Xのアタッシェケースから射撃残渣物
「Xの部屋から出てきた所持品のアタッシェケースなんだけど、あそこから見つかった鉛、バリウム、アンチモンが射撃残渣物であると100%確証が得られたんだ」。
――球状粒子だったということですね?
「3種類融合したものだったことが判った。もちろんバラバラのものもあったけど、ケース内から明らかに3種類融合したものが出た。アメリカでは2種類融合で火薬残渣物と認定されるけど、日本は3種類。この厳しいハードルをクリアした。特捜本部は色めきだっているよ」
――朗報ですね。でも問題は、本件の銃撃時の火薬残渣と言えるかですよね?
「そこだよね。本件で使った銃をXがしまった時のものか、ケースを別の教団幹部に貸してその人物が銃をしまった時のものか、実行犯が判明していないとこの証拠も活きてこない」

「正直テロリストは自分がやりましたとは言わない。
射撃残渣物が一般市民の人のアタッシェケースから出るかと言えば出る訳ない。Xは警察官だから出てもおかしくないかと言われれば、警察官だって拳銃を自分の私物のアタッシェケースに絶対にしまわないので射撃残渣物が出たこと自体がおかしい。
記録によるとXが警察官として内部で拳銃を撃ったのは公安講習を受けた94年2月が最後だった。
射撃残渣物が出たことは、拳銃を違法に取り扱った証拠にはなる。しかし、銃撃事件の現場の残渣物と一致しなければ本件銃撃事件の直接証拠ではないとなってしまう。こんな決定的な状況証拠が出ても、解決に向け捜査を前進させることができないのは刑事司法の限界なのかもしれない」

――複数犯による組織犯罪では、関与した人間は誰も自分がやったとは認めませんし、仮に組織の犯行を認めたとしても、別のメンバーに罪をなすりつけたりしますよね。黒に近いグレーな状況証拠があっても、実行犯が特定されないと、組織の責任を追及できないことになってしまうのは、どうしようもないんでしょうかね?
「そうなんだよね。例えば関与した人間のうち最初に真実を話した人だけ罪を免責するような制度がないと絶対にこんな事件は解決しない。
栢木課長も『おめおめと時効を迎えるわけにはいかない』と言っているのは、ここまで迫れているという悔しさの表れなんだ」
Xがクリーニングに出した灰色のコートの溶融穴から見つかった射撃残渣物に加え、Xが寮で持っていた私物のアタッシェケースからも射撃残渣物が見つかった。
しかし長官銃撃事件で使われた銃の射撃残渣物だと証明できなければ直接証拠にならない。極めて厳しい現実があった。
【秘録】警察庁長官銃撃事件47に続く
【執筆:フジテレビ解説委員 上法玄】
1995年3月一連のオウム事件の渦中で起きた警察庁長官銃撃事件は、実行犯が分からないまま2010年に時効を迎えた。
警視庁はその際異例の記者会見を行い「犯行はオウム真理教の信者による組織的なテロリズムである」との所見を示し、これに対しオウムの後継団体は名誉毀損で訴訟を起こした。
東京地裁は警視庁の発表について「無罪推定の原則に反し、我が国の刑事司法制度の信頼を根底から揺るがす」として原告勝訴の判決を下した。
最終的に2014年最高裁で東京都から団体への100万円の支払いを命じる判決が確定 している。