中国の世界最大級のiPhone工場が、トランプ政権による新たな関税方針の影響を受けている。従業員の間では収入減やリストラへの不安が高まっている。専門家は、iPhoneのアメリカ国内生産は現実的ではなく、供給体制の見直しは長期的と指摘している。

中国のiPhone工場…「関税」で不安と混乱広がる

トランプ政権がスマホを含む新たな関税の導入に動く中、大きな影響が予想される、中国にある世界最大のiPhone工場を取材した。

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沖本有二記者:
大勢の従業員が吸い込まれていくこの先に、「iPhoneシティー」と呼ばれる工場エリアがあります。

中国中部の河南省鄭州市(かなんしょう・ていしゅうし)にある「フォックスコン」鄭州工場。

面積は約560万平方メートル、東京ドーム約120個分にも及ぶ広大な敷地で、20万人以上の従業員が働いている。

ここで生み出されるのが、日本ではシェア6割を超えるという「iPhone」だ。

アメリカ・アップル社から製造を請け負っているフォックスコン。ここで組み立てられるiPhoneは、世界全体の半数以上にのぼり、アメリカはもちろん、世界に向け輸出されている。

地元メディアによると、この工場は、1億人近い人々が暮らす河南省全体の輸出額の6割を占めているといい、まさにiPhoneが地域経済の根幹をなす存在となっている。

ところが、従業員は次のように話す。

従業員:
月給は6万円ちょっとです。今は残業がないので、早く帰ります。「(関税の)影響」があると話している人もいます。

従業員:
「(関税の」影響」があるかもしれません。人手がいらなくなって、リストラされる危険もあります。

従業員が口にするのは、アメリカ・トランプ大統領が乱発する「関税への不安」だ。

「フォックスコン」鄭州工場
「フォックスコン」鄭州工場

トランプ政権による中国への関税率が合わせて145%となった4月初旬、中国メディアによると、実際この工場では、減産や生産停止などへの懸念からか、従業員の新規採用をいったん停止したという。

その後、スマートフォンなど一部の電子製品が相互関税の対象から除外されたことを受け、従業員の採用も再開したが、迷走する発言に先行きは不透明だ。

閉じたまま海外輸出の窓口
閉じたまま海外輸出の窓口

沖本有二記者:
海外輸出の窓口とみられますが、閉じられたままで、作業している様子はありません。

従業員:
ここは暇で人が余っているので、人手が足りない別の工場に応援に行かされています。トランプは商売人で、みんなと考え方が違うので、理解ができないこともあります。

従業員:
経済的には中国にもアメリカにも損なのに、子どもじみたやり方です。

スマホを含む新たな関税について、「1、2か月後に導入する予定」とも説明しているトランプ政権。世界経済に混乱をもたらしているトランプ関税の行方が、iPhoneシティの命運を握っている。

iPhoneの国内生産は困難…複雑な供給網とコストが障壁に

「Live News α」では、エコノミストの崔真淑さんに話を聞いた。

堤礼実キャスター:
多くの人が使うiPhoneの先行きも、難しい状態ですね。

エコノミスト・崔真淑さん:
対中関税は、相互関税で125%、追加関税で20%と米中関係は悪化しています。トランプ氏の狙いは、海外に移った生産拠点をアメリカに戻すことです。

ただ、一部のアナリストの試算では、もしもアメリカに完全に戻したとするなら、人件費の高さから90%もコストが上昇するのではという見解も出ています。

しかし、現実的には、いくらお金を積んでも、すぐにはアメリカ国内だけでiPhoneを大量生産するのは、不可能に近いとの試算もあるんです。

堤キャスター:
その不可能に近いというのは、どういうことでしょうか。

エコノミスト・崔真淑さん:
ウォール・ストリート・ジャーナルが非常に興味深い試算を紹介しています。アメリカ・デューク大学の名誉教授で、グローバル製造業を数十年にわたり研究しているゲーリー・ジェレフィ氏によれば、iPhoneの部品は40を超える国々で製造され、最も複雑で専門的な部品は約6カ国から調達されていると指摘しています。

そして、これらの部品の多くは中国で製造されていて、作業に携わる人の数においても、技術力においても、中国にかなり依存しながらiPhoneは成立しているということです。

仮に、アメリカでiPhoneを組み立てようとした場合、現実的な施策は、主要部品のみの製造の一部を北米地域に移すこと。ただそれでも、3年から5年は必要だとジェレフィ教授は指摘しています。

アップルの巨額投資、iPhone生産は含まず株価下落も

堤キャスター:
アップルは、アメリカ国内に巨額の投資をすることが決まっていますよね。

エコノミスト・崔真淑さん:
確かに、アップルは2025年の2月に今後4年間でアメリカで5000億ドル、日本円で約75兆円以上を投資すると発表しています。

しかし、これはあくまでもAIサーバー製造のための投資であって、iPhoneに関しては含まれてはいないと報道されています。

そのため、アップルは20%以上も株価が低迷しています。世界のハイテク企業の競争にも、私たちの生活にも、関税政策は大きな影響を及ぼしそうです。
(「Live News α」4月21日放送分より)