農林水産省によると、2024年産の鹿児島県の荒茶(生の茶葉を乾燥や蒸すなどした状態)生産量は2万7000トンで、静岡県を1200トン上回り、初めて日本一となった。収穫された茶の葉は必ず荒茶にされるため、その生産量は県内で収穫されたお茶全体を指しているともいえる。戦後、本格的に茶の栽培が始まった鹿児島。栽培が盛んになったきっかけと、今後の展望をまとめた。

「四拍子そろったお茶」首相も笑顔

八十八夜を過ぎた2025年5月14日。首相官邸を鹿児島県茶業会議所の柚木弘文会頭や塩田康一知事が訪問した。かごしま茶を味わった石破茂首相は「コク、香り、深み、色、四拍子そろった茶をいただきました」と笑顔をみせた。石破首相には煎茶や玉露などの新茶400グラムが贈呈された。

石破茂首相も「コク、香り、深み、色、四拍子そろった茶」と評価
石破茂首相も「コク、香り、深み、色、四拍子そろった茶」と評価
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新茶の季節に関係者も期待  

鹿児島のお茶どころの一つ、南九州市の知覧地区をたずねた。薩摩富士とも呼ばれる開聞岳を望む茶畑で、新茶の収穫が始まっていた。汐見原茶生産組合の前原公也代表理事は「期待と不安もある中で楽しみな時期。お茶農家の一年間の生活を支えるものですから」と、新茶への思いを語る。

収穫された茶葉は製茶工場へ運ばれ、蒸し、揉み、乾燥の工程を経て約3時間半で荒茶となる。この荒茶が市場に出荷され、各お茶メーカーが緑茶や煎茶などの最終製品に仕上げる。

収穫された茶葉は製茶工場に運ばれ、蒸し、揉み、乾燥の工程を経て約3時間半で荒茶になる
収穫された茶葉は製茶工場に運ばれ、蒸し、揉み、乾燥の工程を経て約3時間半で荒茶になる

鹿児島のお茶栽培、戦後に急成長  

鹿児島でお茶栽培が盛んになったのは、戦後のことだ。統計が始まった1959年以降の県内茶の栽培面積を見てみると、昭和40年代(1965年)から栽培面積が急増したのが分かる。

昭和40年代(1965年)から栽培面積が急増
昭和40年代(1965年)から栽培面積が急増

それ以前の昭和30年代、国は輸出用の紅茶の生産を奨励し、県内の茶畑も約4分の1は紅茶用だった。しかしその後、輸入紅茶の増加をうけ、紅茶栽培は緑茶へと転換した。同時に当時、全国的な緑茶の需要増を迎え、お茶農家が増加したのだ。

県の茶業試験場に長く勤めた、カワサキ機工の茶業技術顧問・佐藤昭一さんは「端的に言うとお金になるから。サツマイモ、麦、大豆を作っていた人が経済的に有利なお茶に転換した」と説明する。換金作物としての価値と、茶栽培に適した気候が、鹿児島のお茶産業を押し上げたのだ。

ブランド力を高め、ついに日本一に

その後、1974年に鹿児島で開催された全国茶品評会をきっかけに、ブランド力をつけようという動きも高まった。佐藤さんは「ただ作るだけでなく鹿児島茶に対して販売力をもたせようという動き。先陣を切って動いたのが知覧町(当時)。いいお茶を作るのに関して、静岡の茶の産地の一つ、川根に行って技術を学んだ」と当時を振り返る。そして2000年以降、茶の栽培面積は8000ヘクタールを保ち、ついに日本一を達成したのだ。

1974年に鹿児島で開催された全国茶品評会
1974年に鹿児島で開催された全国茶品評会

抹茶ブーム、海外需要も拡大 

近年、お茶業界で大きな需要を生んでいるのが抹茶だ。日本茶を気軽に楽しんでほしいと4年前にオープンした「HIOKI CHAHO」(日置市)オーナー・東昌輝さんは「抹茶は人気のコンテンツという印象。まずはお茶に触れてもらいたいので抹茶を使っている」と話す。

店ではラテ以外にプリンも提供し、根強い抹茶人気に対応している
店ではラテ以外にプリンも提供し、根強い抹茶人気に対応している

抹茶人気は海外にも広がっている。池田選茶堂(鹿児島市)に来店したイタリア人観光客は「パリに住んでいて、以前はカフェオレだけだったが、抹茶オレ、抹茶ビスケット・クッキーがある。私の子供も抹茶が好き」と語る。

抹茶原料「てん茶」の県内生産量は、832トン(2019年)から1585トン(2023年)へと倍近くに増加。東製茶(日置市)では2024年からてん茶の栽培に取り組み、今やその割合は全体の6割を占めるという。

完全オートメーションの抹茶工場では  

茶の輸出を手掛ける池田製茶(鹿児島市)では需要拡大を見越して5年前に抹茶工場を新設した。池田研太社長は「昔は緑色の飲み物は海外では異様な飲み物だったが、グリーンというのがヘルシーやビューティーなどのイメージに変わってきたのが注目された要因」と分析する。

完全オートメーションの工場に入ると、県内産てん茶に火入れなどの仕上げ加工を行っていた。石臼でひくのは1時間に40グラムしかとれないという高級用。一般用は大きな機械で細かく粉砕していくという。できあがった抹茶は8割が輸出用、2割が国内の菓子メーカーなどで使われる。

池田製茶(鹿児島市)の抹茶工場
池田製茶(鹿児島市)の抹茶工場

鹿児島茶、さらなる飛躍へ

約50年前の生産急拡大から、ブランド力強化を経て荒茶生産量日本一へ。そして今、高まる海外需要に応えるべく、鹿児島のお茶産業は新たな挑戦を続けている。

池田社長は「海外でも抹茶を使ったビジネスをしたいという人が多くいる。体にいい、味わいがいいなど、色々なところに着目してビジネスとして広げたいという人も」と、今後の展望を語る。

鹿児島茶の歴史は、地域の努力と時代のニーズが織りなす物語だ。これからも、鹿児島のお茶生産の発展が注目されそうだ。

(鹿児島テレビ))

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