一本の木がつないだ 80年越しの発見
沖縄戦から80年となる2025年。伊江島で戦争の記憶が掘り起こされた。
2024年4月、伊江島の平和祈願祭が行われた。慰霊碑「芳魂之塔」の前で静かに焼香をささげる一人の男性の姿があった。

地元で造園業を営んでいる知念洋輝さんはある偶然によって80年ものあいだ眠り続けていた命と向き合うことになる。
撮影の裏で掘り出された命
映画『木の上の軍隊』は伊江島を舞台に戦後2年間木の上に隠れ続けた2人の日本兵の実話を描いた作品。遺骨が見つかったのは撮影の最中だった。

ロケ地として選ばれた一角で知念さんは撮影用の木を一時的に植えるための穴を掘っていた。ところが掘り進めた土の中から人の骨とみられるものが次々と現れた。

知念さんは「もう終わりかなと思ったらまた骨が見つかる。その繰り返しで、最終的に20体くらいになりました」と振り返った。

言葉には驚きと戸惑いだけでなく強い使命感がにじんでいた。見つかった遺骨の多くは折り重なり逆さに埋まっていたものもあったという。誰にも知られず土の中で眠り続けた命。知念さんは一つ一つを丁寧に掘り出した。
「自分で見つけたからには、ちゃんと帰してあげたい。ずっと待っていたんだと思うと早く家族のもとに戻してあげたいんです」と知念さんは語った。

映画関係者も衝撃「戦争は終わっていない」
映画の制作をきっかけに戦争の痕跡が姿を現したことに「木の上の軍隊」で監督を務める平一紘さんも衝撃を受けたと話す。
「率直にショックでした。映画がなければあの遺骨たちは今も太陽を浴びることはなかったのかもしれない。存在を知ることさえなかったと思うと胸が詰まります」と声を落とした。

映画のモデルとなった元兵士・佐次田秀順さんの次男・満さんも「戦後80年が経つ2025年になってもまだ遺骨が出てくる。戦争は終わったようで終わっていないと感じます。今回見つかったのも何かの縁だったのかもしれません」と80年前に思いを馳せる。

土の記憶は問いかける
伊江島の戦争は沖縄の縮図ともいわれる。約3500人が犠牲となり、そのうち約1500人は住民だった。集団自決なども起こり島全体が戦場となった。

伊江島で戦没者の遺骨が見つかるのは2003年度以来およそ20年ぶり。
知念さんは「伊江村のあちらこちらから見つかるんです。それだけ激戦だったということを思い知らされます」と話した。目の当たりにした遺骨は重なり、砕け、あるいは静かにひとまとまりになっていた。それらが物語るのは言葉ではとても表現できない悲惨な戦争の現実だった。

「この出来事を通して自分の世代やもっと若い人たちにも何か感じてほしい。土の中から出てきた遺骨が平和の大切さを教えてくれている気がします」と知念さんは静かに語った。

偶然ではなく必然といえる発見だった。掘り起こしたのはまだ語られていない戦争だった。それをどう受け止めどう誰に伝えていくのか、私たちに問われている。
(沖縄テレビ)