢を示していて、14日の議会証言で「インフレの高止まりを容認しない」と語った。
ほかの高官からも警戒感を解く声が乏しいなか、ジェファーソン副議長も16日の講演で、「実際のインフレがすぐに落ち着き始めない状況であれば、現在の政策姿勢を再考することが適切だ」と述べるとともに、AIによる需要増の効果がインフレに上昇圧力をかける可能性を指摘した。アメリカの長期金利は、指標となる10年物国債利回りが、23日、一時4.7%台前半と約1年半ぶりの高い水準をつけていて、ドル買いを誘う展開となっている。
一方、日本政府が21日に閣議決定した「骨太の方針」をめぐっては、原案段階で「日銀の適切な金融政策」が「非常に重要」との文言が日銀の利上げ路線をけん制しているとも捉えられ、「具体的な手法については日銀に委ねられる」との注釈が追加されたが、円売り圧力は続いた。
円安の進行は輸出品価格の上昇を通じて、家計の負担増につながる。みずほ総合研究所の試算では、1ドル=165円レベルの円安が続いた場合の家計負担は、2025年の円相場の平均水準(149円70銭)でのケースと比べ、2人以上世帯の平均で年間1万9300円程度増えることになる。
「断固」「果断」 続く円安けん制発言
円安けん制の発言を繰り返す片山財務大臣は、24日の閣議後会見で「必要に応じていつでも適切に対応する。それは断固たる措置を果断にやるということ」と述べ、「断固」という表現に「果断」という言葉を重ねた。市場関係者の間では円買い介入への警戒感が続いているが、「目立った節目がなくなり、170円も視野に入った」との声も聞かれる。
アメリカ財務省は23日、半期ごとの外国為替政策報告書を公表し、「日銀は金融政策を正常化するなかで政策金利を引き上げて来た」として、「正常化はインフレ期待を反映させ、為替レートの過度な変動を抑制するのに役立つ」と指摘した。
一方、「円相場は数十年ぶりの円安水準にとどまっていて、大幅な過小評価がもたらされている」と記し、「金融市場の変動や原油価格などの世界的要因が影響している可能性はあるが、過度な変動は望ましくない」との見解を示した。

今回の報告書の調査対象は2025年で、為替操作をしていないか注視する「監視リスト」に日本は引き続き入った。片山大臣は「共同声明に沿って常に24時間365日緊密に協議をしているので、認識は共通している」と述べている。
FRB利上げ観測と日銀「ビハインド・ザ・カーブ」懸念
今週は、FRBが28日~29日に連邦公開市場委員会(FOMC)を、日銀が30日~31日に金融政策決定会合をそれぞれ開く。アメリカの金融政策を金利先物市場の値動きから予測する「フェドウオッチ」によると、24日時点で、今回のFOMCで利上げを決める確率は3割程度で、次回9月会合での利上げを8割の確率で見込んでいる。

日銀も今回、政策金利を据え置くとの公算が高まっている。日銀は前回6月の会合で物価の上振れリスクに対応するため、1%程度への利上げを決めていて、追加利上げが企業の資金調達の状況や物価動向などに与える影響を見極めたい考えとみられる。
企業間で取引されるモノの価格動向を示す6月の企業物価指数は前年同月比で7.1%上昇する一方、消費者物価指数は生鮮食品を除く総合が1.6%の上昇だった。消費者が購入する最終製品への価格転嫁が秋にかけて進むとの見方が広がるほか、原油高が一段の上昇を招く可能性も指摘されている。今回の会合では3カ月ごとに見直す「経済・物価情勢の展望」が公表されるが、こうした動向がどの程度織り込まれるかも焦点だ。
市場関係者の間では、FRBは物価安定の実現に向け、政策金利を引き締め的な水準にしていくとの観測が高まる一方、日銀の金融政策をめぐっては、物価高に対して利上げが後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」懸念が根強く意識されている。
FRBのタカ派度合いが一段と強まったと捉えられたり、日銀が早期の利上げに慎重姿勢だと受け止められれば、ドル買い円売り圧力が一段と増すケースが想定される一方、逆の場合は、円が買われやすい方向に反転する可能性がある。日米それぞれの会合でいかなる議論が交わされ、ウォーシュ議長と植田総裁が会見でどのような発信を行うのか。今週の外国為替市場の円相場は、円買い介入の可能性をにらみながら、緊張感が漂うなかでの取引となりそうだ。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

