広島県の転出超過は「4年連続で全国1位」を記録。首都圏からすると、広島は“雇用者の仕入れ先“になってしまっている。専門家などが人口流出の原因・課題を探り、データ分析によって意外な事実も明らかになった。
20代女性の転出で“赤ちゃん”失う
4月22日、広島市中区の「ひろぎんホールディングス」本社で開催されたセミナー。
「広島のみなさんが、これからお伝えするデータをもとにどう動くかにかかってきます」
広島県の問題点を語るのは、ニッセイ基礎研究所・人口動態シニアリサーチャーの天野馨南子(あまの かなこ)さん。総務省やこども家庭庁の会議メンバーでもある人口問題の専門家だ。

2024年、広島県の人口移動は転出者が転入者を約1万人上回り、いわゆる「転出超過」が4年連続全国最多となった。天野さんはこれまでも「ここまで県民に選ばれていないことを、県は少し反省したほうがいい。男性も女性も20代後半で1000人くらいずつ同じように減っていく。転職先としても逃げられていると認識してもらいたい」などと警鐘を鳴らしてきた。

県外への転出で特徴的なのは、20代女性の多さ。その問題点を天野さんはこう指摘する。
「若い女性が出ていくので広島で結婚が減る。子どもも生まれない。社会減(人口の流出)が自然減(人口の減少)となる。若い女性の転出超過を止められなかったら、少子化対策では他の都道府県に負けるということです」
2024年、県外に転出した20代女性は3361人。この状況が地域にどのような影響を及ぼすのか。天野さんの試算では「3361人が全国並みの女性の結婚希望84%を持っていて、広島県の出生率1人当たり2.2人の子どもを産むと推定すると、広島県は6211人の赤ちゃんを失っている」と言う。20代女性の流出は地域の人口減少に直結するだけに、何としても歯止めをかけたい。
「敵は東京だけではない」
20代の転出で特に顕著なのは、大学を卒業して就職するとき。天野さんによると、広島県では新卒就職期の女性が男性の1.9倍転出している。
就職による移動先で注目される東京。2024年、全国から東京にやってくるいわゆる「転入者」が前年比で約1万人増加した。
強まる東京の一極集中。その原因を、天野さんは次のように分析する。
「東京エリアの企業はオンラインを使ったリクルートが普通になっています。オンラインで新卒や中途採用をひきつける宣伝をして、ものすごい勢いで若い世代に寄り添って採用しようとしている。今の若者は紙を見たり、テレビや新聞を見て就活するわけではない。インターネット上のいろいろな仕組みを使って企業にたどり着いているんです」

さらに、転出の“意外な傾向”を指摘。
「敵は東京と思っているかもしれませんが、違います。愛知・大阪・福岡の“雇用者の仕入れ先”のベスト3、ベスト3、ベスト5は広島。すごく送り出している」
就職による転出は東京以外の都市部にも及んでいるというのだ。
“人口供給地”からの脱却目指す
転出超過を止めるために、広島県が取り組むべき課題とは?
「地方大都市20代人口供給地からの脱却です。地元人口の未来は広島の企業の雇用改革が作ります」と天野さんは呼びかける。さらに、「人口減少対策で前面に出るのは企業だという考えに振り切ってもらいたい。勝負は22歳です!」と県内企業の意識がカギになることを強調した。

セミナーでは県内在住の20代女性も本音を語った。
学生団体シードットの江口ひかる副代表は「幸せな家庭も欲しいしキャリアも築きたい。それをどこで実現できるんだろうと思ったときに、私たち学生や若者などにも偏見がある。広島ではできないだろうと勝手に思っている部分がいっぱいあります」と若者の思いを代弁。

また、セミナーに参加した「ひろぎんホールディングス」の木村麻子執行役員は「これから結婚をして子どもを産む可能性がある人が、これだけ県外に出ている。その人たちが県外に出ていくことを阻止できれば少子化はかなり改善するはずなのに、それを『できていません』と言われたと思っています。われわれが企業として本当にやらないといけないことは何なのかがすごくわかった。ちょっと焦りも感じました」と話す。
広島県が抱える転出超過の問題点が明らかになってきた。県内企業の「雇用改革」が地域の未来を左右する。若者が“広島で働きたい”と思える雇用環境の整備が求められている。
(テレビ新広島)