アメリカのトランプ政権による中国への関税145%はアメリカの中小企業にも打撃を与えている。中でもおもちゃ業界では早くも“クリスマス危機”が迫っているという。

多くのおもちゃは「Made in China(中国製)」
多くのおもちゃは「Made in China(中国製)」
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アメリカおもちゃ協会が18日、会員に実施した緊急アンケートの結果を公表した。それによると業界の96%を占める小~中規模のおもちゃ店(410社)の半数近くが「数カ月以内に廃業する」と回答。深刻な現状に衝撃が広がっている。

【緊急アンケートの結果】
●「数週間/数カ月以内に廃業する」
 46%(小)・45%(中)

●「注文を遅らせている」
 81%(小)・87%(中)
●「注文をキャンセルしている」
 64%(小)・80%(中)

仕入れを増加し“先手の対策”

ニューヨーク市マンハッタンにある小さなたたずまいのおもちゃ店「Mary Arnolds Toys」は1931年に創業し、今も丁寧な接客と品揃えで地元に愛されている。客足は途絶えないが、ここも「トランプ対中関税」の現実に直面している。

エズラ・イシェイクさん「店内85%~90%は中国からの輸入」
エズラ・イシェイクさん「店内85%~90%は中国からの輸入」

「これが続いたら最悪だよ。うちは商品の85%から90%が中国からの輸入だから」
すでに仕入れ値は上がり始めていて、経営者のエズラ・イシェイクさんは困り顔だ。先手を打って最近、通常より50%増しでおもちゃを仕入れたという。保管場所は一杯だ。

「モノポリー」のピカチュウの駒など一部が中国製
「モノポリー」のピカチュウの駒など一部が中国製

店内のおもちゃを手に取ってひっくりかえすと、確かに中国製が多い。ニューヨーク市警のパトカーのおもちゃや人形、パズルなど、どれも「Made in China」だ。アメリカ生まれの有名なボードゲーム「モノポリー」もアメリカ製かと思いきや、駒など一部は中国製だった。

サプライチェーンの現状から「国内製造」には壁

トランプ政権の関税の狙いは「アメリカ国内に製造業を戻すこと」だが、おもちゃ協会によると、特に人形の顔を手で描いたり、髪の毛を埋め込んだりするような細かい作業ができる職人がいる工場はアメリカにはなく、これから製造拠点を作るには3年から5年かかるのが現状だという。

1931年創業の老舗「Mary Arnolds Toys」の店内
1931年創業の老舗「Mary Arnolds Toys」の店内

イシェイクさんもその構想には否定的だ。
「手がかかる労働を伴う商品は、その昔…何年も前にアメリカから撤退した。おもちゃは利益率が低く、人の手がかかるものだから、戻ってくるとは到底思えない」

娘と来店の女性「アメリカでおもちゃ製造は現実的ではない」
娘と来店の女性「アメリカでおもちゃ製造は現実的ではない」

娘と来店していた若い母親も、アメリカでおもちゃの製造を行うのは現実的ではないと語る。

「アメリカに製造を戻すのは現実的ではないと思う。これほど多くの国にサプライチェーンがまたがっているのには訳がある。アメリカを拠点とする企業を作り、課税を少なくし、アメリカのためにビジネスを行うインセンティブを与える必要があるが、個人的には同時に流通を現状のままにする必要があると思う」

早くも“クリスマス危機”高騰や品薄も…「関税除外」要求

おもちゃ協会のグレッグ・エイハーン代表兼CEOは危機感をあらわにしている。2025年のクリスマス商戦に間に合わせるためには、おもちゃは4月~6月の間に製造されていなければならない。しかしこの状況を受けて一部の大手の小売業者は注文をキャンセルし始めていいて、早くも“クリスマス危機”だという。

おすしの木製パズルは中国・寧波で製造
おすしの木製パズルは中国・寧波で製造

スマートフォンや半導体などと同じように、おもちゃを関税の対象から除外してもらえないのか。協会は「おもちゃは子供の発達と早期の教育に不可欠なものだ」とした上で、日本を含む世界各国の協会と連携して、おもちゃを除外する署名を呼びかけるとともに、トランプ政権への働きかけを続けている。

店内は平日でも客が絶えない
店内は平日でも客が絶えない

長年の経験からかイシェイクさんは、いずれ米中のどちらかが折れて関税は20%程度に落ち着くと踏んでいる。「(米中)双方が負けることになるから」と冷静だ。ただ、生き残りもかかっている。「関税を一部負担する準備はしているが…いざとなったら値段を上げざるを得ない」と本音も漏らした。
クリスマスまで待たずとも、消費者の財布に影響が出そうだ。
(取材・執筆:FNNニューヨーク支局長 弓削いく子)

弓削いく子
弓削いく子

心身を整えるためにヨガをこよなく愛す。
Where there’s a will, there’s a way.
FNNニューヨーク支局長。ニューヨーク市生まれ。1993年フジテレビジョン入社、警視庁、横浜支局、警察庁、社会部デスクなど、駆け出しは社会部畑。2010年からはロサンゼルス支局長、国際取材部デスクを経て現職。