重さ約300kgの大型バイクを巧みに操る白バイ隊員。長崎県内では総勢42人の交通機動隊員が交通取り締まりの最前線で活動している。夏の暑さは特に過酷となる環境の中、交通事故削減に全力を注ぐ「女性白バイ隊員」の日常に密着した。
勤務2時間前から始める自主練習
長崎県内では2024年、約2400件の人身事故が発生した。交通事故を1件でも無くすために尽力しているのが「交通機動隊員」であり、中でも白バイに乗務し活動するのが「白バイ隊員」だ。

長崎県警に女性の白バイ隊員がいる。白バイ隊員3年目を迎える大谷恭子巡査長、28歳だ。

勤務2時間前の朝7時30分。大谷巡査長は誰もいない練習場で一人、バイクの自主練習に励んでいた。

カラーコーンをカーブに見立て、直進はスピードを上げる。カーブに差し掛かると減速を繰り返し、正確かつ迅速な安全運転を体に叩き込む。
「交通事故を減らすためには違反をなくしていかなければならない。何か違反があって事故につながるので違反を1件でも減らし、その先にある事故を減らすのが目標」と、大谷巡査長は語る。
きっかけは学生時代の交通事故
大谷巡査長は、6年前の2019年に警察官になった。大学生のときに原動機付バイクで車と衝突する事故に遭い、他の人に同じような経験をしてほしくないと白バイ隊員を志すようになった。

白バイ隊員になるためには、面接や実技など複数の試験に合格した上で警察学校で乗車訓練を受け、適正が認められた人だけが選ばれる。決して容易ではない試験であり、かつチャンスは年に1回だけだ。

大谷巡査長も、交通機動隊のトレードマークとも言える「青の制服」に袖を通すのに2年を要した。

念願の白バイ隊員だからこそ、愛車の点検も人一倍気合が入る。「白バイは一緒に仕事する相棒みたいな感じなので、毎回一番きれいな状態で出られるよう点検している。愛着が湧いてくるので、“よろしくね”と思いながら磨いている」と、愛車を大切にする姿が印象的だ。

長崎県警の交通機動隊員は総勢42人。3つの小隊に分かれ24時間体制で勤務している。隊員3年目の大谷巡査長はまだまだ若手だ。同僚の笹原智紘巡査部長は「大谷はムードメーカーみたいな感じ。元気者なので大谷のテンションが低かったら場のテンションが低くなる。あとは頑張り屋さんだよ」と、大谷巡査長の日ごろの様子を話してくれた。
2Lの水分補給 過酷な猛暑日の勤務
気温が上がる夏場の暑さ対策は必須だ。

大谷巡査長が取り締まりに向かった日の最高気温は33.4℃。エンジンの熱と照りつける日差しで、体感温度はぐんぐん上がる。

一度外に出れば6時間は戻れないこともあり、体調維持も仕事のうちだ。

「1.5〜2Lぐらい水分を摂る。事故をなくすためと思ったら、この取り締まりは私たちしかできないので、しっかり取り締まりをして違反を減らしていけるように」と、大谷巡査長は意気込む。
「相手に寄り添う」取り締まりで事故を防ぐ
大谷巡査長が向かったのは諫早駅前。信号機がない横断歩道で歩行者を妨害する車両がいないか取り締まる。歩行者と車の事故が多く、重大な事故につながらないよう取り締まりを強化している場所の一つだという。

隊員歴12年の西元巡査部長とともに目を光らせていると、歩行者との距離が近い車両を発見。大谷巡査長は丁寧に車両を止め、運転手に寄り添うように穏やかに語り掛ける。

「さっき歩行者さんがいたの分かりましたか。止まって確認していましたけど、また歩行者さんが来られて車道を渡っていたので、もう一度止まって確認してもらいたいなと思って声をかけました」

「運転手の方々にどうすれば事故が起こらないようになるのかを的確に伝えられていた」と、西元巡査部長は大谷巡査長の対応を評価した。
「いろんな人と関わるので、人によって対応も違うし受け取り方も違うと思う。自分もできるだけ相手に寄り添って、相手の立場に立って声かけをするよう意識している」と、大谷巡査長は話す。
支えは亡き母の存在と毎日の日記
業務で心身ともに消耗することもあるが、そんなときは亡くなった母・江里子さんのことを思い出すという。

「このネックレスは母の遺骨が入っている。困ったときは触ったりする。“助けて〜”みたいな」と大谷巡査長。母は2021年に病気で死去。警察官2年目のときだった。

母の死をきっかけに、大谷巡査長は日記を書くようになった。「めちゃめちゃ仕事のことを書いているけど、そんな深い意味のあるようなものは書いていない」と話す。

振り返ってみると、母と一緒に過ごした時間を覚えているようで覚えていない自分に気づき、「書き留めておくことの大切さ」を痛感したという。

日記には、白バイ隊員を目指して練習に励んでいた当時のことも書かれていた。
「今日は朝からバイクの練習するつもりで早起きしたのにまさかの雨…まじヘコむ…バイク練習断念」(2021年9月の日記から)

大谷巡査長は、白バイ隊員を夢見ていた過去の自分を振り返りながら「今この日記を読んでいる自分は白バイ隊員になれてますからね」と、自然と笑みをこぼした。

ジェンダー平等と言われる昨今、大谷巡査長は「職場では男女の差は全く感じない」という。しかし、女性という理由で取り締まり中に運転者から理不尽な態度を取られる事があるのも事実だ。現在、長崎県警交通機動隊の中には大谷巡査長を合わせて5人の女性白バイ隊員が活躍している。「取り締まりを通じて交通事故の数をもっと減らしたい」その強い信念を胸に、大谷巡査長、そして白バイ隊員たちの取り締まりは続く。
(テレビ長崎)