10日の東京市場は、金利低下・円高へと、それまでの流れが反転する動きを見せた。材料とされたのが、片山財務大臣の閣議後会見での発言内容だ。

「骨太ショックは事実」

片山大臣は、10日の会見で「“骨太ショック”として報じられるところがあるのは事実で、いま与党の段階で調整していると承知している」と述べた。

10日の閣議後会見
10日の閣議後会見
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“骨太ショック”とは、政府が6月30日に公表した「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる「骨太の方針」の原案の表現をめぐって、日銀の利上げ遅れや財政運営についての懸念が広がるなか、長期金利の上昇などが進んだことを指す。

骨太原案では、日銀に対し「『安定的な物価上昇』の実現に資する適切な金融政策運営を行うことが非常に重要である」として、「日銀法第4条と政府・日銀の共同声明の趣旨に沿って、政府と緊密な連携を行うよう期待する」と記された。日銀法第4条は、日銀の金融政策が政府の経済政策の基本方針と整合的なものになるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならないと定めている。

原案は、日銀法などの趣旨を改めて記した文章だったが、債券市場関係者の間では、日銀の利上げをけん制する内容ではないかとの見方が浮上して、日銀が利上げを進めにくくなり、加速する物価高への政策対応が遅れる「ビハインド・ザ・カーブ」リスクが意識された。

長期金利は一時2.9%に上昇
長期金利は一時2.9%に上昇

こうしたなか、2日実施された7月の新発10年物国債の入札は、投資家需要が集まらない低調な結果となり、10年債利回りは、9日には一時2.9%と、約30年ぶりの高水準をつけていた。

片山大臣は「今の日銀法の考え方は3条と4条があってできていることに尽きる」とし、「金融政策の具体的な手法は第3条等に基づき、日銀に委ねられるべきだ」と述べた。日銀法第3条は日銀の金融政策の独立性をうたっているが、骨太原案では第4条に言及する一方、第3条については明示していなかった。片山大臣の発言は、追加の言及に意義があるとの考えをにじませるものだと受け止められた。

年金基金 日本資産に更なる投資を

片山大臣の発言でもうひとつ注視されたのが、年金基金の運用をめぐるものだ。「家計やGPIFをはじめとする年金基金による日本の金融資産に更なる投資をしていただくという方向で後押しをする方策を追求したい」と述べた。

GPIFとは、年金積立金管理運用独立行​政法人のことだ。年金積立金を管理・運用している公的な機関で、これまで現役世代が納めた年金保険料のうち、年金の支払いなどに充てられなかったお金を年金積立金として預かり、将来世代のために運用して増やす役割を担う。資産を長期にわたって持ち続ける「長期運用」と、国内外のさまざまな資産に分けて投資する「分散投資」の組み合わせで、収益の安定化を目指している。単年度で見た運用状況は、市場動向によりプラスのときもあればマイナスのときもあるが、累積で見ると比較的安定的に推移し、2025年度の収益額は41兆3995億円で、年度末時点の運用資産額は293兆6437億円だ。

いまの資産構成割合は、国内株式・国内債券・外国株式・外国債券25%ずつで、国内株式・国内債券の上下方向の許容幅はそれぞれ6%となっている。また、伝統的な上場株や債券などの資産に代わるインフラ、プライベートエクイティ、不動産などのオルタナティブ資産への投資は5%を上限としている。片山大臣の発言は、円資産への投資が促進されるとの思惑を生んだ。

円と債券買いは続くか

10日の東京市場は、円と債券の同時買いがもたらされる格好となった。円相場は、円が急伸し、一時161円20銭台と、早朝より1円以上円高に振れる場面があったほか、債券相場では、新発10年物国債利回りが大きく低下し、前日に比べ0.175%低い2.70%で取引を終えた。

今週は、6月のアメリカ消費者物価指数の公表が14日に予定されている。市場予想より上振れればアメリカの利上げ観測が一段と高まって円売りが進む可能性が指摘される一方で、追加の円買い介入への警戒感が依然としてくすぶる。

2024年7月には、アメリカ消費者物価指数が市場予想を下回り、ドル売りの動きが見られた段階で政府・日銀が円買い介入に踏み切っていて、市場関係者の間からは、2年前と同様のタイミングでの介入の可能性を指摘する声も出ている。国内債券市場では、14日に財政懸念を反映しやすい20年物国債入札が実施される。為替や金利動向に視線が集まる局面が続くことになる。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、経済部にて兜・日銀キャップ、財務省・内閣府担当、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、農水省政策評価第三者委員会委員