壱岐沖の医療用ヘリ事故は離島の厳しい医療体制の課題を浮き彫りにした。離島住民は今回の事故に大きなショックを受けている。一刻を争う時、患者を搬送するヘリコプターは離島住民の命を守る最後の砦だからだ。
機体を制御する“部品の破断”判明
2025年4月6日、長崎県の対馬を離陸した医療搬送用のヘリが壱岐沖の海上で不時着水し、医師など3人が死亡した。

国の運輸安全委員会は、引き揚げた機体から回収した装置などの調査を続け、機体後方の部品に破断があったと明らかにした(2025年5月2日)。

破断していたのはテールローターのコントロール・ロッドの前方部。機体を制御するのに重要で、破断すると事故が発生する恐れがあるとしている。

このため国土交通省航空局は、事故機と同じ系列型機の所有者に対し、点検や交換を行うよう求めている。今回の事故機の運航会社「エス・ジー・シー佐賀航空」は、現在ヘリの運航を自粛している。
離島住民にとって他人事ではない
医療用ヘリは離島にとってどのような存在なのか、現状を取材した。

佐賀・唐津市には玄界灘に浮かぶように7つの離島がある。その中のひとつ「加唐島」。唐津市の呼子港から船で約20分。
加唐島では現在、壱岐沖の事故とは関係のない別の運航会社によるドクターヘリの要請が可能だ。しかし、今回の事故は他人事ではない。

唐津市によると、島には59世帯、109人が住んでいて、住民は半数近くの44%が65歳以上。県の平均32%に比べると高齢化が進んでいる(2025年4月1日時点)。
可能な検査が少ない…唯一の医療施設
島にある唯一の医療施設が「加唐島診療所」。医師が住み込みで常駐し、看護師らと計3人で診察などにあたっている。

所長の医師・牛島宏貴さんは加唐島を担当して3年目。牛島さんは島の医療の厳しい現状を次のように話す。

加唐島診療所 牛島宏貴所長:
ほとんど慢性期の疾患(の患者)が多いですね。急病は担当するんですけど、いかんせん検査ができる環境というものがなかなか…検査できるものが少ないですね。非常に苦労しながらやっています

島で暮らす患者のカルテは唐津市や離島の病院同士で共有し、牛島所長が島を離れても別の医師がオンラインで対応できる体制を整えている。しかし、診療所の設備には限界があるという。
一刻を争う事態にはヘリを要請
診療所の牛島所長は、「私たち、へき地医療に携わる人間みんなそうですけれども、医療リソースがかなり限られていて搬送の手段もかなり限られている」と離島の小さな診療所の限界を語った。

島にはない総合病院などでの診察や治療が必要な場合、緊急性に応じて船やヘリでの搬送が検討され、脳卒中などの一刻を争う事態にはヘリを要請する。

加唐島では去年(2024年)ヘリによる搬送はなかったが、過去には年間4件ほどヘリで患者を搬送した年もあったという。
医療用ヘリ事故で離島の住民は…
医療用ヘリの事故を住民はどう受け止めているのだろうか。住民の声をきいてみた。

「ほんの近くでこういうことがあったからですね、びっくりしましたよ。もしものときはやっぱり心細いね。救急で行かないと、と思った裏に事故があったというのはやっぱり…けれども命に関わるようなことがあったら覚悟は決めないといけないでしょうね」

離島特有の医療体制を理解しながらも、住民にとって衝撃なできごとになった今回の事故。住民の思いは複雑だ。
患者を搬送するヘリは“最後の砦”
離島の医療体制について住民のひとりは次のように不安を口にする。

加唐島の住民:
島だとやっぱり急に命に関わるようなことが起きたらもう終わりかなという、どこの人でも離島ではそういう思いはあると思います

診療所の牛島所長は、船よりも30分ほど早く搬送ができるヘリの存在が離島診療の支えにもなっていると話す。

加唐島診療所 牛島宏貴所長:
救急ヘリを飛ばしてほしいと願う瞬間も多くて、私たちにとっても患者さんにとってもドクターヘリはなくてはならないインフラ。欠けてはならない最後の砦のような存在だと思っています
(サガテレビ)