老いゆく社会。
1947年から3年間の第1次ベビーブームに生まれた約800万人、いわゆる「団塊の世代」が2025年で75歳以上となる。国民の5人に1人が後期高齢者になると予測される今、介護の新たな拠点を取材した。

最新の介護テクノロジーを体験

4階建て、延べ床面積は約8200平方メートル。高齢化社会を支える新たな拠点「エコールトータルケアセンター」が5月1日、広島・廿日市市に誕生した。

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介護用品を衛生に保つ最新の洗浄機器を導入し、レンタル福祉用具のメンテナンス施設では国内最大級の規模を誇る。

広島市に本社を置き、福祉用具のレンタルや訪問介護、業務用寝具のリースなどを手がける「日本基準寝具」が開設。今井誠則社長は「どちらかというとケアマネージャーさんにも見てもらいたい商品が網羅されている」と言う。

建物3階、福祉用具の展示ブース
建物3階、福祉用具の展示ブース

トータルケアセンター3階の展示ブースには、車いすや介護ベッドなどさまざまな福祉用具を展示。実際に触れたり、体験できる。またゲーム感覚で楽しみながら体を動かすリハビリ用コンテンツを体感したり、最新の介護テクノロジーを知るきっかけにもなりそうだ。

メーカーの担当者から直接、話を聞くこともできる。マットレスの下に機器を設置して睡眠状況を把握する「眠りSCAN」の担当者は「一人一人の睡眠状況を日誌という形で見える化します。睡眠状況を把握して生活リズムの改善に利用したり、参考値ですが呼吸や心拍のデータを取ることができます」と画面を見せながら説明してくれた。

福祉用具が在宅での生活をサポート

介護の現場をよく知る専門家に話を聞いた。
広島市内で完全バリアフリーの高齢者向け住宅などを運営する「つなぐ」森田緑社長は、福祉用具の重要さを指摘する。

「1人で生活できなくなった時に手すりがあったら1人で歩けるとか、福祉用具があることで在宅で生活を継続していける人もいるので、すごく大事なものになってきます。同じ車いすでも何種類もあって利用者の生活が変わってしまうこともあるので、その人に合ったものを探していきます」

レンタルするケースが多い福祉用具。レンタルならではのメリットについて、森田社長は「介護の状態が変わった時に用具を変更できる。買い替えるお金がかからない。また、汚れてしまったりすることもあるので、定期的にきれいなものに替えてもらえる点はあると思います」と話す。

レンタル介護用品「洗浄」の実態

日本基準寝具はこれまでレンタル介護用品の「洗浄」を主に手作業で行っていた。
そこへ、トータルケアセンターの開設で最新の洗浄機器を導入。介護用具の洗浄、消毒、乾燥までを全自動に切り替えた。

全自動多目的高速洗浄機で車いすを洗浄
全自動多目的高速洗浄機で車いすを洗浄

多目的高速洗浄機なら、車いす4台を同時に洗える。日本基準寝具の神田久司取締役は「パートさんが作業して仕上げるのに1日2台がやっとだった。今はいったん洗ったものを仕上げてもらうので1人で1日3台以上はできるようになった」と話す。
作業の自動化には、担い手不足の中で生産性を向上させるねらいもある。神田取締役は「目標は生産性を1.5倍まで上げることです」と意気込む。

また洗浄機器の導入によって、これまで洗えなかったものも洗えるようになった。
「マットレスは洗えなかったので、汚れないようにカバーをして熱で消毒するだけでした。汚れて戻ってくるものはにおいもありました。今は、洗い終わったものはにおいがほとんどないです。衛生面はしっかり保たれていると思います」
日本基準寝具では、在宅介護のアフターサービスとして半年に一度、介護ベッドのマットレスを汚れの度合いにかかわらず交換している。

手作業でしかできないメンテナンスも

最新設備の導入で衛生レベルが向上した。しかし、福祉用具のメンテナンスには手作業でしかできないこともある。そのため、建物2階が広いメンテナンススペースになっている。

建物2階、仕上げや修理を行うメンテナンススペース
建物2階、仕上げや修理を行うメンテナンススペース

洗浄後の仕上げ、修理はすべて手作業。出荷までの準備をこのエリアで行う。
トータルケアセンターでは、これまで分かれていた訪問介護、訪問看護、福祉用具の事業所を1カ所に集めた。福祉用具を柱に、利用者の意見を製品の改良やメンテナンスの質の向上につなげていきたい考えだ。

増え続ける高齢者、介護の担い手や施設不足が懸念される将来。介護用品は社会課題を解決する大きな一手となる。「施設に入らないといけない人でも、福祉用具によって住み慣れた家で生活できることもある」と森田社長は言う。

日本基準寝具・今井誠則社長は「こんな便利なものがあるのかと驚くような商品がいっぱいあると思うので、ぜひ気軽に立ち寄って見てもらえたら」と呼びかけた。

高齢者の生活を支え、介助する人の負担を軽減する介護用品。広島に新たに誕生したレンタル福祉用具の複合施設が、高齢化社会にどのような役割を果たしていくのか注目される。

(テレビ新広島)