新型コロナウイルスの感染拡大で、全国で普及が進む遠隔手話通訳。岡山県でも10月からの本格導入に向け、準備が進んでいる。

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医療現場で普及し始めた遠隔手話通訳

8月29日に長野県で起きたオートバイの自損事故。
運転していたのは、聴覚に障害がある東京都の女性だった。

看護師:
喉が渇いたら遠慮なく呼んでもらっていいので。どんなことでも呼んで下さい

患者:
(手話で)わかりました

手話通訳者:
わかりました

病室で看護師が手にしているのはスマートフォン。
離れた場所にいる手話通訳者が、ビデオ通話機能を使い、遠隔で手話通訳することで、救急車の中や病院でのやり取りに対応した。

篠田吉央アナウンサー:
遠隔手話通訳を使ったのはなぜですか?

事故をした聴覚障害者と一緒にいた女性:
(事故当時)周りには聴覚障害者しかいなくて、とても困り、不安でした。救急隊員は手話ができず、口の形も読み取れないので、コミュニケーションが取れなかった

この遠隔手話通訳は、岡山市内でもすでに銀行や区役所の窓口で導入されているが、新型コロナウイルスの感染対策として、病院などを訪問する際に、市町村が派遣する通訳の現場でも活用が期待されている。

マスクだと口の動きが見えないため伝わりづらい

薬局を訪れた聴覚障害者:
花粉症なんですが、薬はどこにありますか?

手話でのコミュニケーションは、手の動きだけでなく、表情や口の形からも多くの情報が伝わる。
しかし、新型コロナの感染対策で、マスクを着けると情報量が制限される。

派遣された手話通訳者:
(マスクを)とろうか?すみません。マスクをかけていると(聴覚障害者が)口形の読み取りをしにくいので、マスクを外して対応します

通訳派遣を受けた聴覚障害者:
マスクがあると表情やニュアンスがわかりにくいので、マスクはない方がありがたい。通訳者にも新型コロナウィルス感染の心配がある

こうした状況から、国は、離れた場所で通訳をする遠隔手話通訳は、コロナ禍に有効だとして、コロナ対策の補正予算で、都道府県に整備費6億円の交付を決定している。

岡山県は、このうちの520万円を使い、県内21の市と町向けにタブレットを購入するなど、10月からの運用を検討している。

個人情報などのセキュリティ部分も課題

岡山県障害福祉課・中村賢三課長:
一番大事なのは、システムの利便性とセキュリティーの部分。あと出てくるコストのバランスを検討中

県は、現在、聴覚障害者が新型コロナに感染した場合に備え、フリーソフトを使った通信手段を試験的に導入しているが、使いやすさや通信の安全性を求める聴覚障害者団体などの要望を受け、10月からの本格運用では、システムの変更を含め検討している。

新たな方法を模索するのは、聴覚障害者や手話通訳者も同じ。研修会を開いて、アプリや特別なソフトをダウンロードしなくても手軽に使えるシステムや、海外での運用例について学んでいる。

岡山市聴覚障害者協会・佐藤浩行会長:
手話通訳者と聴覚障害者が安心して使えるのが一番大切。そういうシステムになれば良いと思う

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 川森雅仁特任教授:
政府が言っているデジタルトランスフォーメーションの流れや、コロナ禍で非常に早くなっているオンライン化を考えると、遠隔医療やオンライン診療、遠隔授業など、様々な場面で遠隔化が進むことが想定される。その時に聴覚障害者が、オンライン化に取り残されないためにも、遠隔手話通訳は、非常に重要なものだと思います

研修会の講師を務めた慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の川森雅仁特任教授は、最も重要なのは、システムのセキュリティーだと考えている。

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 川森雅仁特任教授:
障害者の方たちの個人情報は要配慮個人情報で、特に守らなくてはいけない大切な情報ということになっているが、そういう情報がどこかに蓄積されていないか、あるいは知らないうちに第三者に渡されていないか、今まで対面ではあまり問題にならなかったことが、通信を介在させることによって、安全性の問題が出てくることが非常に考えられますので、そういう意味でもセキュリティーは非常に大切なもの

そんな中、新たな対応策を打ち出した病院が津山市にあった。

篠田吉央アナウンサー:
こちらの病院では、セキュリティーを強化した遠隔手話通訳を導入しています

医師:
体調が悪いのは具体的にどのあたりですか?食欲がないですか?それとも熱が出たりしてますか?

患者役の聴覚障害者:
気温が高くなると、夏バテしてしまいます

これまでは、市役所にいる手話通訳者と診察室とをネットで結んでいたが、病院内に通訳ブースを設け、物理的に通訳内容が病院の外に出ないようにした。

津山中央病院グループシステム部・村上公一部長:
病院の部屋の中で手話通訳をしているので、周りに(診察内容が)聞こえないのと、病院内のWi-Fiを使っているので、データが暗号化され、盗聴されることもない

津山中央病院総合内科・感染症内科 藤田浩二特任部長:
検査をして情報を得ることと、体を診察して情報を得ることと、どういう生活をしていたのかなど本人しか知らない情報があって、それを一番表現しやすい手段が手話であれば積極的に取り入れるべき

遠隔手話通訳の本格導入まで1カ月を切る中、コロナ禍での正確な情報伝達のための模索が続いている。

国は、オンライン診療に遠隔手話通訳の参加を新たに認めている。

【編集後記】

岡山放送では、毎月1回「手話が語る福祉」という特集を夕方ニュースで放送しています。
この特集の1回目の放送は、1993年2月。27年前のことです。
初回は、聴覚障害がある夫婦の家にホームステイをして手話を学ぶ大学生がテーマ。この内容を1人でも多くの人に伝えたいと、手話通訳をつけて放送したのです。

第1回放送

以来27年、代々のキャスターが手話を覚えて取材を進め、手話ができるカメラマンが撮影・編集を行い、約270回にわたり放送してきました。

私は2018年からこのコーナーを担当していますが、相手の気持ちや言葉の意味をくみ取り、手の動きなどで表現する手話は、アナウンサーとしても学びの場となり、「音のない世界」で伝えることの意義に気づかされています。

コロナ禍でマスクが意思疎通を困難にしている問題も聴覚障害者との交流の中で気づき、特集化したもので、今回が第4弾。遠隔手話通訳への理解普及とともに、医療現場だけでなく災害現場などでも活用が進み、情報のバリアフリー化が進むことを願っています。

手話収録風景

「手話言語条例」が成立し、講演会に手話通訳が、国会の答弁でも手話が入るようになり、聴覚障害者を取り巻く環境は変化しています。
「手話は言語」という理念のもと、放送を通じて27年間見続けてきた障害者福祉の現場。障害者への理解が深まるよう、寄り添っていきたいと思います。

「手話が語る福祉」担当アナウンサー篠田吉央

(篠田吉央 岡山放送アナウンサー)