南海トラフ地震の避難者は最大1230万人にものぼるとされており、建物やライフラインの被害により避難生活の長期化が想定される。そこで災害関連死が直接死を上回る能登半島地震の避難状況から学ぶべきこと、取り組むべき課題を探ってみた。
専門家が「本気の対策」を呼びかけ
2025年3月 南海トラフ巨大地震の新たな想定を示した専門家は強い危機感を表し、「地震の被害を減らさない限り、この国の将来は非常に危うい。本気になって対策を進めて欲しい」と訴えた。

激しい揺れと巨大な津波…さまざまな備えが必要になる中、改善が急がれる対策の一つが 避難所の体制整備だ。
南海トラフ巨大地震の避難想定は最大1230万人で登半島地震の約5万2千人や東日本大震災の約47万人と比べると、ケタ違いの規模となる。

また能登半島地震の場合、避難生活などで命を落とす災害関連死は、直接死の1.5倍以上の372人となる見通しで避難所での厳しい現実が伺える。
過去の経験は活かされているのか
石川県輪島市で被災した平田真由美さんは、母親のあつ子さんを亡くした。足が不自由で、自力で避難できなかったあつ子さんは1月3日に自衛隊に救出され、避難所に身を寄せたが、そこで容態が急変し2日後に病院で息を引き取った。死因は「低体温症」だった。

「いつも寒がらないお母さんが寒がって、低体温症になっていて、物資とかも何もなかった。布団、毛布もなかった。用意もしていなかったし準備も何もなかったから」と平田真由美さんは悲痛な胸の内を吐露した。
東日本大震災を経験している宮城県から支援に入った石巻赤十字病院・植田信策 医師は「床というのは、体温がどんどん奪われて行って低体温症になりやすい。また十分な食事がとれないと、体温を作れないということもある」と話したあと「土足のまま雑魚寝している。東日本大震災と基本的に変わっていないことがショックだった」と振り返った。

被災者がまず身を寄せる学校や公民館は 「1次避難所」と呼ばれる。これに対し、ライフラインの整ったホテルや旅館は「2次避難所」と呼ばれる。
地震のあと、石川県が力を入れていたのが、1次と2次の間に位置付けた「1.5次避難所」の開設だ。金沢市にあるスポーツ施設には、250のテントが用意された。
災害福祉支援チームが果たす重要な役割
施設が開設された1月8日、静岡県立大学・短期大学部で、社会福祉を研究する鈴木俊文 教授は現地に入った。

介護福祉士や保育士、心理士などでつくる災害福祉支援チーム「静岡DWAT」のアドバイザーとして、高齢者・障害者、妊婦など配慮が必要な人の心身の状態の聞き取りや、避難所の環境改善を図るためだ。
日頃ベッドで寝ている人が体育館で寝るとなった場合、床から立ち上がる、寝るという動作は簡単な事ではなく、特に高齢者にとっては、それが骨折の原因になったり、いろいろな問題が生じるそうだ。

そのため段ボールベッドで動作を少なくし、靴を履き替える場所にイスを設置するなどの対策が必要となる。
また不調を口にせず我慢する人もいるため、聞き取りだけでなく観察も重要となる。
鈴木教授は「歩行が不安定な人で、食事を取りに行くのも難しいということであればトイレに行くのも大変と容易に想像ができる。トイレに行くのが大変と思われる人であれば水分を控えているかもしれないと、専門職者は考える」としたうえで「医療や保険、福祉の支援者が常駐している環境の中で、避難生活を一定期間継続できることは非常に大きかった」と活動を総括した。
長期化する避難生活への対応を
南海トラフ巨大地震で想定される避難者は全国で最大1230万人、静岡県内では159万人で2.2人に1人の計算だ。

鈴木教授も「避難は1日、2日で終わる訳ではなく、1週間、2週間、3週間と続く。本気で考えるべきなのは、初動として逃げるところと、避難生活が長期化する場合にどのように対応するか。二つをそれぞれの立場で考えていかないといけない」と警鐘をならす。

揺れ・津波が収まったら終わりではない。救えたはずの命、助かるはずの命を守るため、「本気になった対策」が、いま強く求められている。
(テレビ静岡)