2024年元日に発生した能登半島地震から1年あまり。この地震がきっかけとなって新たに防災ビジネスに進出する建設業者が福井県内にあります。これまでコンクリートを主軸に基礎工事や外構工事などを行っていた会社が、避難所の衛生環境の改善などに取り組むことになりました。そこには、被災者に寄り添う企業の社会的使命がありました。


建設業の自社技術を活用した水洗トイレ

コンクリートの圧送事業や建物の外構工事などを行う福井市の川端工業は、新規事業として独自の防災商品を開発しました。備蓄型水洗トイレ「IZATO」は、一人で簡単に持ち運ぶことができ、バケツなどに水をためて電源を用意すれば、どんな場所でも使用できるといいます。
  
川端工業の中村光宏社長:
「ポータブル電源で動かせる電動式の水洗トイレで、一番の特長は水勾配がいらないこと。障害物があっても(排水を)押せるというのが最大の特長」


勾配に関係なく排水を押し流せる秘密は、トイレに内蔵されている「圧送ポンプ」です。水のおよそ2.3倍重いコンクリートに圧力をかけ、時に50メートル先までパイプで送る「コンクリート圧送」の技術を活用しました。コンクリートの圧送は川端工業の主力事業。開発したトイレのサイズはコンパクトですが水圧は非常に強く、最大で30メートル先まで押し出すことが可能です。
  
浄化槽やマンホールが高く離れた場所にしかなくても、衛生的な水洗トイレとして利用できます。中村社長は「被災地やイベントなど場所は選ばない。仕切りさえすれば誰でも簡単に設置できる」といいます。


カーポートを防災ステーションに

川端工業では一般的なカーポートに太陽光パネルを取り付け、この備蓄型水洗トイレや雨水貯蔵タンクなどを備えた防災設備「備蓄シェルターカーポート」を近く商品化する予定です。
   
川端工業の中村光宏社長:
「カーポートの中にトイレやスポットクーラー、蓄電、屋根には太陽光パネルをつけて自分で防災ステーションを作ることができる」


能登半島地震で被災者の“困り”に直面

コンクリート圧送業者が災害への備えを提案する背景には、商品化を主導した中村光宏社長のある経験がありました。
   
2024年元日に発生した能登半島地震。正月の団らんを襲った激震は591人の命を奪い、約6000棟の住宅を全壊させるなど、甚大な被害をもたらしました。(2025年4月30日現在)
  
石川県に支社があり、輪島市での工事を請け負ったこともある中村社長は、発生直後からボランティアとして被災地に赴きました。「私はスキー場にいたんですが、そのまま帰ってすぐ支援物資を積んで。お世話になった人たちが生きてるかどうかもわからないけど、とりあえず行ってみようと。その時に見たトイレがあまりにもひどかったので、これは大変だなと思って」と当時の思いを語ります。


中村社長が目にしたのは、水が流れなくなった避難所のトイレに山のように積み上がったごみの山。ビニール袋には排泄物が入っていて、強烈な匂いを発していたといいます。「トイレの問題が一番心労になるんじゃないかと思った。トイレに行くと汚いので、トイレしたくないから食べない飲まないとなると、今度は栄養がとれなくなって病気にかかったりもするだろうし」。
   
能登半島地震で亡くなった591人のうち「災害関連死」として認定された人は数363人にのぼります。(2025年4月30日現在)家屋の倒壊、火事など地震による直接の被害ではなく、災害発生による精神的なショックや厳しい避難所生活によるストレス、持病の悪化などが要因とされる死です。近年、この災害関連死のリスクをいかに減らすことができるかが、災害時の大きな課題となっています。


避難所よりも自宅で…という被災者の思い

さらに中村社長は「潰れた家とかを見て、何が残ってたかっていうと、カーポートだった。被災された方って、避難所よりもやっぱり自分の家が良いのでブルーシート等で囲って避難をしていた。自分たちの心が休まる場所というのはここにあるんだなと、そのカーポートを活かすためにはどうしたらいいかと思案した」といいます。
  
被災地での一連の経験を元に考えたのが、カーポートを避難所として利用できる「備蓄シェルターカーポート」でした。
  
家が倒壊してもライフラインが止まっても、家のすぐそばで生活が維持できることが一番の強みです。中村社長は「支援物資が来るまでは耐えられる。南海トラフ地震の恐れがある中、色んな備えを探すと思うが、その中の一つでも良いので僕たちから良いものを提供できるとよい」と話します。
 
能登半島地震を教訓に開発された「備蓄シェルターカーポート」は、6月頃から販売を始める予定です。

福井テレビ
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